大間マグロの謎を解く③漁業法違反を「もみ消す」前科~青森県の指導・監督に甘さ
静岡市中央卸売市場に入荷した大間産マグロは2021年8月、9月の2カ月間でおよそ60トンにのぼります。出荷したのは大間の産地仲買人のS社とU社です。静岡市場の卸2社のうち日本水産が大株主に名を連ねている三共水産に販売を委託しました。
60トンという数量は大間町の漁業者に認められた年間のクロマグロ漁獲上限量(大間、奥戸の2漁協合計で約270トン)の2割超にあたります。
時期は夏場です。年末・年始の需要期のように高い値段で売れるシーズンではありません。
出荷先は静岡市中央卸売市場です。大間マグロを扱うこと自体珍しいという地方の市場です。
漁獲量には天井が設定されているのですから、かしこい漁業者なら値段の安い夏場、しかも買い手が少ない地方の卸売市場に出荷しません。2カ月で約60トン、月間30トンというペースで静岡市場に大間産のクロマグロが入荷すること自体、プロなら疑いの目で見るはずです。
異変を察知した水産庁は青森県に伝え、調査を求めました。そしてその青森県は2021年9月14日から調査を始めました。県の調査はその後、9月22、27、28の各日にも行われました。
長いもので数ページある調査記録はいずれも黒く塗りつぶされて非公開です。しかし、行政文書に残されたわずかな文言から、調査対象は漁協以外に複数あり、事業内容、事実関係(内容、それに対する認否)、再発防止策などについて事情聴取したことがわかります。漁業者から出荷を委託されたS社、U社も調査対象になっていたものとみられます。
10月5日には県農林水産部の山中崇裕・水産局長、白取尚美・水産振興課長というマグロ資源管理の最高責任者が、おそらく大間漁協の坂三男組合長(当時、2022年2月没)でしょう、調査対象と面談し、行政指導を行っています。
調査の結果などは非公開扱いです。しかし、未報告の届出の様子は新聞が報道しました。11月上旬の東奥日報や朝日新聞の報道によると、2021年6-8月分で8.3トン、さらに9月分で6トンの漁獲報告漏れが判明し、大間漁協が青森県に修正報告したということです。
両紙は2020年度にも大間漁協で2.6トンの報告漏れがあったと指摘しています。
漁獲報告の義務を負うのは漁業者で、それを怠れば罰金や懲役という刑事罰の対象にもなります。しかし、水産庁も、青森県も、漁業者がヤミ漁獲(漁獲隠し)という法令違反を自発的に追加報告する体裁を整えて、この不祥事を世間に公表することなく、闇に葬り去ろうと考えていたのかもしれません。「漁業者が報告義務を知らなかった」とか、「漁協の指導が足りなかった」とか、言い訳させて。
実際、2020年度に別の漁協でこんな事例がありました。
その漁協に所属する漁業者は、定置網に入ったクロマグロの漁獲を県に報告していませんでした。漁協が2020年11月19日付で青森県に提出した「クロマグロ採捕修正報告について」とする文書では、定置網で水揚げしたクロマグロを大勢の作業員へのお礼として配り、一部の死亡個体は廃棄したとしています。
いずれも漁獲として報告すべきものです。漁協は翌20日に提出した別の文書では「(漁業者に対し、未報告は)法令違反となり、承認の取り消し、六月以下の懲役または三十万円以下の罰金、国からの補助金の返還(漁業共済金、沿岸漁業改善資金、競争力強化型機器導入事業、漁船リース事業等)の罰則となり、そうなれば廃業となることもあり得ることを周知し、未報告があれば提出するよう求め、今回の修正報告となった」と説明しています。
そして、漁業者が報告しなかったのは、「漁獲枠の減少を避けるため」だったとまではっきり書かれています。しかし、青森県が検察への告発を検討した形跡はまったくありませんでした。事後的な報告の修正という形で漁業者の責任を問いませんでした。つまり、不祥事の「もみ消し」です。
見つかっても事後報告すれば、見逃してもらえる。青森県の監督姿勢の甘さを県内の漁業者は見透かしています。
大間でのヤミ漁獲の横行の責任の一端は青森県にあります。