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【海のナンジャラホイ-18】コンブの異端児ジャイアントケルプ

コンブの異端児ジャイアントケルプ

全世界の海洋でいちばん大きな海藻はなんでしょう? その巨大さを見れば、ジャイアントケルプだと言って間違いないでしょう。全長が10メートルくらいになるのは普通で、大きなものでは50mを超えると言われています。藻体の全体に浮きを付けて海中に立つその姿を見ると、本ブログの第6回に登場したホンダワラの仲間みたいに思えるのですが、実は「ケルプ」という名前がついていることから分かるように、コンブの仲間に属しているのです(図1)。

図1:ジャイアントケルプ


コンブの仲間には、マコンブ・リシリコンブ・ミツイシコンブ・ネコアシコンブ・ナガコンブ・スジメ・ガゴメ・アラメ・カジメ・ワカメ・・・などがあります。これらに共通の特徴は、介在成長という成長の仕方で、仮根部の上の茎の部分と葉の部分との中間に成長点があるのです(図2)。

図2:コンブの仲間の介在成長 (左から、マコンブ・カジメ・ワカメ。矢印のあたりで成長する)


葉の付け根で成長しているため、葉では、付け根ほど新しくて、末端がいちばん古いということになります。一番古い末端は、ボロボロになると崩れて海中に流れ出してゆきます。海中では、古くなった海藻にはヒドロ虫類とかコケムシ類とかの付着生物が付きやすくなります。若い海藻は表面に生物が付着するのを妨げる忌避物質を出しているのですが、古い葉ではその能力が衰えてくるのです。それを考えると、付け根からどんどん葉を更新してゆく成長の仕方というのは、付着生物を随時振るい落とすことができるという点で、理に適っていると言えます。
コンブの仲間では、藻体全体の大きさは、葉の付け根からの成長の速さと末端からの崩壊の速さのバランスで決まっていることになります。もし、水温が上がるなどして環境が悪くなると、崩壊の速度が成長の速度より大きくなって、藻体が小さくなることも起こります。でも、これらのコンブの仲間には、浮きを使って海中に立つような種類はありませんね。

ジャイアントケルプは、北アメリカから南アメリカの太平洋岸、オーストラリア北東岸、ニュージーランド、南アフリカの南岸などの海水温が4~20ºC、水深は、ふつう5~20メートルくらいの海域に生息しています。岩場の海底に付着した仮根部から藻体が立ち上がり、たくさんの浮きで体を支えながら成長して、海面に達すると海面を覆うように成長するので、その分布域は人工衛星から確認することもできます。

ジャイアントケルプの体は枝分かれしているし、身体中に浮きも付いています。どう見ても、他のコンブの仲間とは異質です。成長の仕方は、どうなっているのでしょう? ジャイアントケルプには2種類の成長点があります。付け根の方で葉を生み出す成長点と、先端の方で葉を増やすScimitar (シミター) と呼ばれる三日月型の成長点です。この両者を使って、1日に50~60センチという急ピッチで成長して体を大きくするのです。

陸上との対比で考えると、50メートルに達するような体に成長するのには、随分と年数がかかるし、寿命も数十年とか数百年とかではないかと思えるのですが、ジャイアントケルプの最大寿命は7年程度であることが確認されています。驚くべき短さですが、これには理由があります。ホンダワラ類がそうであったように、海の中で大きな体を保つには、構造がしなやかである方が良いのです。そうであれば、早い成長も可能です。
ジャイアントケルプは、比較的穏やかな環境を好んで生育します。そして、海が荒れるとすぐに抜けて流れてしまいます。大きな海藻が抜けた場所には、すぐに若い海藻が入ってきて育ちます。変化の大きな環境に暮らしているために、意外にも生活史の回転が早いのです。ジャイアントケルプの作る海中林では、人工衛星から確認できるような大きさのパッチが突然消えたり、無くなっていたところに忽然と現れたりすることが、普通に起こるのです。
巨大な体を持つくせに、空き地があるとさっと入り込んでみるみるうちに大きくなるという、ジャイアントケルプはまるで雑草のような性質を持っているのです。だからこそ、環境の激変に耐えながら、世界の北半球から南半球に及ぶような広い範囲で生き続けてくることができたのでしょうね。


○o。○o。 このブログを書いている人
青木優和(あおきまさかず)
東北大学農学部海洋生物科学コース所属。海に潜って調査を行う研究者。



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