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アゼルバイジャンの天然ガスとEU(RUSIの記事)

写真出展:Oleg Pixabay OfficialによるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/opowerblast-24164135/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=6765176

 2022年10月5日に英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)は、アゼルバイジャンとEUの天然ガス輸出交渉に関する記事を発表した。内容は、EUが天然ガス確保のため中央アジア方面からの輸入を模索している現状を概観し、今後のエネルギー動向や地域の安全保障環境を概観するものである。
ウクライナ戦争によりエネルギー市場が混乱に陥っている中、EUの置かれている現状が良く分かる内容となっていることから、参考として本記事の概要を紹介させていただく。

↓リンク先(Europe Turns to Azerbaijan for Gas: How Big Could This Be?)
https://rusi.org/explore-our-research/publications/commentary/europe-turns-azerbaijan-gas-how-big-could-be

1.RUSIの記事について
 ・2020年7月18日に、フォンデアライエン欧州委員長は、アゼルバイジャンを訪問し、バクーからEUへの天然ガス貿易交渉に署名した。2021年の輸出量80億立方メートルから2027年200億立方メートルに貿易量を拡大し、再生可能エネルギー部門を支援することとなった。EU側は人権や報道の自由と言ったアゼルバイジャンの欠陥についてはほとんど触れず、アゼルバイジャン側もそれに応えて更なる関係発展を希望すると表明した。 
 ・バクーからトルコのエルズルムまでのパイプラインが完成したのは2007年であるが、2020年以前にアゼルバイジャンの天然ガスを輸入しているのは、欧州ではギリシャしかいなかった。2011年の南部ガス回廊構想が立ち上げられたものの、ロシア側の工作によってこの事業は頓挫してきた。本事業が再開されたのは2020年後半になってからであり、ギリシャ、ブルガリア、アルバニア、イタリアに天然ガスパイプラインが建造され、輸出が可能となったのである。ただ2021年のEUの天然ガス輸入量は、ロシアが45%であるのに対し、アゼルバイジャンはたった2%でしかなかった。
 ・ロシアのウクライナ侵攻に伴い、EUのエネルギー安全保障は危機に陥った。ロシア側は天然ガスをEUの分断工作に活用し、EUもこの動きに対処してきた。ガスプロムが天然ガス輸出量を前年の60%にまで減少させたことにより、1020億立方メートルの天然ガス分のエネルギーについて代替手段を講じることを余儀なくされている。
 ・アゼルバイジャンからの天然ガス輸出量は120億立方メートルとなっており、コンプレッサーなどの設備を整えるだけで、輸出量を倍増させることができる状況になっている。しかしながら、今後の輸出量拡大を賄えるだけの十分な生産が可能であるのかという疑問が出てくる。2021年度の生産量は438億立方メートルであり、2026年には500億立方メートルになると見込まれている。2027年にも同様に上昇するとしても、EUへの輸出量は150から160億立方メートル程度しかないことになる。残りの40から50億立方メートルはどこから輸入するかという問題が出てくるが、中央アジアのトルクメニスタンしかないことになる。
 ・トルクメニスタンは、世界4位の50兆メートルトンの天然ガス埋蔵量を誇る国であり、カスピ海経由でヨーロッパに天然ガスを輸出する構想は昔から存在した。トルクメニスタンの閉鎖的な政治体制、ロシアによる反対などが障害となり、中国にしか輸出されていなかった。ただこの流れも変わりつつあり、アゼルバイジャンとトルクメニスタンにてガス田の領土問題も解決されたことから、中央アジア方面からの輸入も十分に可能な状況となっている。20118年にカスピ海の領有権問題が解決されたため、アゼルバイジャンとトルクメニスタン間で接続パイプラインを建設することが可能な状況であり、たった4億ドルで120億立方メートルを輸送することができるようになるのである。
 ・一部の識者は非民主的な国に融和的であると批判しているが、天然ガスの輸送は高額になる傾向にあり、地政学的な複雑性を考慮すると輸入先の分散はたとえ少量であっても重要である。冬も近づきエネルギー確保が急務となっている現状を考えると、ハンガリーのようなロシア側に融和的な国が増加する可能性もあり、EU全体の安定化のためにも輸入先の多角化は避けられない。
 ・アゼルバイジャンとの関係改善は、地域の安全保障環境の改善にもつながる。8月にアルメニアとの紛争が発生していることが明らかとなったが、現在でも関係は改善されておらず、将来の紛争の火種はくすぶり続けている。ロシアのいわゆる「平和維持軍」は役に立っておらず、南コーカサスを含めた地域和平のためにEUは積極的に対処するべきである。ブリュッセルにおいて4月から8月にかけて行われたアリエフ大統領とパシニャン首相の会談は、望ましい外交政策である。世界の混乱の中でEUが果たすべき役割は大きい。

2.本記事についての感想
 中央アジアや東地中海沿岸については、新たな天然ガス生産拠点として期待されており、その動きも徐々に具体化してきている。ロシアが何か手を入れてくることは明らかであるが、ウクライナ戦争で弱体化している以上、有効な手は打てないだろう。ロシアが敗者とならなければ、戦争によって利益が得られるという実績を作ることになってしまうことから、エネルギーの方面からもロシアを追い込んでいかなければならない。結果として調達先が分散され、ロシアのエネルギー大国としての地位が低下すれば、天然ガス価格も安定し、エネルギー安全保障も成し遂げられるのである。
今はアゼルバイジャンが注目されているが、東地中海経由の天然ガスも見逃せないニュースであり、近いうちに新たな動きが出てくるだろう。こういった動きが見えてくると、現在の天然ガス価格も徐々に落ち着きを取り戻していくことになるだろう。またロシアの相対的な地位低下にもつながり、ヨーロッパが安定してくることも期待できる。
もっとも、安定した結果として再生可能エネルギーの政策を強固に推進されても困るのであるが。いいニュースだからと言っても日本にとって利益があるとは限らないことから、今後の展開を予測する上で常に注意しておく必要がある。

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