第3章:隠された過去 (3/44)
霧の町に足を踏み入れてからというもの、透は次第に自分がどれほど深い謎に巻き込まれているのかを実感し始めていた。町の人々の間に漂う不穏な空気、そして霧が象徴するように、その町には常に隠された何かがあった。修一がここに来た理由が、少しずつではあるが見えてきたような気がしていた。
星崎と別れた後、透は町の図書館で得た手がかりを元に、さらに調査を進める決意を固めていた。まず向かうべき場所は、失踪事件に関連する記録があるという町の古い新聞記者、村田の家だった。
村田の家は町の中心から少し外れた場所にあり、周囲には人の気配がほとんど感じられなかった。古びた一軒家に近づくと、透は少し胸が高鳴るのを感じた。村田は無口な男で、過去の失踪事件について誰かに話すことはほとんどないと言われていたが、修一に関する手がかりが得られるかもしれないという思いが、透を後押ししていた。
家の扉をノックすると、しばらくしてから中からガタガタと音がして、村田が姿を現した。白髪交じりの髭を生やした村田は、透を見ると少し驚いた表情を見せた。
「何か用か?」村田は低い声で尋ねた。
「すみません、村田さん。町の失踪事件について、少しお話をお聞きしたいんです。」透は頭を下げながら言った。
村田は一瞬ためらったように見えたが、やがて頷き、家の中に招き入れてくれた。薄暗い室内に入ると、机の上には新聞や古いファイルが無造作に積まれていた。村田はそのうちの一冊を手に取り、透に差し出す。
「これが、その頃の記録だ。霧の町で何が起きたのかを調べるには、まずこれを読んでみろ。」村田は冷静に言った。
透はそのファイルを手に取ってパラパラとめくる。そこには、数十年前に起きた失踪事件の詳細が記されていた。記事を読んでいくうちに、透は次第にその事件の奇妙さに気づき始めた。それはただの失踪ではない。町の住人が消えた後、霧が一層濃くなり、誰もその行方を追うことがなかったのだ。
「これが最初の事件だ。あの頃から、毎年秋になると誰かが消えるようになった。」村田が語り始めた。「町の人々はそれを不思議とも思わなくなった。消えた者のことを誰も話さないし、誰も気にしない。」
透は村田の言葉に耳を傾けながら、失踪した人々の名前を心の中で繰り返した。その中には、修一と同じように町に足を運んだ者たちが含まれていた。村田はさらに続けた。
「だが、消えた人々には共通点がある。それは、皆、霧の祭りの直前に姿を消したことだ。」
透はその言葉に驚き、顔を上げた。「祭りの前……つまり、修一も?」
村田は一度、長くため息をついてからゆっくりと答えた。「その可能性は高い。だが、祭りについては誰も語りたがらない。祭りが何か特別なものだということを、誰もが知っているからだ。」
透は手元の資料に目を落とし、さらに調べる決意を固めた。村田は続けて言った。
「祭りが終わった後、霧は一段と濃くなる。そして、祭りに参加した者たちは、二度と町を出られなくなる。何かが起きるんだ、祭りの後に。だが、誰もそれを口にしようとしない。お前が本当に調べたければ、祭りが終わった後の町の様子を見てみるといい。」
透は村田の言葉を噛みしめながら、心の中で決意を固めた。霧の祭りが何を意味するのかを知るために、透は祭りの日を待つことを決めた。
村田との話を終えた透は、再び町の中を歩きながら考えていた。霧の町の過去に隠された秘密、失踪した人々の謎、そして兄の行方。すべてが一つの謎に結びついているような気がしてならなかった。
町の広場に差し掛かると、ふと目に入ったのは、町の掲示板だった。そこには、今年の「霧の祭り」の日時が掲示されていた。透はその日付をじっと見つめ、決心を新たにした。
「祭りの日に何かが起きる。兄はその祭りに関係しているはずだ。必ず、真実を突き止める。」
透は胸の中でそう誓いながら、再び霧の深い町へと足を踏み入れていった。
第3章 完