ガムシロップのすすめ
こんにちは、うめ木です。
みなさんはマジパン細工にガムシロップを使ったことはありますか?
私もつい先日まで試してみたことがなかったのですが、尊敬する大先輩の山﨑シェフ(パティスリールリアン オーナーシェフ)に教えていただき、取り入れてみることにしました。
結果、性質を理解すると
マジパン細工において、とても有用性のある材料である
ということが分かりました。
ガムシロップとは何か、からその有用性の理由までを書きました。
最後まで読んでいただけますと嬉しいです。
そして是非、ガムシロップ仲間になりましょう…笑
ガムシロップと砂糖水の違い
もしもガムシロップが砂糖水と化学的に同義のものであるならば、マジパンペーストに粉砂糖と水を足すことと変わらないということになります。
しかし、ガムシロップと砂糖水は成分と性質において違いがあり、それ故にマジパン細工に取り入れたい材料であることが分かりました。
成分
ガムシロップ
主に液状のブドウ糖(グルコース)や果糖が含まれています。砂糖の代わりにコーンシロップなどから作られることが多く、甘さが強いのが特徴です。また、保存料や安定剤が含まれていることもあります。
砂糖水
砂糖(ショ糖)を水で溶かしたもので、成分が単純です。砂糖の粒を完全に溶かして作られ、保存料や安定剤は通常含まれていません。
甘さ
ガムシロップの方が、砂糖水に比べて甘さが強いことが多いです。これは果糖の甘さが砂糖よりも強いためです。
特に低温状態で違いがあり、アイスコーヒーにはガムシロップが、ホットコーヒーには角砂糖が使用されるのはこの為です。
粘度
ガムシロップは、砂糖水に比べてやや粘り気があります。
ガムシロップに粘度があるのは、糖分子の構造(果糖の分子構造は水と強く結びつく性質を持っているため、水分子を取り込んで液体全体をより粘性のある状態にする)や相互作用(液体中の糖濃度が高いと分子同士が水中で密集、液体が流動しにくくなり、粘度が増す)、水分保持能力(後述あり)が主な要因です。
砂糖水は粘度が低く、さらっとしています。
ガムシロップを使うことによって期待できる効果
砂糖水ではなくガムシロップを加えるということは、化学的にいうと「ショ糖」だけではなく「果糖」を加えるということになります。
ガムシロップ(果糖ブドウ糖液)が食品に与える影響はさまざまです。
その中でも、今回はマジパン細工に関係すると思われる保存性についてフォーカスを当て調べました。
水分保持能力の向上
果糖ブドウ糖液は、吸湿性が高い性質を持っています。これにより、食品内の水分を保持し、乾燥を防ぐ効果があります。この性質は、特に焼き菓子やパン、キャンディなどの製品において、しっとりとした食感を長期間維持するのに役立ちます。
水飴やハチミツも同じ異性化糖(転化糖)なので、こちらの例えが分かりやすいかと思います。
結晶化の防止
個人的にとても有用性を感じる部分です。
マジパン細工の表面に水分が付着した後に乾燥した場合、表面が粒々と汚くなってしまったことはありませんか?
この現象は、マジパンペーストに含まれる砂糖の再結晶化が原因と考えられます。
果糖は、ブドウ糖や砂糖(ショ糖)と比べて結晶化しにくい性質を持っているため、果糖を含むガムシロップを使用すると、時間が経っても結晶ができにくく、滑らかなテクスチャーを保つことができます。
これは、マジパン細工の完成品の見た目をより良く保つために重要だと考えます。
微生物の繁殖抑制
果糖ブドウ糖液は、食品中の水分活性(Aw)を低下させる作用があります。
水分活性が低いと、食品中で微生物が繁殖するために利用できる自由な水分が減少し、細菌やカビの増殖が抑制されます。
特に、果糖は砂糖よりも水分活性を低下させる能力が高いため、保存性を向上させる点で有利です。
これにより、素手で扱うことの多いマジパンペースト内の微生物の繁殖を抑える効果が期待できます(わずかだとは思いますが…)
酸化防止効果
果糖ブドウ糖液は、食品の酸化を抑制する効果もあります。
油分を多く含むマジパンペーストは、空気との接触や光の影響で酸化します。酸化によって色の変化も起こるため、果糖ブドウ糖液を添加することで酸化による劣化を防ぎ、品質をより長く保つことが期待できます。
マジパン細工にガムシロップを使用する上での注意点
成分(安定剤の有無)
ガムシロップの主な成分は以下の通りです。
1. 糖類
2. 水
3. 酸味料
4. 保存料
:一部のガムシロップには、品質保持のために保存料が使用されることがあります。たとえば、ソルビン酸カリウムや安息香酸ナトリウムなどが、微生物の繁殖を防ぎ、保存期間を延ばすために添加されます。
5. 安定剤
:安定した粘度を保つために、増粘剤や安定剤(カラギーナン、グアーガムなど)が添加されることがあります。これにより、ガムシロップが時間とともに分離せず、均一な状態を維持できます。
特に注意するべきは、5.安定剤に含まれる増粘剤です。
マジパン細工のコンクール規定に反する可能性がありますので、成分表示を確認してから使用するようにしましょう。
水分含有量
ガムシロップの水分含有量は、一般的に約75~80%程度です。
残りの20~25%が糖分(主に異性化糖、ブドウ糖、果糖など)です。この高い水分含有量により、ガムシロップは液状で扱いやすく、飲み物にすぐに溶けやすい特性を持っています。
マジパンペーストに水分を入れすぎると柔らかくなり造形作業が難しくなる為、ガムシロップの入れすぎは禁物です。
「ちょっと乾燥してきた?ポソポソする?」
という時に水代わりにして少しずつ加えるのがちょうど良いと思います。
吸湿性の高さ
果糖とショ糖(砂糖)の吸湿性には明確な違いがあり、果糖の方がはるかに吸湿性が高いです。
湿度に対する反応
果糖は、低湿度でも周囲の水分を吸収しやすく、湿度が40%以下でも湿気を取り込みます。これにより、果糖を多く含む食品は、時間が経ってもしっとり感を維持することができます。
室内の湿度が低く、マジパン細工中に乾燥してきて作業性が落ちてきてしまう時には非常に有り難い効果です。
一方ショ糖は、湿度が約60%以上になると吸湿性が高まり、水分を吸収しやすくなりますが、それ以下の湿度ではあまり水分を吸収しません。そのため、ショ糖は比較的乾燥しやすい環境で安定しています。
造形中はその吸湿性がありがたいのですが、作品が完成した後になると、その吸湿性は少し厄介な性質となります。
作品の中で破損が心配になるパーツには使わない方が良いと考えられます。
まとめ
ガムシロップをマジパン細工に使う主な利点
・造形に時間がかかってもひび割れが起こりにくくなる
・再結晶化を防げる
ガムシロップをマジパン細工に使う注意点
・成分がコンクール規定違反にならないか要確認
・75%が水分
・吸湿性が高い
実際に使うようになって分かりましたが、ガムシロップを練り込んだマジパンペーストは艶が出やすく扱いやすいです。
体感だけでなく、今回調べてみて理論的に見てもガムシロップはとても良い材料だと思いました。
理論を実務作業に落とし込むと、造形に時間がかかるパーツ(人形の顔や手指など)はガムシロップを入れたマジパンペーストを使い、作品の軸になるようなパーツや強度が大切なパーツには使用しないなど、その使い分けに面白さがあると思います。
皆さんも是非ガムシロップの特性を知り、マジパン細工に活かしてみてくださいね。
※ちなみにカフェに寄る度にガムシロップを収集する癖がつきましたが、果糖が含まれたものであれば(カロリーゼロのものはアステルパームなどの人口甘味料でできており、化学的構造や性質が全く違います)メーカーさんによる違いは感じられていません。
オススメのガムシロップがありましたら是非教えてくださいませ…!!
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