うれしいは、友達
袖無かさね
その子は太陽です。太陽には友達がいました。月です。
太陽は月のことを誰よりも特別な友達だと思っていました。だって、太陽はいつも、月と一緒に空を回っていましたから。太陽は月のことが大好きだったんです。
地面が言いました。
「太陽くん、いつも明るくしてくれてありがとう。」
風も言いました。
「太陽くんの光があるから、迷子にならないでいられるわ。」
太陽は、そのたびにみんなに言いました。
「いえいえ、月くんも一緒だからできることなんです。」
「さすが太陽くん。」
それでもなぜか、みんなは太陽のことしか見ませんでした。
それを聞いて、月はがっかりしました。ボクだってみんなを照らしているのに、どうして褒めてもらえないんだろう。みんな、太陽くんばっかり。太陽くん、ずるい。
それで、月は、雲の後ろに隠れることにしました。誰もボクのことなんて気にしちゃいない。だったらボクなんて、いなくても同じさ。
月が隠れてしまったので、夜が暗くなりました。地面は暗いのが怖くて泣き出しました。風はあっという間に迷子になりました。
「太陽くん、どうして明るくしてくれないの。」「太陽くんの光がなかったら困るじゃないの。」
みんな、声をそろえて太陽を責めました。
太陽は何も言わずに月を探しました。
「月くーん、どうして隠れているの?」
「ボクのことなんて誰も気にしちゃいないのさ。」
月の声が聞こえました。
「出てきておくれよ。」
「暗くて地面が怖いのも、暗くて風が迷子になるのも、全部ボクのせいだって、みんなに言えばいいよ。」
「違うよ。」
太陽は寂しくなりました。
「僕は、月くんと空を回りたいんだよ。だから探しに来たんだ。」
それを聞いて、月は、あれ、と首をかしげました。ボクはなんで隠れているんだっけ?
また、太陽の声が聞こえました。
「みんなはみんなだし、僕は僕だし、月くんは月くんだよ。」
うん。
「月くんは、そこで隠れているのが好きなの?」
太陽はそう聞いてみたけれど、月の声は聞こえなくなりました。
「月くんが隠れているのが好きなら、僕は一人で空を回るしかないな。」
太陽は、月と一緒が良かったけれど、隠れていたい気分でもなかったんです。
その次の夕暮れに、地面がきゅっと身体を固くしました。
「ああ、また暗い夜がやってくる。怖いなぁ。」
風もヒュルル、とうなだれました。
「迷子になるととても心細いのよ。」
でも、その夜は違いました。月がまた、雲の後ろから顔を出して、夜を照らしたのです。
地面がほっとして空を見上げました。
「ああ、なんて素敵な月だろう!」
風はフワワ、と舞いました。
「このやわらかな光は、月にしか作れないわ!」
月はずっとみんなに褒められたくて、そして今とうとう褒められたのだけれど、あれれ、と首をかしげました。そんなに嬉しくないのは、なんでだろう?
月が顔を上げると、遠くで太陽がにっこりと笑っていました。月は、やっとにっこりと笑いました。
そっか、うれしい、って、友達だ。
おしまい
photo by chin.gensai_yamamoto
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