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[短編小説]父親への恩返し。

「親父、そろそろ休めよ。」
夕食後、俺は父親の背中を見つめながらつぶやいた。

父親は今年で56歳。
昔から工場で働き続けてきたその体には、数えきれないほどの傷と疲労が蓄積している。

「まだまだ俺は大丈夫だ。」
そう笑いながら言う父親の顔はどこかやせ細って見えた。

シュン、25歳。会社員。
母を亡くした俺をずっと支えてくれた父親に、これ以上無理をさせたくなかった。

「俺がなんとかしなきゃ…。」

その夜、俺はスマホを手に取り、何か方法がないかと検索を始めた。

「副業で月5万円を稼ぐ方法」
スマホ画面に表示されたその言葉に、俺は半信半疑ながらも目が離せなかった。

俺は幼い頃からお金に余裕のない家庭で育った。
父親が朝から晩まで働き続けても、生活はいつもギリギリだった。

「副業か…。俺にもできるのかな。」

父親を支えたい気持ちは強いが、何をどう始めればいいのかわからない。
それでも、俺はやるしかないと思った。

「親父に仕送りできるくらい稼ぎたい。」
それが、このときの俺の唯一の目標だった。

初めての挑戦

最初に始めたのはSNS運用代行という方法だった。
仕事終わりの夜や休日を使って、ひたすら情報を集め、クライアントを探した。

最初の1週間は何も起きなかった。
提案メッセージを10件、20件と送っても、返信はゼロ。

「やっぱり俺には無理なのか…。」

焦りと不安で心が折れそうになる。
その度に、父親のやせ細った背中を思い出した。

「諦めるのはまだ早い。」

俺は再びメッセージを送り続けた。

最初のチャンス

2週間後、ようやく1件の返信が来た。

「お話を聞かせていただけますか?」

その瞬間、手が震えた。
すぐに返信し、カフェでクライアントと初めて対面することになった。

「SNS運用の経験はありますか?」

「まだ初心者ですが、必ず結果を出します。」

自分でも驚くほど強気な言葉が口をついて出た。
クライアントはしばらく考えたあと、静かに頷いた。

「じゃあ、お願いしてみようかな。」

初めての報酬

初めての契約が決まったその夜、俺は自分が一歩前に進んだことを実感した。

1ヶ月後、初めての報酬が振り込まれた。5,000円

少額だが、俺にとっては大きな意味があった。
「これで俺も父親を支えられるかもしれない。」

その後もクライアントは少しずつ増え、2ヶ月後には月収が5万円を超えた。

初めての仕送り

ある夜、俺は父親に封筒を手渡した。

「これ、今月の仕送り。」

父親は驚いた顔をして封筒を開いた。

「お前…こんなことしなくていいんだぞ。」

そう言いながらも、父親の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

「ありがとうな、シュン。」

その言葉を聞いた瞬間、胸が熱くなった。
俺がずっと望んでいたのは、この瞬間だったのかもしれない。

続く挑戦

それからも副業は続けた。
最初は父親を支えるためだったが、気づけば自分自身の成長にもつながっていた。

「この道をもっと進んでみよう。」

俺はそう心に決め、新しい挑戦へと踏み出していった。

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