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イノベーション及び競争法の是非(CSISの記事)

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 CSISは2021年7月1日に、イノベーション及び競争法の利点と欠点に関する記事を発表した。本法案に関しては、ヘリテージ財団やハドソン研究所なども注目しており、それらとの比較でも参考になると考えられることから、その概要を紹介させていただく。

↓リンク先(What the U.S. Innovation and Competition Act Gets Right (and What It Gets Wrong))
https://www.csis.org/analysis/what-us-innovation-and-competition-act-gets-right-and-what-it-gets-wrong

1.記事の内容について
・イノベーション及び競争法は、中国の土俵に乗って競争するのではなく、既存のアメリカのイノベーション生態系(学界、政府の補助金、ベンチャーキャピタル、自由な競争市場)を強化することを目標としている。国家科学基金を強化し、特定の戦略技術に補助金を拠出することとしている。しかしながら、アメリカ単体では勝利することはできず、適切に分野を選定し、国際協調していくことが必要である。
・中国は、機微な知的財産の盗難や入手などを積極果敢に行っており、このことによるアメリカの年間経済損失は、3000から6000億ドルにも上ると見られている。ここ10年で中国による経済的な諜報活動は1300%も増加しており、FBIは10時間から12時間ごとに新たな調査を行っているほどである。
  中国に対抗するため、議会は対米外国投資委員会(CEFIUS)を強化し、海外からの幅広い投資活動を評価できるよう刷新した。また民間企業や学会に至るまでの、中国の経済浸透を調査した。
  ・イノベーション及び競争法は、これまでの経済安全保障を拡張している。本法案では、大学が特定の海外の人材と関係を持つことを制限しようとしているが、このことにより海外との共同研究が阻害され、CFIUSの審査手続きに多額の費用を要するなどの欠点も指摘されている。その他アジア系の学者が不当に追求される傾向にあり、政府と学会に緊張関係が生まれつつある。
  ・更に行政予算管理局内への連邦研究安全保障諮問委員会新設により、状況が悪化することが見込まれる。本諮問員会は、補助金の審査手続きに際し、海外の軍や政府などの組織との関係性を調査する権限を有しており、不正があった場合には特別な罰則が適用される。従って本条項の適用に際しては、脅威を適切に評価し、学界の性質を十分に理解しておく必要がある。
  ・また本法案には、研究安全性及び完全性情報共有分析室の創設も含まれている。
   これは、アメリカの研究業界に海外で実施されている研究や知的財産などの情報を共有することを目的としたものであり、リスク評価基準策定や優良事例の取りまとめ、研究の安全保障に関する情報共有、研修や支援などの役割も担っている。ただ、この組織は課金制のものに移行することとなっており、利用者の利益が損なわれ、十分な予算が割り当てられなくなれば、その実効性は不透明である。
  ・その他、サイバーセキュリティは研究の安全性及び完全性に必要不可欠な要素とされているが、米国標準技術研究所(NIST)による取り組みがすでに行われており、別の仕組みを導入するのであれば、屋上屋を架すことになる。むしろ、予算的な制約のために十分な教育や研究ができない大学への資金援助が必要である。
  ・新しい取り組みのためには、新たな発想、優秀な人材、強力な予算、官民の適切な協調も必要である。その他友好国との協調も重要であり、サプライチェーンの確保は喫緊の課題である。脅威が変化、複雑化するほどに、その対処のための尽力は大きくなる。競争及びイノベーション法の方向性は正しいが、やらなければならないことは多々ある。

2.記事読後の感想について
  過去に何度か取り上げた、イノベーション及び競争法の関連記事である。本法案への各シンクタンクの関心は総じて高いが、やや否定的に受け入れられているようだ。
 どのシンクタンクも共通しているのは、アメリカ単体では中国に勝利できないこと、半導体が重要であること、各国の協調が必要であることである。必ずしも国産にはこだわっておらず、同盟国や友好国から調達可能なものをわざわざ苦労して生産する必要性はないと認識している。ただ、見込みのある新技術の開発には重点的に投資するとしており、戦略的に取り組む姿勢は見せている。一部LGBT対策など意味不明な予算も入り込んでおり、経済安全保障対策にも十分な予算が割り当てられていないが、この政策の方向性が継続すれば大きな成果を達成することができるだろう。
 最近の日本の政策もこの流れの中にあり、半導体を巡る動きはその一つになっている。その他、10兆円ファンドなどを用意しているが、戦略性は今一つである。友好国の技術などを適切に評価し、日本の立ち位置をしっかりと見定めているようには見えない。また国民の側の意識も問題がある。日本はなまじ技術があるため、あらゆるものを国産化することが経済安全保障になるという主張に傾きがちであるが、これは大きな誤りである。競争が激しいものを国産化しても低価格競争を強いられるだけであり、利益が出なければ税金で面倒をみるしかなくなる。継続的に利益を出せなければ意味がなく、イノベーションも継続しない。
 特に半導体に関しては、最近TSMCに対するいわれなき中傷が多くなっているが、これは中国側からの情報工作の一環にもなっている。TSMCと日本政府が仲たがいしてくれれば儲けものであり、そうならなかったとしても国民の批判を恐れて共同研究の支援が弱体化すればそれだけで十分である。無理な国産化で予算が多く割り当てられれば、他の分野が立ち遅れることにもなる。結局TSMCを攻撃して喜ぶのは中国なのだ。
 信頼できる国が技術を持っているのであれば、それは自国が持っているのとほとんど変わらないのであり、国際協調の中で日本が担当するべき技術を抽出し、重点的に予算を配分し、注力していく方が賢明だろう。

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