温泉宿と座敷わらし
数年前、岩手にある緑風荘という宿に行った。
知る人ぞ知る、座敷わらしがでる宿だ。
私が幼い頃、良くテレビで座敷わらしの特集が組まれており、いつかは行ってみたいと思っていた宿だった。
以前、残念なことに一度火災で全焼してしまった宿なのたが、再建し営業再開しているとのことで両親と弟と予約を取ることにした。
縁あって、すんなりと予約が取ることができた。
子供の私たちが成人してからの久々の家族旅行。
とても楽しみにしていた。
私たち家族はいわゆるザルで、私も母もかなり強いが弟と父はザル。
そんな私たちが集まれば必ずお酒を飲むのだった。
それも一つの楽しみだ。
いざ当日。
少し恐れを抱きながらの旅行が始まった。
あんなに楽しみで行きたくてしかたがなかった宿なのに、いざ未知なるものに会おうとすると怖くなってしまう。
ドキドキしながら、座敷わらし用のおもちゃを買って旅館へ向かった。
緑風荘はとてもやわらかな空気が流れていた。
味わったようなことがない、とても優しい雰囲気に少しイメージが変わる。
私はもっと、おどろおどろしい何かがそこにあるのだと感じていたが、そこに漂うのは不思議な温かみだった。
変な話だが、本当に、何かがいそうな気がした。
以前、座敷わらしがでると噂されていた部屋の跡地は大広間になっていて、宿泊者全員が入ることができる部屋へとなっていた。
たくさんのオーブの写真が置いている。
自分も見たいと思い写真をとるが、なかなか写らなかった。
持ってきたおもちゃをお供えし、
(座敷わらし様、どうか一緒に遊んでください。)
とお願いする。
夜になるにつれて本当に座敷わらしが出るのかも、という恐怖が再びじわじわと沸き上がってきたので
先にお風呂にはいることにした。
まだ明るいうちの入浴だったからか、浴室内には誰もいなくて、母親と二人きりだった。
「本当に、いるんだろうかね」
「まだわからないね」
とりとめのない話をポツリ、ポツリとしていた時だった。
カタン
何か、音がした気がした。
「今の違うよね?」
「考えすぎじゃない?」
母は笑った。
しかし、私には座敷わらしのような気がしてしまったのだ。
私はお風呂あがり、お酒に逃げた。
怖さを楽しさで打ち消したかった。
「おー。始まったな。
よし、飲むか!」
弟や父も飲み始めたので陽気な雰囲気が漂う。
安心して楽しく過ごせた。
すごいスピードでお酒も減っていった。
やはり、お酒は、お酒が好きな人と飲むのが一番楽しい。
食事も温泉宿らしく豪華なものだった。
アットホームな雰囲気が漂い、従業員さんたち優しく、味も良くで大満足だった。
私たちは、温泉宿を大満喫していた
食事も終えて、自分の部屋へ戻ろうとした時
大広間に人がいるのが見えた。
「すごーい」
「ホントに撮れてる」
ちょうど良く酔いが回っていたところだったので、話しかけてみる。
「何か写ったんですか?」
「白い光が…ほら。」
そこには昼間大広間で見た写真のようなオーブがくっきりと写っていた。
「わー!すごい!」
そこからは恐怖などなく、ただの好奇心だった。
再び写真や動画とってみる。
すると、
ふわぁと漂う白いものがとれた。
「わあ!私のにも写った!!」
感動だった。
本当にそこにいるのだろうか。
気づけば恐怖心などはすっかり薄れて、ぜひ座敷わらし様を一目見たいと目を凝らした。
しかし、
そう簡単には現れてくれなかった。
部屋に戻ったところで自室で動画をとり続けると凄い量のオーブがうつった。
大広間にいたときに、ここの常連だと言う人が話していた。
「この白いオーブの光から、座敷わらしの顔がポンって出てくることがあるんですよ。
大広間だけでないですよ。
全部の部屋に出るんです。」
真偽のほどはわからないが、
あながち嘘ではないかもしれない。
私たち家族は大はしゃぎで写真と動画をとり続けた。
そして、
一人一人と眠たくなり、静かに眠りについたのだった。
朝がきて、何事もなく夜がふけたのだとわかった。
朝食をとり、隣にある神社へお参りする。
この神社は、火事が起きたとき、座敷わらし様が逃げて無事だったとされる神社だ。
静かに、お願い事をお祈りした。
「昨日は何か感じた?」
家族全員とも、答えはnoだった。
「オーブが撮れただけでもすごいよね」
「座敷わらしって本当にいるんだね。」
「何も感じなかったけど、今までの人生上でも記憶に残るいい宿だったよ」
私たち家族は大満足して帰路についたのでした。
不思議な体験をしたい方、
ぜひ訪れてみてはいかがでしょう。