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イギリスのマネーロンダリング政策の行方(RUSIの記事)

写真出展:NikolayFrolochkinによるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/nikolayfrolochkin-2231981/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=1362244

 英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)が2021年9月16日に、イギリスのマネーロンダリング政策の動向及び今後の展望に関する記事を発表した。内容は、EUやアメリカなどの制度からイギリスが学ぶべき事項について概観するものである。今回はこれまでの記事よりも具体的であり非常に参考となることから、本記事の概要についてご紹介させていただく。

↓リンク先(What Does the Future Hold for the UK’s Money Laundering Regulations?)
https://rusi.org/explore-our-research/publications/commentary/what-does-future-hold-uks-money-laundering-regulations

1.RUSIの記事について
 ・2019年7月から、イギリス政府は民間部門と共に、経済犯罪対処の改善策を模索している。この作業は経済犯罪計画の下で進められており、52に及ぶ改善事項に取り組んでいる。2021年7月時点で80%が完了ないしは進行中であり、現在はマネーロンダリング規制とマネーロンダリング監視局の改革が進行中である。
 ・マネーロンダリング規制は、マネーロンダリング対策及び金融テロ対策の主要な法制度であり、民間部門が法律やビジネス上の負担を軽減しつつ、マネーロンダリングにいかに対応していくかを定めている。これまでの規制は、EUのマネーロンダリング防止指令の内容を踏襲していたが、ブレグジットに伴いイギリス独自の規制を考案する必要がある
・EUも改革に取り組んでおり、2021年7月にマネーロンダリング防止パッケージを発表した。アメリカも2020年マネーロンダリング防止法を12月に可決する予定であり、今後数年間運用されることになるだろう。イギリスはこれら改革の動きを見据えながら、適切な運用を考えていくことが重要である。
・イギリスの規制と他国の規制との類似点及び相違点については、以下の通り。

 ① リスクへの取組
   イギリスは民間部門が金融犯罪リスクを発見、制御することを求めており、ビジネス上の負担を軽減しつつ、適切にリスクの発見が可能となるような運用が必要になっている。アメリカの制度では、民間部門に特定領域のリスクに着目するよう求めており、この制度を導入するか否かが一つの判断になるだろう。また、「コンプライアンス事業の有効性」に関する定義付けも計画しており、これは民間部門から歓迎されることになりそうである。(今年の初頭に、ウォルフスバーグ(グローバル金融犯罪リスク管理の枠組み構築を目的とする13の国際的な金融機関からなる非政府組織)からマネーロンダリング対策について声明が発表されており、この内容に近いものになっている。)
   EUの新しい規則集には詳細な規定が盛り込まれており、コンプライアンスの技術的基準の設定により、リスクベースの取組の曖昧さを取り除こうとしている。
   こういった規制の違いは企業経営の障害になりうることから、運用面での調整が必要になるだろう。

 ② 監視体制
   イギリスの監視体制は非常に複雑であり、3人の法廷監督者及び22の監視組織から構成されている。この体制は2018年の金融活動作業部会(FATF)の監査結果でも批判されており、縦割り組織モデルの欠陥事例として言及されてもいる。2018年から、監視組織の上部機関である、マネーロンダリング監視局を設置して改善に取り組んでいるが、まさにこの組織の役割が焦点となっている。
 EUは全域に及ぶ監視組織の設立を計画しており、リスクの高い金融組織のマネーロンダリング対策措置を直接的に監視し、国家単位の監視者を監督することになる。各国当局が適切に対処できない場合は、介入する権限も有している。
 この点イギリスの監視制度は一貫性を欠いており、EUの多重構造的な監視体制に学び、権限の拡大や、脆弱な組織のフォローなどを行えるようにするべきだろう。

 ③ 技術とデータ
   マネーロンダリング対策にはエビデンスが求められるようになっていることから、政府はデジタルIDなどの新しい技術の導入を妨げる障壁を撤廃することを計画している。
   EUは、デジタルIDの活用には積極的であるものの、個人情報の管理については意見が分かれている。今年5月に欧州データ保護委員会は、欧州委員会に個人情報の取り扱いとマネーロンダリング対策のバランスを取るよう求める文書を提出している。
  この点はイギリスが世界を先導することが可能であり、FATFのデジタルIDガイダンスに適合した最新版のデジタルID及び犯行特定の信頼ある枠組みを提示することにより、国際的な基準の策定につなげることができるだろう。


 2.本記事についての感想
 今回はかなり具体的な内容に踏み込んでおり、勉強になった。最近、金融活動作業部会の監査結果で、日本の成績が良くなかったという報道があったが、これは予想された通りのことである。
 日本の強さは、言語の壁や人種の同質性などがほとんどであり、セキュリティ対策そのものは全く優れていない。紙幣の技術は大したものだが、金融テクノロジーの分野ではそれほど評価が高くなく、やはりアナログ頼みである。
 ドコモ口座の事件を見てもそうであるが、利便性を追求するあまり、セキュリティが脆弱化しており、こういったサービスを求める日本人自体がセキュリティホールであると言わざるを得ない。日本人はまず安全がタダであるという概念を捨てるところから始まらなくてはならない。法律や政策が良かったとしても、現場の意識が低ければどうしようもない。外圧頼みで変革を促しても、現場に浸透するまでにあまり時間を要してしまう。
 政策や技術も重要であるが、まずは国民の意識改革からというのが日本にとって最良の取り組みになるだろう。

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