「いまでも指導監視の対象外」として繁殖引退犬猫を「数値規制」から外す超党派動物愛護議連と環境省の奇妙な愛護感覚
1、審議会で数値規制から除外と説明
繁殖から引退した犬や猫は、来年6月に実施する数値規制から除外するという環境省の方針を知ったのは10月7日でした。
中央環境審議会動物愛護部会に提出された省令案に「親と同居する子犬又は子猫の頭数及び繁殖の用に供することをやめた犬又は猫の頭数(その者の飼養施設にいるものに限る。)は除く」と書き込まれていたのです。
環境省の数値規制案の多くは、同省が設置した動物適正飼養管理方法検討会(武内ゆかり座長)の報告や、超党派の犬猫の殺処分ゼロをめざす動物愛護議員連盟(尾辻秀久会長)の要望書の内容をもとにしたものです。
ところが「引退犬猫」の取り扱いは検討会でも議連でも議論されず、議事録にも報告でも言及されていません。何故か、審議会に示された数値規制の環境省令案でその除外規定が突然追加されたのです。
恩恵を受ける側のブリーダーからさえ「骨抜きがいくらでも可能」と危惧する声が出ています。理由や背景がわからないからです。
おいしい話にはワナがある?
タダより高いものはない?
専門家検討会座長の武内ゆかり東大教授が提唱する優良な業者への上限値緩和(悪質業者への強化)の方が好ましいという声も多く出ています。
私もパブリックコメントで、一人当たりの飼養頭数制限から引退犬猫を除外するならせめて現役の繁殖犬猫同数以下に抑え、それも段階的に減らしていくようにしなければ規制が意味をなさないと指摘しました。
2、違法な「処分」回避が目的?
その理由について、環境省の長田啓動物愛護管理室長は中央環境審議会の質疑の中で次のように説明していました。10月7日開催の動物愛護部会議事録から抜粋します。
「引退したものについては、これは頭数規制に入れるとなれば、飼養施設からはじき出されるということになります」
「見えないところで飼われてしまうとか、当然違法ですけれども、そこで処分されてしまうというようなことも起こり得るということで、引退した犬・猫については、今回の飼養頭数の基準の中には、算出には含めないというのになっております」
「平成24年の改正の中で、事業者に終生飼養の義務が課されましたので、これは終生飼養の義務が課されながら一人15頭なりの基準を満たしてくのは並大抵のことではないというふうに思っております」
引退犬猫はブリーダーにとって利益を生まないお荷物のようだから規制から外してあげたんです、と言っているように聞こえます。
3、引退犬の家庭への譲渡も期待
その後にはこんな説明も続きます。規制からの除外は「引退犬猫を一般家庭で飼ってもらえるようにした」という期待をこめての総合判断の結果だというのです。
少し長くなりますが、発言通りに掲載しておきます。
「実際に繁殖を引退している犬を全て抱えている事業者というのは基本的にはいないというふうに考えておりますし、全体として考えたときにはやはりそういった犬についても、最終的には一般の家庭に譲渡されて残りの暮らしを、人にも幸せを与えながら過ごしていくというのが一つのあるべき姿なのかなというふうに思っていますので、そういったことも含めて総合的に考えたのが今の案という形になっているところでございます」
総合判断、つまり環境省の室長は、さまざまな事情を勘案したことを審議会で打ち明けているのです。
4、環境省は「明確にしただけ」と説明
引退犬の除外はとても大きな影響を与えます。
審議会のあと、環境省に念のため問い合わせたところ、「もともと想定していたものを明確化したものであり、省令案を示した段階で除外したということではありません」という返事が返ってきました。
しかし、これまでの検討過程で一度も話題になっていないのではないかという問いに対しては、担当の動物愛護管理室も「文書として記録に残ったものは、こちらで把握している範囲では、ありません」と認めています。
それでも「記録はないものの、もともと想定していた内容を57回の審議会で明確化したものであります」というのですが、総合判断したという審議会答弁とは矛盾するような印象を受けます。
5、もともと「監視対象外」という議連
環境省が採用した上限値の案をまとめた超党派の動物愛護議連はどう考えているのでしょう。事務局を務めている福島瑞穂議員の国会事務所に問い合わせてみました。
質問 超党派の議連案では、犬のブリーダーは繁殖犬15頭とありますが、これは引退犬を除いた頭数として要望されたものでしたか?猫については繁殖猫という表現がないので、これも同様に確認させてください。
(いずれの場合も、参考にした国のルールでも同内容でしょうか?)
回答 ①動物愛護法第21条の5に基づき、動物販売業者等は、取り扱う個体ごとの帳簿を作成し、5年間保存しなければならないとともに、毎年1回、取り扱われた個体数の出入りの状況(生まれた数、購入した数、引き渡した数、死亡した数等)について、都道府県知事に「動物販売業者等定期報告届出書」を提出しなければならないこととされている。
②同届出書では、繁殖等を引退した数は「年度中に販売若しくは引渡しをした動物の数」に計上する運用がなされており、いわゆる引退犬及び引退猫はこれに該当することから、引退犬及び引退猫は「動物取扱業者としての」自治体の指導監視の対象から元来外れている。
③こうした経緯も踏まえて、当議連の要望書等で取り上げている、従業員1名当たりの頭数制限である『繁殖犬15頭』『繁殖猫25頭』は、現に繁殖の用に供している犬と猫の数に限定するものであり、「動物取扱業者としての」自治体の指導監視の対象外である引退犬及び引退猫は当然含まれない。比較対象とした諸外国の頭数制限等の規定については、我が国と制度や運用に違いがあるため、我が国の商慣行に極力合致させた形で、諸外国の規定を参考に、要望書等にまとめたものである。
④ただし、引退犬及び引退猫の頭数が10頭を超える場合には、動物愛護法第9条に基づき、地方公共団体の条例に基づく多頭飼育の届出制の対象となる場合があることと、改正後の第25条第4項と第5項に基づき、飼養動物が虐待を受けるおそれがある場合には立入検査や改善命令等が行えるようになるため、繁殖から引退させているか否かにかかわらず、動物取扱業者が飼養する「犬猫の飼養者としての」自治体の指導監視の対象に含まれている。それゆえ、引退犬及び引退猫の適正飼養に対しても、一定程度の実効性は確保されていると考える。
以上のような内容です。従来も引退犬猫は指導監視の対象から外れている、だから新しい数値規制でも対象から除外するという考え方は、理解に苦しみます。
6、引退犬を統計から外す不思議
従来は監視対象外だったとしても、それは誤りだから、飼養頭数すべてを把握した上で適正管理を促す、というのが本来あるべき姿ではないでしょうか?むしろペット業界の人々の方がそのような捉え方をしている点で常識に近いと思いました。
環境省が書式を用意し、動物取扱業者が年一回、都道府県知事に提出する報告で、繁殖引退犬猫がいないも同然の扱いを受けていることを私が知ったのは、つい最近です。
愛知県が業者向けに公表した記載例を偶然目にして、愛知県に問い合わせていたのです。
質問 愛知県動物センターの届け出書類一覧をみていて、同報告書7の「年度中に販売もしくは引退した犬及び猫の月ごとの合計数」の箇所に、繁殖犬(または猫)が引退した場合もそこへ書き込むよう説明があります。引退後飼養を継続する場合、継続しない(外部に譲渡する等)の違いはどのように考慮すればよいのですか?
回答 犬猫等販売業者定期報告書は、第一種動物取扱業で取扱う犬猫の数を集計し、
報告する書類です。集計の対象となる犬猫は以下のとおりです。
・販売のために飼養する犬猫(出生した犬猫を含む)
・繁殖のために飼養する犬猫
繁殖させなくなった犬猫で、販売対象にしない場合、集計対象から除外されるため、
事業者が継続して飼養する場合であっても、引渡しと同様と見なし、報告書の7に計上していただいています。
ざっとこんなやりとりです。
7、むしろ引退犬猫の実態把握こそ
いったいいつからこんな報告の集め方を続けているのでしょう。動物取扱業者にも終生飼養の責任があります。ブリーダーの手元にいる引退犬は、かつてのように自治体が引き取ることはありませんし、山の中に遺棄したりすれば犯罪ですから、かなりの頭数が役目を終えた後も業者の手元で過ごしているはずです。
環境省が都道府県を通じて把握すべきはその実態であるはずです。報告の書式から抜け落ちていることこそ問題視しなければなりません。
動物愛護をライフワークとする塩村あやか議員にも質問を送ってみました。今のところ回答はありません。本当に彼女ら動物愛護議連のメンバーたちは、数値規制の対象から引退犬を除こうと考えていたのでしょうか? (続)
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