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スウェーデンのNATO加盟と防衛産業の未来(IISSの記事)

写真出展:PfüderiによるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/pfüderi-199315/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=2239718

 英国国際戦略研究所(IISS)は2023年8月4日に、スウェーデンにおける防衛産業の現状に関する記事を発表した。内容は、NATO加盟に伴う防衛産業の新興の期待と産業が抱える課題について概観するものである。台湾有事を前にして日本でももっと防衛産業に関する議論が展開されて欲しいが、こういった問題がタブー視されているためか、ほとんど情報が出てきていない。日本のような貧困な情報空間では見られない情報に触れられる良い機会として、本記事の概要を紹介させていただく。

↓リンク先(Sweden’s defence industry: NATO membership promises new markets but poses challenges)
https://www.iiss.org/online-analysis/military-balance/2023/08/swedens-defence-industry-nato-membership-promises-new-markets-but-poses-challenges2/

1.本記事の内容について
 ・スウェーデンが昨年5月にNATO加盟申請を表明して以降、国内の防衛産業の活性化してきている。スウェーデンの主要な防衛産業企業であるSaabは、ボーイングE-3Aの代替機としてGlobalEye対空哨戒機を提案しており、NATOからの受注を目指している。
 ・ただ、スウェーデンの軍事産業の道のりはまだ未知数である。スウェーデンの軍事産業は輸出に大きく偏っており、例えばSaabの売り上げの58%は輸出であるが、販路が分散されているとは言えない状況である。スウェーデンの強みは航空戦闘機、潜水艦、センサー、装甲車、エンジンの部品などであるが、特定国への輸出に留まっていることが多い。例えばグリペン戦闘機はブラジル以外にはほとんど輸出されておらず、チェコの市場はロッキードのF-35Aに奪われてしまった。
 ・また次世代戦闘機の開発についても問題が残っている。アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、日本が開発に乗り出しているものの、スウェーデンは2019年にイギリスと共同開発について合意したものの、開発は遅々として進んでいない。その他、予算の問題もある。スウェーデンは、防衛費の対GDP比2%目標を2026年までに達成するよう計画を前倒したが、インフレ圧力が高まっており、この目標では到底新たしい技術開発予算を賄えない水準になっている。
 ・兵器輸出政策についても、一貫性がない部分がある。数年前までは、トルコへの兵器輸出を制限するなどの抑制的な政策を採用してきたが、トルコがNATO加盟に賛成を表明するとこの政策を転換するなど、不透明な部分がある。ただこういった問題がありつつも防衛産業は前向きであり、NATO加盟の長期的な利益を追い風にしようとしているのである。

2.本記事についての感想
  防衛産業の新興は国家の存亡に直結する問題であり、もっと注目を浴びるべきであろう。しかし日本の言論空間は絶望的なまでに低次元であり、安全保障関係の情報について鎖国状態にある。台湾有事の危険性が高まり、NATOとの連携が模索されている最中、十分な防衛産業の議論がなされないのは異常事態である。
  一定規模以上の防衛産業を持っているスウェーデンですら、大きな問題を抱えているのであり、日本はより真剣に問題を捉えなければならないのは言うまでもない。基幹的な技術確保が重要であるという認識は日本人も共有していると思うが、一方で軍事産業を無視した技術開発が可能であるなどといった幻想を抱いている傾向も見てとれる。こういったお花畑な議論に拘泥していては、まっとうな政策を策定することなどできるわけがない。現在だけでなく未来を見据えた技術開発について、大いに現実的な議論を展開するべきである。

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