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中国の極超音速兵器と今後の核戦略(RUSIの記事)

 写真出展:OpenClipart-VectorsによるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/openclipart-vectors-30363/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=1294262

 2021年11月18日に英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)は、中国の極超音速兵器の核ミサイル実験に伴う核戦略の今後に関する記事を発表した。内容は、現在の所極超音速兵器は核戦略を変化させるものではなく、中国のプロパガンダであるとして冷静に判断することを訴えるものである。日本では保守派を中心にややヒステリックな見解を示す意見が多いが、実際に求められているのは事実に即した情報と現実的な分析である。本記事は日本ではなかなか見られない見解を示す優良なものであることから、その概要をご紹介させていただく。

↓リンク先(China’s Hypersonic Missile Test Does Not Change the Nuclear Calculus)
https://rusi.org/explore-our-research/publications/commentary/chinas-hypersonic-missile-test-does-not-change-nuclear-calculus

1.RUSIの記事について
 ・10月のフィナンシャルタイムズの記事にて、中国の極超音速兵器の発射実験が紹介され、核兵器の技術的大躍進であると評した。概念実証用のミサイルはマッハ6で飛行したとされ、現代のミサイル防衛システムをかいくぐることが可能であるとされていた。しかしこの記事の主張とは裏腹に、極超音速兵器は今のところ世界に存在する13000もの核兵器の抑止力を変更する影響力を持っていない。
・極超音速兵器の戦略的意義を理解するには、中国のこの実験に至るまでの経緯を把握しておく必要がある。1949年に蒋介石が中国本土から台湾に脱出し、中華民国政府を新たに樹立した。これは毛沢東にとって大きな失敗であったとされており、台湾の独立は多民族国家である中国の共産党一強支配体制の名を傷つけるものでとなっている。このため、彼を超越しようとしている習近平は、台湾併合に躍起になっているのである。
 ・中国は、台湾を併合するために核兵器を用いるようなそぶりを見せておらず、水陸両用兵器や航空機などにより圧力をかけて心理的に追い込む戦略を取っている。中国は社会契約により人民を守る義務があることから、国内と見なしている台湾に対する核兵器の使用は、自己否定に陥ることにもなり、この点からも望ましくないと考えているようだ。
 ・バイデン政権は同盟国との協調を重視しており、アジア太平洋の安全保障体制であるクアッドに加入し、多国間の枠組みで中国への対抗姿勢を見せている。クアッドの活動が拡大していくと、三元戦略核戦力(大陸間弾道ミサイル、潜水艦発射弾道ミサイル、核搭載戦略爆撃機)の重要な要素である、原子力潜水艦を配置することが考えられる。潜水艦は陸上に拘束される必要はなく、本土が攻撃されたとしても反撃することが可能である。
 ・またAUKUSの枠組みによるオーストラリアへの原子力潜水艦配備も重要な要素である。オーストラリアがフランスとの契約を破棄したことで3か国との関係が悪化しているが、バイデン大統領は謝罪ビデオを記者会見で発表し、この問題を軟着陸させることに成功したようである。ただしこりは残っており、環大西洋の安全保障に暗い影を落とすことになっている。
 ・マクロン大統領は、アメリカの核の傘の影響を低減させ、戦略的自立性を確保しようとしつつ、ヨーロッパの調和を乱すイギリスを強くけん制している。オーストラリアはフランスとの関係改善を望んでおり、このことは中国への抑止にとっても必要な要素になるだろう。イギリスはアングロサクソンの枠組みによる軍事的、外交的戦略に深くコミットしようとしており、インド太平洋への艦隊派遣はその一環である。バイデン政権は核戦略の見直しに着手しており、第一撃の在り方について評価を進めており、今後どのような方針を取るのかが注目されている。
 ・11月初頭に国防総省が議会に提出した年次報告によると、中国の核兵器は中国国外へも影響を与えるものとなっているとしている。2030年までに数100から1000基までの核兵器の急速な増加は、米中間の懸念事項である。また三元戦略核戦力も獲得しつつあり、これまでの戦略である最低限の抑止から大きく転換しているともしている。
 ・バイデン-習のオンライン会談でも核兵器について協議を継続していくことが合意されたが、今後の展開は不透明である。従って、極超音速兵器のような兵器に対する対空防衛技術の開発が急務であり、特に地球規模攻撃軍団の研究開発、旧式兵器の更新、核兵器の最新化などへの投資を継続するべきである。
 ・結論としては、今回の実験は大躍進と言うよりは中国のプロパガンダである。実験機が順調に動作したとしても量産化はできておらず、軍事開発の資源を不当に分散させる可能性もあり、核抑止の状況を一変するまでには至らない。また極超音速兵器であっても全ての核兵器を破壊しつくすことまでは不可能であり、原子力潜水艦などによる各報復は依然として有効である。

2.本記事についての感想
 日本の保守派の底の浅さがわかるような内容の記事である。無論、中国の極超音速兵器を過小評価するべきではなく、危機感を持ってもらうために多少煽らないといけないのは理解できるが、ヒステリックな中国万能論的な解説ばかりでは、賢明な人ほど安全保障問題から離れて行ってしまうのではないだろうか。
 今必要とされていることは、冷静かつ現実的な分析である。中国が科学技術の分野で目覚ましい進歩を遂げつつあることは確かであるが、公表されている情報が事実なのか、プロパガンダの要素が含まれていないか、現実的な対処は何かといったことを丁寧に説明してくれるひとはほとんどいない。日本においても、今回の記事のような情報がより多く出てくるような言論空間が出現することを望みたい。

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