NATO戦略の変化について(IISSの記事)
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英国国際戦略研究所(IISS)は2022年6月30日に、先日実施されたNATOサミットで発表された戦略文書について紹介する記事を発表した。内容は、ロシアや中国の脅威を受けて、軍縮などの抑止戦略の変化について紹介するものである。ここ最近NATOのロシアへの対決姿勢ばかりが注目されがちであるが、安全保障は着実な戦略や政策に基づいて実施されるべきものであり、NATOの今後の動向を探るうえで重要な内容が含まれている。安全保障環境を巡る状況を理解する参考として、本記事の概要を紹介させていただく。
↓リンク先(The new NATO Strategic Concept and the end of arms control)
https://www.iiss.org/blogs/analysis/2022/06/the-new-nato-strategic-concept-and-the-end-of-arms-control
1.本記事の内容について
・2022年のNATOマドリッドサミットのNATO戦略構想文書において、軍縮政策、リスク軽減や紛争調整、信頼性構築事業などが強調された。これは2010年に発表され戦略構想とは一線を画すものとなっており、和平維持戦略の多様化を宣言したものとなっている。またロシアと中国について言及した初の文書となっており、冷戦期のような表現を活用している点からも、重要な変化があったと見るべきだろう。
・1991年の文書では、アメリカ、ヨーロッパと共にソ連と軍縮で協力していくべきであると述べていたが、同時にソ連の変化に対して同盟国が対処するべきであるともしていた。2010年の文書ではロシアがNATOの戦略的パートナー国であるとされていた。ただ2022年の文書では、同盟国、ヨーロッパ-大西洋地域における平和と安定にとって、ロシア連邦は最も深刻かつ直接的な脅威でありとしたのである。
・中国については、2019年のロンドンサミットにて、1965年の文書移行で初めて言及されたが、2022年の文書はさらに進んだものとなっている。中国の野心及び脅迫的政策は、国益、安全保障、民主主義的価値観にとっての脅威であると述べられており、2021年のブリュッセルサミットにおける表現を踏襲しつつ発展させている。
・また、ロシアと中国へのリスク軽減及び透明性確保についての取組についても議論している。ロシアについては、NATOはロシアに対立や脅威を与えることはせず、対話の窓を開き、リスク軽減、事態悪化の抑制、透明性の確保で協議する用意があるとしている。また中国に対しては、同盟国の安全保障確保のため、相互透明性を確保するため、建設的な取り組みを進める用意があると述べている。
・その他の論点として、世界の軍縮や不拡散体制についても議論されているが、解決方法が明確に提示されているとは言えない。現状分析としては、「軍縮や不拡散体制の後退は、戦略的安定性に悪影響を及ぼしている。ロシアの条約違反等の行為により、状況がさらに悪化している。生物兵器や化学兵器、核兵器などの利用が、安全保障上の脅威になり続けている。イラン及び北朝鮮は、核兵器やミサイルの開発を継続しており、シリアや北朝鮮、ロシアは化学兵器を使用している。中国は核兵器を強化させており、透明性なく、リスク軽減措置も取らず、複雑なシステムを構築しようとしている。」と述べている。
・将来の軍縮に関しては、1967年のハーメル報告を参照し、軍縮には抑止が第一の基礎となるとしている。そして、このことはロシアだけでなく中国にも適用されるとしており、効果的な抑止と軍縮や意義ある政治的な対話が安全保障にとって重要になると述べている。また兵器の抑制や不拡散は同盟国の目標であり、NATOをプラットフォームとしてさらに深みのある議論や支援をする用意があるとしている。
・軍縮以外のリスク軽減策も強調されており、信頼性構築、対話による透明性確保、相互理解や効果的な危機管理対策などの政策が提示されている。このような対応により、安全保障環境が改善し、抑止が可能になるとしている。
・多国間の軍縮の枠組みがない中で、NATOがどのようにして兵器の抑制を図るのかも示されている。特に意図的ではない紛争への対応や同盟国の抑止能力向上などにも間口を広げており、ロシアへの兵器抑止策をしばらく活用しないことを暗示している点が特徴的である。武器抑止に関して最後に言及されているのは、1970の核不拡散防止条約である。本条約は核兵器管理の重要な防壁であり、核兵器の存在しない世界を構築するというNATOの目標を達成するため、全力で核不拡散に取り組むとしている。
・最後に宇宙空間とサイバー空間における、責任ある行動について言及しており、国連が策定中の原則に歩調を合わせることとしている。こういった変化については、ロシアのウクライナ併合への対応を焦点とした2014年のウェールズサミット以降の流れに沿ったものとなっており、旧態依然の軍縮よりもリスク軽減や抑止といった手法が同盟国の安全保障確保として重視されていることを示している。
2.本記事についての感想
NATOは長年の歴史があって、各種組織が整備されているが、しっかりしている分動きが重い。一度動き出せば強力である。今回の戦略構想の変化は、NATOのダイナミックな側面を見せたとも言え、大きな変化と捉えるべきである。
日本にできることは、中国の脅威を伝え、アジア方面への注意喚起を図ること、NATOと組織的連携を深めることである。NATOにはイノベーション拠点やイノベーション諮問委員会などの組織があり、政治海外にも学術関係者、個人向け製品、防衛、科学技術のような分野の会社の重役などが参画している。防衛関係の科学技術イノベーションを国家安全保障問題だけに限定するのではなく、経済にも関係があるものとし、幅広い参加者を募っている。日本は相対的に軍事産業が弱いことから、経済方面で科学技術に強い企業が参画できるよう働きかけるなどの取組が重要になるだろう。
ただ日本はパートナーであり、それほど主体的に役割を果たすことはできないだろう。岸田総理の危機感のない表情を見るにつけ、単なる社交のレベルで終わっているように思われる。安倍元総理ならもう少し違ったかもしれないが、国内である程度支持されていると言っても基本的な外交力や構想力がない人物が出席して何ができるというのだろうか。結局お金を配って、リップサービスをして終わりなのではないか。
最近岸田総理の覚醒などといった欺瞞的な記事が出てきているが、選挙にほとんど関係がないような事項まで何もしていない所を見ると、本質的には何も変わっていないと見るべきである。選挙が終わったのだから、これ以上の遅延は許されない。今後も政権の動きを注視していくべきである。
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