闇バイト?極限の待ち合わせ『箱男』感想②
今回は『安全装置を とりあえず』まで
この章は兎にも角にも終始女を待つだけの話である。
ここで補足が必要になるが物語を通しての主人公で語り手でもある「僕」という存在が出てくる。
「僕」は闇バイトか?と思うような高報酬で箱を買ってくれるという話を受けることになる。買主はまさかの女で取引の指定場所はまさかの橋の下。箱男に相応しくない場所にじっと女を待ちながら、女は来るわけない。よしんば来ても美人局のように代わりに怖い男がやってきて「僕」は殺されてしまうのだろうとグルグルと妄想を巡らせていく。
ここまでがあらすじだ。あらすじにも書いたが、箱を買うという話はまさしく現代では闇バイトかなにかのような取引として描かれている。『箱男』が書かれた当時も貧乏で思慮が足りなくなった人間をカモにするものがいて法外の値段を餌に釣っているのである。
途中、作者の安部公房自身がカメラを手に取り撮った写真が挟まる。シャッターの閉まった宝くじ売り場、列車のプレート、頭蓋の解説図のポスター 、車椅子に乗った少女と車椅子を囲む老人、全く取り止めのない対象の下に意味深長な文章が添えられている。何かわからないが、そこはかとなく恐怖を感じる。誠に安部公房は多彩である。小説も書け、医者でもあり、写真も撮り、演劇も主催する。前後関係はわからないが、徐々に小劇団の劇のような描写が増えてくるのは演劇を主催したことと関係あるのだろう。
現代でも闇バイトに手を出すのは箱男
闇バイトについてSNSやその他の場所では、日給15万なんてあり得ないだろうと犯人の思考力を疑ったが、彼らは違法行為を行うことになるかもしれないと分かっていながら闇バイトに手を染めるのだ。箱男が社会の底辺にいる存在だと自分で思っていながら、自ら箱男になる。
箱男になる覚悟と闇バイトに手を染める覚悟はあまり変わらないだろう。世の流れや情勢の中で周りに流されるようにいつのまにかそうなってしまうものです。私のように知恵も力もないならば、世間から隠れるようにひきこもるしかないのである。
本音を隠し、見た目を隠し、世間から奇異の目で見られても分からないくらい心を閉ざすことでようやく外に出れるのは現代の多くの人にも言えるのでしょうか。