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霧の街の影 第二章 (2/44)
第2章:消えた兄の足跡
霧の町に到着してから、透は星崎と共に町の隅々まで足を運んでいた。最初に訪れたのは、町の中心部にある古びた図書館だ。村の歴史が詰まった地元の資料が整然と並んでいる場所だが、少し不気味なほど静まり返っていた。町の住人たちも、この場所を避けるかのように見えた。
「ここで何か見つけられればいいがな」と星崎は言いながら、古びた書架をゆっくりとめくっていた。透は、修一が最後に残した手帳に記されたメモを再度取り出し、何度も読み返していた。そこには「霧の祭り」という言葉が何度も登場していた。
「霧の祭りか……」透は呟きながら、メモを手に持ったまま、ふと背後に目を向けた。すると、薄暗い図書館の一角に立っている一人の男性に気づいた。
その男は、黒縁の眼鏡をかけ、手に古い本を持っていた。髪は白髪交じりで、少し前傾姿勢で歩くその姿には、どこか病的な印象を与える。
「君も、霧の町のことを調べに来たのか?」
透が声をかけると、その男は一瞬驚いた顔をしたが、すぐにニヤリと笑った。
「お前が探しているのは、あの『霧の祭り』についてだろう?」男は透に近づくと、顔を近づけて囁くように言った。「だが、その祭りには重大な秘密が隠されているんだ。誰もがそれを知っていて、誰も語ろうとしない」
透はその言葉に強く引き寄せられるような気がした。男の言葉の真意がわからないまま、ただただその言葉を繰り返し考えた。
「霧の祭り……兄はその祭りについて調べていたのか?」
透は自分に言い聞かせるように呟いた。すると、男は何かを察したかのように、軽く首を振った。
「祭りは、ただの祭りじゃない。あれには、町の成り立ちと深く関わる暗い過去があるんだ。だが、それを知ってしまうと、もう帰れなくなる」
男のその言葉に、透の胸が急に重くなった。だが、恐れる気持ちを抑え、透は冷静さを保つように心がけた。
「その過去について、詳しく教えてくれませんか?」透は少し強い口調で言った。
男はしばらく黙っていたが、やがて立ち上がり、図書館の奥へと歩き始めた。透と星崎は、その背中を追いながら、どこか不安な気持ちを抱えていた。
数分後、二人は男とともに小さな部屋に案内された。その部屋には古びた新聞記事や町の記録が無造作に積まれていた。男は一枚の新聞を引き寄せ、透に差し出した。
「これが、霧の町で起きた最初の失踪事件だ。約四十年前のことだが、あの時期から、毎年秋に同じような事件が起きるんだ。」
透はその新聞記事をじっと見つめた。記事には、町の住民が一人ずつ消え始めたことが報じられていた。記事は簡潔に、ある秋の夜、霧が濃く立ち込める中で、町の数人が姿を消したと書かれていた。目撃者がいるにもかかわらず、その後一度も行方がわからず、事件は迷宮入りとなったらしい。
「兄が失踪したのも、まさにこの時期だ」と透は低く呟いた。
男は静かに頷き、続けた。「そして、あの祭りは毎年、消えた人々を鎮めるために行われる。だが、祭りそのものが何かを隠している。祭りの夜、何かが起きる。その夜に行われる儀式には、重要な意味があるんだ。」
透は、男の話に飲み込まれそうになりながらも、質問を投げかけた。「その儀式って、具体的に何ですか?」
「それは――」男は言葉を切り、再び周囲を見渡した。「教えるわけにはいかないが、君が本気で探しているなら、祭りの日にその秘密が明らかになるだろう。しかし、その時には何かを失う覚悟をしなければならない」
透は息を呑んだ。目の前の男は、あまりにも多くを知りすぎているようだった。
「一つだけ言えることは、祭りが終わった後に町の霧が晴れることはない。どんなことをしても、この町に来た者は霧に囚われてしまうんだ」と男は最後に言い、部屋を後にした。
透は、男の言葉が胸に重く残るのを感じながら、星崎とともに再び町を歩き始めた。霧はどこまでも深く、街灯が頼りない光を放っているだけだった。
「祭りが終わった後に霧が晴れない?」透はつぶやいた。「それじゃ、兄は……」
星崎は静かに答える。「ああ、この町には霧が濃くなる時期と、薄れる時期がある。だが、祭りの後は、いつまでたっても霧は晴れない。もしかしたら、君の兄もその儀式に関わったのかもしれない」
透はその言葉に震えるような気持ちを抱えながら、霧の中をさらに進んだ。
第二章 完