作曲者としての歌詞の書き方
ボカロPをやっている中で、「作詞が難しい」「歌詞の書き方がわからない」という人が結構多いことに気がつきました。特に、作曲をしてから歌詞をつける「曲先」タイプの人に多い印象です。また、作曲に比べて歌詞の書き方を教えてくれるサイトや動画は少ないので、今回は主に曲先の人に向けた「作曲者としての作詞法」をnoteにまとめてみました
歌詞と詩の違いとは?
結論からいうと、歌詞と詩の最大の違いは「曲に乗るか」です。韻律ぐっちゃぐちゃの汚い文章でも曲をつけてリリースしたら「歌詞」になりますし、最初から歌詞として作ったとしても誰かがそれに曲をつけてくれるまではそれは「歌詞になる予定の詩」と言わざるをえません。なぜこんなことをはじめに言うかというと、この「曲に乗る」、さらにいえば「誰かが歌う」ということが歌詞にとって最重要なファクターだからです
文字数は気にしなくていい
たまに「Aメロはメロディが何文字だから、歌詞も何文字の言葉を探さなきゃいけなくて……」みたいなことを気にして作詞を難しく考えている人がいますが、結論としては気にしなくてOKです。例えば米津玄師さんの『ピースサイン』の出だしの歌詞を見てください
このパートのメロディーは「ターンタタン タタン ターン タタンタタン タンタ タラタラタラ タタ タンタタン」で音符が23個です。これに対して米津玄師さんは「31文字」という8文字もオーバーする歌詞を書いています。4割近いオーバーですね
これがなぜ大丈夫かというと、1音符に複数の文字を乗せているからです。書き直すと「いー(つ)か ぼー(く)らのー(ぅ)え(を)すれー(す)れにー と(お)りすー(ぎ)て(いっ)たー(あ)のー(ひ)こーきを」です。こうすることで相当な文字数をねじ込んでいます。もしこれが詩だったらこんなにオーバーするともう「文章やん!」って言われますよね。でも、歌詞はメロディにねじ込めさえすれば何文字でもセーフです
ちなみにねじ込むコツがあって、上の例でもわかる通り「か行、さ行、た行、は行」と「ん」はねじ込みやすいです。特に「い段」と「う段」は狙い目で、私も「ち」「つ」「し」「す」「ひ」「ふ」なんかは積極的にねじ込んでます(ボカロ調声でいうと、その音のノートを「32分の1」前後にしてほぼ子音しか聞こえないようにするとうまくいきます)
文字数ではなく「拍」でコントロールする
「さいゆうき」って何文字ですか? そう、5文字ですよね。でも口に出して「さいゆうき」と発音すると、文字に強弱がありますよね? おそらく「さ(ぃ)ゆ(ー)き」みたいに3回強い部分があったんじゃないかと思います。この強い部分をここでは「拍」と呼びます。歌詞を書くときは、文字数のかわりにこの拍の数をメロディに合わせるとうまくいきやすいです。といっても厳密に計算する必要はなくて、要はさっきの「ピースサイン」のノリで「強弱をつけてなんとなく歌ってみて、ねじ込めればセーフ」って考えでOKです。拍が合っていないときは大体ねじこめないので、体が教えてくれます
拍が合わない、どうしよう・・・?
2022年4月におにぎりさんという方が「メロディを置いておくから、好きに作詞してね」という企画をTwitter上で立ち上げていて、私も参加しました。その時の「元メロディ」がこれです(ダウンロード期限は切れています)
いいですよね。
それに対して私の作ったものがこの『メーデー』。
ご本人の許可を得てフルコーラス版にアレンジさせていただきました。
1分47秒ぐらいに「それでもこの世界」、2分4秒ぐらいのところに「ダメで元々」という歌詞があります。ここ、メロディとしては「ターター タラタッタ」なので、それででもの「そ」やダメでの「ダ」が拍としても合わないんですね。そこに音符が存在しないんで。こんな風に音符が足りなかったり余ったりする時にどうすればいいかというと、歌詞に合わせてメロディの音符を増減させればOKです(外道)!
思い出してください、このnoteのタイトル。「作曲者としての歌詞の書き方」ですよね? そう、あなたが作曲者なのだから、描きたい歌詞とメロディが合わないなら、歌詞の方じゃなくてメロディの方を合わせるという選択肢を持っているんです。歌というのは歌詞とメロディの集合体なので、メロディに最適な歌詞があるのと同様に歌詞に最適なメロディがあります。作詞作曲というのはそのふたつをすり合わせて手をつながせる作業なので、お互いが歩み寄るぐらいがちょうどいいってたしか孔子とか孟子が言ってました
ちなみに、他人のメロディに対してこれをやっちゃうところが私のヤバいところなのですが、歌詞の文字数をちょっと自由にしていいかは事前にヒアリングしたうえでやっています。皆さんも合作の時は気をつけましょう(笑)
作詞ならではの韻の踏み方
昨今のボカロ曲ではガチガチに韻を踏むケースは少なくなってきましたが、それでもやはり押韻は効果的なテクニックです。このとき、通常の詩では、たいてい「文末」か「文頭」で韻を踏みます。ですが、歌詞は曲に乗る前提のものなので、文中で韻を踏んでもOKです
この歌詞はさきほどの『メーデー』という曲の一節ですが、文字だけ見るとどこで韻を踏んでいるのかわからないですよね? でもこれ、曲で聴くと痛いなの「な」と退屈の「た」で韻を踏んでいるのがわかると思います(Bメロ頭で「Ah~」みたいに長めに伸ばしている箇所)。これは「Aメロの歌詞の最後の1文字をBメロの頭に使う」というテクニックなのですが、曲の中に「Ah~」や「Oh~」の長めのトーンがある場合に使いやすいです
もうふたつ別のテクニックを紹介しますね
ここでは「またね」と「なんて」で韻を踏んでます。kanariaさんの『KING』のように、最近のボカロ曲では「リフレイン」と呼ばれる繰り返しのメロディがよく使われますが、リフレインで韻を踏んでおくと気持ちよさがアップするのでおすすめです
最後のひとつは、同じく先ほどの『桜フラグメント』からです。
こっちはもっと強引で、「アルバムのまま」で「あーるばーむのまーま」とあ段で韻んを踏んでいます。「そんな力業でいいのかよ!」って思うかもしれませんが、いいんです。歌詞における韻は、メロディの特徴的なところの母音がなんとなく合っていれば成立します。DECO*27さんの『サラマンダー』なんて「サラマンダ! ア↑ ア↓ ア↑ ア↓ ア↑ ア↑ ア↑」ですよ? 強引の極みです。でもこのあ段の連打、気持ちいいですよね? 天才か!
こんな風に、文頭文末だけでなく文中や2文をまたぐようなところでも使えるのが、作詞ならではの韻の踏み方です
言葉のアクセントをメロディに合わせる
歌詞の各単語にはアクセントという「ここを強め・キー高めにするといいよ」という"山"が備わってますし、メロディにも「長めのトーン」「音程が大きく上がるところ」「止めるところ」のような「ここに歌詞のアクセントや拍を合わせるといいよ」という"山"が備わっています。そして、このふたつの山がピッタリ重なるように歌詞を書くと、素人臭さが一気に消えてプロっぽくなります。詳しくはシユウさんの動画の3分6秒からの「調声は作詞が9割」で私より詳しく教えてくれるので、そちらをご覧ください(笑)
この動画はボカロ調声の動画なのですが、作詞法としてもめちゃくちゃ勉強になるのでおすすめです。もちろん調声を解説した部分もすばらしく、私も何度も見ました
まとめ
とっても長くなりましたが、これで「作曲者としての歌詞の書き方」はいったん終わりです。テクニックだけまとめるとこんな感じでしょうか
文字数は気にしなくていい
拍数を音符に合わせていれば文字数はねじ込める
歌詞とメロディが合わないなら音符を増減させてもいい
韻は文中でも踏める
言葉のアクセントをメロディに合わせる
どれも歌詞単体で考えられるものではなく、大げさに言えば作曲テクニックの一種です。このメロディだったらここにこういうコードが欲しいとか、このメロディにこういうバッキングや裏メロを合わせたいとか考えるのと同じノリで、「ここにこんな響きの言葉が欲しい」っていう風に詞を書いていくのが作曲者の作詞法なのではないかと思います
さて、他にもいくつか書きたいことがあったのですが、長くなったのでここらでいったんやめますね。好評だったら後編「良い歌詞と悪い歌詞の違いって? ~誰が歌うかということ~」を書くかもしれません
それでは、作曲、一緒に楽しみましょう!