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教えて大西さん、ピースワンコのこと⑰「外に向けて説明したい」という広島県の方針にPWJは賛成?それとも反対?

1、県職員がPWJを訪問し、相談する

 県としては、現在の安楽死の条件を見直して致死処分を再開せざるを得ない(このことは公表する必要があると考えている。)

 広島県食品生活衛生課の中村満・担当監(現・広島県動物愛護センター所長)ら動物愛護関係職員4人が、最短距離でも県本庁舎からおよそ120km離れた神石高原町のNPO法人ピースウィンズ・ジャパン(PWJ、大西健丞代表理事)事務所を訪問したのは2019年11月29日(金)のことでした。

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 用件は「犬の収容増への今後の対応(協議)」です。冒頭にご紹介したような、広島県動物愛護センターの収容犬の取り扱い方に関する新しい方針を伝えることが最大の目的だったようです。

「犬の収容増」とは、ふつうに考えればPWJの保護犬活動「ピースワンコ」のシェルターでの収容増への対応だと思われます。しかし、ピースワンコが受け入れ頭数の制限を2019年度から始めたことを考えれば、引き取り手がみつからないまま県動物愛護センターの施設内に滞留する収容犬のことを指す可能性もあります。

  この点が気になったので、8月11日、中村満・県動物愛護センター所長に確認してみたところ、ここでいう「収容増」とは県動物愛護センターの状況を指し、増加の要因はピースワンコによる引き取り頭数制限が2019年度から始まったことにある、ということでした。

2、「収容増」を「致死処分」で解決?

 野良犬の繁殖防止が進まず、新たに収容される犬の頭数が減る兆しがないため、両者にとって収容増への対応は悩みの種であることは間違いありません。

 広島県に情報公開を請求して入手したこの文書からは重要な事実、つまり、「収容増」への対応が「致死処分の再開」「安楽死の条件見直し」と結びついているということがわかるのです。中村所長も「見直し案は環境省の案を取り入れたものだ」として、殺処分ありきで方針を見直したものではないとしつつ、ピースワンコとの協議は、愛護センターで引き取り手のない犬の収容頭数が増え、致死処分を再開せざるを得ない状況になってきたことがきっかけだと認めています。

 言い換えれば、2016年度以来、PWJ/ピースワンコが宣伝してきた「殺処分対象の全頭引き取りによる殺処分ゼロの実現」が実質的に崩壊していることを確認する協議の記録であるともいえるでしょう。PWJ側の出席者氏名が「黒塗り」で伏せられていますが、代表理事の大西健丞氏は仮に出席していなくても部下たちから報告を受けて、内容はよく知っているはずです。

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 協議にあたっての手持ち資料として県側が作成した「別紙1」(写真)に県側の考えがまとめられています。見直しの前(11月29日時点での「現状」)と後(同じく「今後」)の違いは、「重度のけがや病気で治癒の見込みのない犬」に限って安楽死させていたものを、今後は「譲渡することが適切ではない犬」と変更したことで、実質的に対象を拡大する内容です。

3、「譲渡適性」によりふるい分け

 出張報告(復命書)は大半が黒塗りですが、広島県は2020年6月施行の改正動物愛護管理法や改正動物愛護管理推進基本指針(動物の愛護及び管理に関する施策を総合的に推進するための基本的な指針)などに言及しています。

 いずれも犬や猫などの適正飼養を徹底させることを目的にしていて、2019年の動愛法改正では、動物取扱責任者要件を厳しくし、適正飼養の数値基準も定めることになっています。

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 関心が高い「殺処分ゼロ」についても自治体や愛護団体によってとらえ方が大きく違う現実を踏まえて、「表」(写真)のような3つの分類を示したうえで、特に2に属する犬猫の譲渡・返還に注力し、令和12年度(2010年度)の殺処分数を平成30年度(2018年度)比50%減となるおおむね2万頭を目指す方針を示しています。
 
 広島県は環境省の中央環境審議会動物愛護部会の議事要旨などの資料を「別紙2」としてPWJにも手渡したうえで、県動物愛護センターの安楽死条件を見直す方針であることを伝え、見直しを実施する場合は「外に向けて説明していく必要がある。PWJにも実施していただく必要がある」と申し入れました。

4、現況の説明を渋るピースワンコ

 

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 環境省の調査(2016年度)によると、「殺処分ゼロ」を目標にしている自治体42団体のうち、ゼロの対象範囲を「引き取ったものすべて」とする自治体は14団体、「引き取ったもののうち譲渡適性のあるもの」とするところが15団体、その他が13団体でした。

 「殺処分対象を全頭引き取る」というPWJの宣言で広島県の犬の殺処分ゼロが始まったことを考えると、広島県は「引き取ったものすべて」を対象とする団体の1つ、もしくは「その他」に属すると思われます。それを「引き取ったもののうち譲渡適性のあるもの」に変更するというのが広島県の説明でした。

 PWJ/ピースワンコは、重病にかかっていたり、攻撃性が強く人になじまなうような犬も引き取って、世話をしていることをうたって寄付を募ってもいます。だから、自ら引き取りを制限していることや、広島県がこれからは「譲渡適性」のある犬しかPWJに引き渡さず、譲渡に向かないと判断された犬たちは愛護センターにより殺処分されることになるという事実を積極的には伝えたくないのかもしれません。

 しかし、広島県はPWJに示した案通りに、2020年1月に「譲渡適性のない犬」を引き渡すことを中止し、安楽死させることを決定しました。その結果として、2月と3月にはそれまで県動物愛護センターに収容されていた犬たちがかなりまとまって致死処分されたようです。

 そうであるなら、県もPWJも広島県の現状を正確に詳しく説明していく責任を負っているはずです。

5、ピースワンコは従うも公表に慎重

 「外に向けて説明していく」という広島県に対し、PWJがどう答えたのか知りたいところですが、開示された文書では出席者名を含めて黒く塗りつぶされて、その発言内容や考え方がわかりませんが、中村所長によると、ピースワンコ側が特に反対意見を述べるようなことはなかったようです。

 中村所長によると、安楽死条件の見直しを進めなければ、致死処分の対象が「譲渡適性のある犬」にも及んでしまいかねないことを広島県としては危惧していたそうです。そして、ピースワンコにも「殺処分対象の全頭引き取り」などとは言えなくなるので対外公表の仕方を考え直すよう申し入れたということです。

 PWJはなぜ、いまもって、「殺処分対象の全頭引き取り」を止めたこと、広島県から選別的な致死処分方針の説明を受けていることを寄付金の募集にあたって支援者らにしっかりと説明しないのでしょう?

 ピースワンコへの「ふるさと納税」を募るサイトで、「※ピースワンコの『殺処分ゼロ』とは,治癒見込みがない病気や譲渡に適さない等として愛護センターの判断で安楽死対象となった犬以外の殺処分をなくすことを指しています」という注意書きも掲載しています。

 しかし、これほど前提条件が変わっては、「殺処分対象を全頭引き取って、広島県で犬の殺処分ゼロを実現しています」という当初からの説明を、一新したほうがよいのではないでしょうか?そのためには記者会見やもっと詳しい説明文の掲示が必要だと私は思います。

 そんなことをすると、自分たちの手で殺処分ゼロを実現していると訴えることができなくなり、寄付金が集まりにくくなるのを恐れているのでしょうか?

 動物愛護という原点に立ち返って、ピースワンコの現状を代表理事のあなた自身が詳しく支援者や動物愛護関係者らに説明する時期が来ていると思います。

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