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11/28 鈴木慶一ミュージシャン生活50周年ライブ @ビルボードライブ東京

鈴木慶一が「MOTHER」の音楽をライブで演奏する。ハッキリ言ってこれは「事件」、いやさ「奇跡」だ。

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1989年に発表されて以降、根強いファンを持つRPGシリーズではあるが、ドラクエやFFらスクエニ系に代表される他のRPGに比べると、シリーズ作も少なくブランクが長いこともあってかカルト的な人気ではあるし(スマブラでしか知らないという人も多いだろう)、そもそも任天堂が一時期までファンイベントやライブ等に消極的だった面もあって、MOTHERをメインに取り上げたコンサート・ライブは有志の楽団による演奏などを除けば、2012年にほぼ日の企画でサカモト教授とヒャダインによる配信ライブが行われたくらいだった。
2020年に入ってから「ほぼ日MOTHERプロジェクト」としてグッズ展開がスタートしたものの、音楽面では30周年記念として「1」のサントラ盤がレコード化された以外は特に展開がなかったのでこのまま過ぎ去るものだと思っていたが、突然「『MOTHER』の音楽を作曲者たる鈴木慶一がライブで演奏する、さらにゲストとして田中宏和も出演する」という報せが飛び込んできた。先述のほぼ日のライブで2人がゲストとして出演して演奏に参加したことはあったものの、鈴木慶一本人のライブでMOTHERが取り上げられるというのはかなりの驚きで、「これはどうにかして都合をつけて観に行かなくてはならない」と決心した。

いちおう「鈴木慶一ミュージシャン生活50周年ライブ」というタイトルではあるものの、ムーンライダーズもTHE BEATNIKSもNon Lie-senseも、鈴木慶一ソロの曲すらも演奏しない「MOTHER」づくしのライブであったため、それらの曲を期待していたファンからすれば拍子抜けだったかもしれない。が、ながいこと「MOTHERの曲をバンドで演奏するライブやってくれないかな~~~~」と思い続けて来た人間としては、今回のライブは「31年目に起きたマジの奇跡」だとしか言いようがない。しかも1989年当時に発売された、伝説的なサウンドトラック盤をほとんど完全再現する形で演奏されたのだから、これを奇跡と言わずして何という!
鈴木慶一自身がMCで語った所によると、50周年の企画としてはちみつぱい再結成などの構想があったものの、ここ1年の情勢のため唯一実現できたのが今回のライブだったらしいので、本当にラッキーだったというか・・・。

まず、開演前BGM~入場SEが「Snowman」の新アレンジだったのですでにテンションが上がってしまい、薄暗いバーカウンター席で興奮気味に震える挙動不審の男になってしまった。「戦闘シーンとかは、できませんけど・・・」と笑いを取りつつ、早速一人目のゲスト、斎藤アリーナを呼び込んで演奏された「Pollyanna」で完全にノックアウトされてしまった。
MOTHER1のサントラはもう本当に耳にタコができるほど聴き込んでいるアルバムで、収録曲はほぼ空で歌えるし、アレンジや尺も頭に焼き付いているレベルだが・・・本当に、ほんとどのまま、いやそれどころかさらに発展しており、バンドの生き生きとした演奏、斎藤アリーナのチャーミングなボーカル、そのすべてがオリジナルのCDに全く劣らず、2020年に演奏されるアレンジとして最良の形をとっていた「Pollyanna」を目の当たりにして震えた。そしてこのライブを生で目撃する機会に恵まれたことを心の底から感謝した。発声が禁止されていない普段のライブだったら、ありったけの声で声援を送っていただろう。鈴木慶一らバックバンドのコーラスが斎藤アリーナのボーカルと掛け合いになるところなんか、なんか知らないけど泣けてきてしまった。

続いてHANAを呼び込んで演奏された「Bein’ Friends」はオリジナルではデュエットで、ジェレミー・ホランドが歌っていた一部パートを鈴木慶一が歌い、HANAと掛け合いの形となる。「The Paradise Line」の前の澤部渡とのMCの中では下北沢の路上で澤部が鈴木に「あ、スカート(澤部のソロユニットの名前)だ!」と話しかけられたという出会いの話もしつつ

鈴木「一人でバンドって言うのはなかなかないよね」
澤部「コーネリアス(小山田圭吾)とか・・・」
鈴木「おーっ・・・なるほどコーネリアスをバンドとして見るか・・・」

というやり取りなども。今回のライブは1曲1曲ゲストを呼び込む関係もあって曲間で毎回MCが挟まれ、鈴木の穏やかな声と軽妙な語り口は会場の和気あいあいとした雰囲気を作るのに一役買っていた。このシリアスになり過ぎない、熱くなり過ぎない会場の空気感も、MOTHERの音楽が演奏される場にふさわしいと思いつつ、MOTHERシリーズの音楽の独特の雰囲気には鈴木慶一という人間の人柄も出ているのかな、と強く感じた。
The Paradise Line」はそのロックンロールサウンドもさることながら、パラダイス鉄道の終点・イースターの街のBGMが取り入れられているのが個人的に大好きで、もちろんライブでも再現されていてグっときた。またこの曲で特に強く感じたが、ゴンドウトモヒコのホーンがフォーリズムだけではなかなか出せないスケール感を演出しており、彼の存在によってサウンドがかなり広がっていた印象がある。ライブアレンジにおいても大きな役割を果たしていたようで、今回のMVPは彼だったかもしれない。

オリジナルは完全打ち込みだった「Magicant」は、一部リズムトラックに打ち込みを使いつつも殆どのパートを生演奏するという思い切ったアレンジになった。エンディングでテンポや拍子すらも変わるめんどくさい曲だが、そこすらも演奏しきったのは見事。
続いて呼びこまれたのは坂本美雨。「赤ん坊の時から知っている」という鈴木が「かしぶちくん(かしぶち哲郎-ムーンライダーズのドラマー。2013年に死去)のアルバムのレコーディング(母親・矢野顕子の参加した「リラのホテル」と思われる)で美雨ちゃんがスタジオに居て、メロディーを聴いてその場で歌ってた」というエピソードを披露しつつ、「Wisdom Of The World」へ。個人的には坂本美雨のボーカルは「高く透き通ったウィスパー気味のボイス」というイメージが先入観としてあったが、この場でのボーカルはとても深くパワフルな面が出ていて、かなりイメージを覆された。またこの曲はオリジナルはデヴィッド・ベッドフォードによるオーケストラアレンジだったため、バンド用にゴンドウトモヒコが新たにアレンジしたバージョンが披露された。編成は全く異なるものの、オーケストラのダイナミクスを上手くバンドアレンジへ翻案していたと思う。

「生きてるうちにやっておきたかったことの一つで、MOTHERの音楽を演奏するライブは・・・今日2回目(昼夜2回公演だった)なので、これは1.5倍叶っているけれども、もうひとつ、MOTHERの音楽をセルフカバーしてアルバムにまとめたかった。」ということで、ここで来年1月に発売される「MOTHER MUSIC REVISITED」の発売が告知された。「デラックス版にはゲームの原曲も収録します・・・サカモト教授(坂本美雨の父親ではなく、ファミコンを頭に乗せたピアニストの方)がファミコンでプレイして録音してくれました」という告知は何気に大興奮だった(MOTHERシリーズはゲーム音源をきちんと収録したCDがいままで存在しなかったのだ!)。

MCで鈴木にアルバムをベタ褒めされて照れ気味のダニエル・クオンが歌った「Flying Man」は今回最も楽しみにしていた曲のひとつだ。軽快なリズムをバックにダニエルと鈴木が交代でボーカルを取り(儚げなダニエルのボーカルとだしのきいた感じの鈴木のボーカルの対比が楽しかった!)、斎藤アリーナと澤部渡、そしてベーシストの岩崎なおみによる美しいコーラス———岩崎は全編通してベースプレイもさることながら、コーラスも素晴らしかった———が花を添える。エンディングの星を散らしたようなコーラスはこのライブのハイライトの一つだったと言っていいだろう。
「オリジナルっぽい感じで・・・」と前置きして演奏された「Snowman」。MOTHERシリーズ屈指の人気曲であり、シリーズ皆勤曲でもあるこの曲を期待していたオーディエンスは多かっただろう。雪景色に朝日が差すようなサウンドが心地よい。エンディングは西田修大がギターソロで締めくくった。
続いて小池光子のボーカルで「All That I Needed(Was You)」。ゲームでは主人公たちが訪れたライブハウスで「あんたたち、歌わんかね?」と誘われて立ったステージで歌われる曲だ。港町バレンタインのライブハウスと、港区六本木のビルボードライブ東京のイメージがダブってリンクするような感覚を覚える。そして西田修大の炸裂する様なギターソロが響き渡る・・・なにしろ曲が終わっても延々とフィードバックを響かせていたくらいだ。そして響き渡るフィードバックの中、スペシャルゲストが呼び込まれた。
「最後のゲストです・・・MOTHERの音楽を一緒に作ってくれた・・・田中宏和!」
元任天堂スタッフで、「バルーンファイト」「メトロイド」「スーパーマリオランド」そして鈴木慶一とともに「MOTHER」の音楽を手がけた田中宏和である。田中宏和と岩崎なおみのツインベース編成で「Fallen’ Love,And」になだれ込む。この曲はオリジナルではキリング・タイムや斎藤ネコカルテット、じゃがたらのメンバーから構成されたアンサンブルでの演奏だったが、今回佐藤優介によってバンド編成にアレンジされ、よりジャジーなサウンドに生まれ変わった。ちょうどビルボードライブのようなシックな空間で、飲み物をかたむけながらゆったり聴くのにピッタリだったと言っていいだろう。

MCタイムで改めて田中宏和を紹介。「『神』ですよ!・・・『神』なんでしょ?(おそらく佐藤優介の方を見ながら)」とおどけつつ、当時二人でサッカーのユニフォームを買いに行った・・・など、制作当時のエピソードトークに花が咲く。そしてここで「MOTHERに関わる機会を作ってくださった糸井さんに感謝を・・・そこにいますね。」と、ステージ前の席に糸井重里が来場していた事が発覚(自分の席は3階のカウンター席なので見えなかったが)。「糸井さんなにか喋る?でもね、いまは他人のマイクで喋っちゃいけないんだよ。・・・だったら最初から言うなって?」と笑いを誘った後は、これまでボーカルを取ってきたゲストたちを全員ステージへ呼び込んでいく。いよいよ最後の曲、7人のゲストたちが横並びになって静かに曲が始まる。ゲストたちがそれぞれ一節づつ、バトンを渡すように歌い始め、最後に鈴木が「Love,Oh Love」と呟くように歌う・・・「Eight Melodies」だ。今回のライブは昨今の情勢に則って、観客は発声禁止というルールがあったわけだが、この曲でこのルールが存在することを心の底から悔やんだ。出来ることならこの曲を会場で一体となって歌いたかったという気持ちしかない。しかしそんな事を言っていてもしょうがないので、小さく口パクで歌いつつ、この曲を生演奏で聴くという体験を噛みしめていた。自分だけでなく、ゲームのメインテーマとも言えるこの曲を、観客一人一人がそれぞれの思いを噛みしめながら聴いていたに違いない。最初はユニゾンだった8小節のメロディーが、曲が展開するにしたがって折り重なるようなハーモニーへと変わっていくのは感動の一言。シンプルなメロディーの繰り返す曲だが、あっという間に終わってしまった。

ここで本編はいったん終了となるがすぐさまアンコールが響く。鈴木が拍手の中一礼しながら出て来て開口一番、「全部で10曲だからもう曲が無い」と言いつつも、アンコールでは特別に「MOTHER MUSIC REVISITED」からさらにアレンジ・リミックスしたようなバージョンを演奏する、ということでベースに田中宏和、ギターに澤部渡を呼び込んで「Eight Melodies(Revisited)」が始まった。
鈴木の声がリズムループのように繰り返されるイントロから始まるこちらのバージョンは、先ほどとは打って変わって、今回のバンドのメンバーがアイコンタクトしながら伸び伸びと演奏しているようで、後半は原曲の荘厳な響きからは逸脱したフリーセッションのような勢いも見られる演奏になっていった。「昔のCDと同じじゃつまらないでしょ?」と言わんばかりのアレンジに、1月に出るアルバムが一層楽しみになったのは言うまでもない。
とうとう最後の曲も終わり、ステージに一人残った鈴木が45周年ライブで共に演奏した矢部浩志と高橋幸宏、2人のドラマーの回復を祈る言葉を送った後、「次は60周年でお会いしましょう!」という言葉を残して一礼し、ステージを去った。

脳裏に浮かんだのは、ゲームで「きぼうのオカリナ」を吹いた時にどこからともなく聞こえる「◆きこえたかい?」の言葉。今なら何の迷いもなく答えられる。「聴こえたよ!」と。

SET LIST
BGM~SE Snowman
1.Pollyanna(I Believe In You)(feat.斎藤アリーナ)
2.Bein’ Friends(feat.HANA)
3.The Paradise Line(feat.澤部渡)
4.Magicant
5.Wisdom Of The World(feat.坂本美雨)
6.Flying Man(feat.ダニエル・クオン&澤部渡・斎藤アリーナ)
7.Snowman
8.All That I Needed(Was You)(feat.小池光子)
9.Fallen’ Love,And(with田中宏和)
10.Eight Melodies(All Casts)
Enc. Eight Melodies(Revisited)(with田中宏和・澤部渡)

Musicians
鈴木慶一(Guitar,Vocal)
ゴンドウトモヒコ(Horn,Synth,Perc,Chorus)
西田修大(Guitar)
岩崎なおみ(Bass,Chorus)
柏倉隆史(Drums)
佐藤優介(Key,Chorus)

Gests
斎藤アリーナ
HANA
坂本美雨
小池光子
澤部渡(Vocals,Guitar)
田中宏和(Bass)


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