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マジパン細工の自由度が少し高くなった話

こんにちは、うめ木です。

今回は、下に載せた写真のマジパン細工を制作中に
『考察』『結果』に結び付いて、アドレナリンがドバドバ出た時のお話しをしたいと思います。

マジパンペーストと粘土の違いから仮説を立ててみる

マジパンペーストは食べられる粘土?

話が逸れるようなのですが、考察に至った経緯からお話します。

マジパン細工をご存知ない方に、なるべく分かりやすいように説明をしようとしたとき
【食べられる粘土みたいな…】
と例えたことはありませんか?

…私はよくあります。
(それ以外の分かりやすい例えがありましたら、是非教えていただきたいです)

しかし、実際には『食べられるか否か』以外にも、マジパンペーストと粘土には沢山違うところがあります。
その違いを理解することで、マジパン細工の可能性を広げられるのではないかと思い調べてみました。

マジパンペーストは食材である為、粘土と違う特有のデリケートさがあります。
それは温度や湿度に対する変化であったり、強度です。

粘土と比較して接合面がなじみにくいという課題

それ以外にも、造形作業中の違いとして
『接合面がなじみにくい』
という問題があります。

接合面が綺麗になじまないので、盛ったり削ったりといった造形がしづらく、
ツルッとした表面にする為には、ひとつの丸から形作る必要があります。
これこそ、私がマジパン細工を難しいと感じる理由のひとつです。
これさえクリア出来れば…と思った制作が今までもたくさんありました。

では、なぜ接合面がなじまないのでしょうか?

その理由を、粘土・マジパンペーストのそれぞれの性質から考えてみることにしました。

推測される原因4つ

①粒子の大きさ

こちら(https://note.com/kashi_umeki/n/n48a05c6b0549)にも記載していますが、マジパンペーストの粒子の大きさは0.02〜0.03mmほどで、時々粗い粒子のものが混ざります。
それに対して、粘土の粒子の大きさは一般的に粒径が0.005mm以下とされています。

粒子の細かさは、
・細かいディティールの表現のしやすさ
・水分蒸発の均等さ
・乾燥後の強度
・ひび割れのしやすさ
に影響しています。

粘土は密接しやすい非常に小さな粒子でできているため、細かい粒子が相互に入り込むことで、表面積が増え、より強く結合しています。

高品質なマジパンペーストほど、アーモンドが細かく挽かれていると言われており、細工にはそれが適していると言えます。
(ローマッセではなく細工用ペーストに関して)

②密度の高さ

密度の違いは、
・高密度な方が、滑らかな仕上がりになり乾燥後の強度が強い
・低密度な方が、表面が少し荒くなりがちだが柔らかな質感が出やすく、強度は弱いが重量が軽い
といった影響があります。

マジパンペーストの密度は、使用される材料や作り方によって多少異なりますが、一般的には約 1.2 g/cm³*から 1.6 g/cm³*の範囲にあります。

密度は、砂糖の割合が高いマジパンでやや高くなり、逆にアーモンドの割合が多いものは密度がやや低くなる傾向があります。
また、混ぜ方によっても前後します。

一方、粘土の密度は、種類や組成によって大きく異なりますが、一般的な範囲は 1.5 g/cm³から 2.6 g/cm³です。

※参考までに主な粘土の密度の例
◯陶芸用粘土ー約 2.0 g/cm³ ~ 2.6 g/cm³。陶土や石粉粘土など、焼成後に硬くなる粘土は、比較的高い密度を持つ
◯紙粘土ー約 1.5 g/cm³ ~ 1.7 g/cm³。軽量であるため、密度が低いのが特徴
◯油粘土ー約 1.6 g/cm³ ~ 1.8 g/cm³。乾燥しない性質があり、比較的軽い
◯樹脂粘土ー約 1.8 g/cm³ ~ 2.2 g/cm³。硬化後に透明感や光沢が出るタイプの粘土

マジパンペーストは比較的密度が低いと言えるので、その面でも適度に粉糖を加えて滑らかさや強度を高めることが良いと言えます。

③有機物と無機物の違い

少し難しい科学的な話になりますが、粘土の粒子は一般的に電気的な荷電があり、その荷電状態は粘土の特性に大きく関わっています。
そして、この荷電特性は、以下の造形作用にも影響を与えています。
・粒子の凝集と分散→成型性に影響
・接着性→結合の強さ
・水との相互作用→水分保持力や可塑性

一方、マジパンペーストは主にアーモンドと砂糖を原料にした食品であるため、その荷電特性や水との相互作用は、粘土などの無機材料と比較すると弱いと言えます。
また、アーモンド由来の脂肪分が表面に出てくると、接合面が滑りやすくなり、他の材料との接着が難しくなることがあります。

④水分含有量

水分は粒子間で潤滑剤として働きます。
水分があると、粒子が滑りやすくなり、手でこねるときに粒子が自由に動いて形を変えることができます。また、水分が蒸発すると、粒子が密接に結合し、しっかりと固まります。

マジパンはアーモンドと砂糖が主成分で水分含有量が比較的低く、粘土やアイシングのように水分が潤滑剤として働かないため、接合面がうまくなじまないことがあります。

原因から推測する考察

原因①〜④に関してそれぞれに対処方法を考えると

①粒子の大きさ
→細かく挽かれている高品質なマジパンペーストを使用する

②密度の高さ
→適切量の粉糖を練り込み、マジパンペースト内の砂糖の割合を高める

③有機物と無機物の違い
→これはどうにもなりません…

④水分含有量
→接合面に関して、造形可能な範囲で増やす

私は通常、マジパンペーストに対して粉糖を2〜3割練り込み、ほぼ加水はしていなかったのですが、
粉糖をしっかり3割練り込み、接合面など部分的にガムシロップを足して練り水分量を高めてみるといいのでは?
(ガムシロップの有用性についてはこちらの記事に記しています)
と考えて、実際に制作に取り入れてみました。

結果

写真のマジパン細工を制作するのに、
どこをひとつの塊から作り、どこを接着しているか分かりますか?

今回の場合は、顔と胴はひと繋がりで制作しましたが、耳や足、尻尾、長毛を強調している部分はそれぞれ別々に作り、なじませるように接着しました。 
接着剤には普段通り水道水を使い、筆で軽く塗っています。

私自身、想像していたよりもきれいに接着面がなじんで驚きました。
マジパンペーストに含まれる水分量が増えるので、造形を保ったまま乾燥させる工夫は必要ですが、これで造形の幅がまた増えると感じ興奮してしまいました。

目の上の部分の毛は、一度乾いた顔の上に柔らかいペーストを重ねた為、なじみ具合(?)が低くなっています。
やはり水分量が高く柔らかい状態のもの同士を接着することが重要と言えそうです。

まとめ

今回の制作では、
『接合面をなじませる』という観点から、粘土とマジパンペーストの性質の違いを調べ、主に水分量に着目し変化を加えてみました。

うんちくを垂れてみましたが、実際に行ったことを簡単に言うと、
マジパンペーストに粉糖を多めに練り込むことで固さ・白さ・密度を高め、扱える範囲内でガムシロップによる加水をしました。

今まで扱ってきたマジパンと粉糖のみのペーストよりも接合面がなじみやすく、今回のような造形には大変使いやすい性質になったと思います。

通常マジパンペーストに水分を足すことはあまりされない傾向があるように思いますが、少し視点を変えてみると、加水することで可能になる造形もあるのではないかと思いました。

これを読んでくださった方が、少しでも自由にマジパン細工を楽しめますように。


最後までお読みいただきありがとうございます。

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