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データローカライゼーションと安全保障(2)(CSISの記事)
写真出展:TumisuによるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/tumisu-148124/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=3518254
本記事は、データローカライゼーションと安全保障(1)(CSISの記事)の続編という位置付けである。前回の記事のリンクは、以下のとおり。
1.記事の内容(2)について
・データローカライゼーションにより、第二次世界大戦後の国際平和に貢 献した、世界とのつながりやインターネットの自由が阻害されることに なる。各国が連携を欠くようになると、権威主義的体制への抑止力が低 減し、デジタル覇権主義の拡大に歯止めがかからなくなる。このため、 データローカライゼーションは、安全保障上の重要な問題なのである。
インターネットの制限は安全保障上望ましい部分があるものの、経済的 な観点から否定的な議論がなされており、データローカライゼーション により、短期的な利益が得られるものの、長期的な世界経済の成長やイ ノベーションを犠牲にすることになるとしている。しかしデータローカ ライゼーションの傾向は明らかであり、民間企業は困難な選択を迫られ ている。
・「安全保障」を理由として、データローカライゼーションを進めようと する国があるが、このことで個人情報が守られるのかと言うとそうでは ない。中国やロシアなどは、国際的な合意がないことを理由として、サ イバーセキュリティや安全保障の観点から政府が情報を管理することを 目的としてデータローカライゼーションに取り組んでいる。
・具体的な安全保障上の問題点については、以下の3つである。
① 民主主義、人権制限
権威主義的国家は、移動の自由、言論の自由、個人情報を制限す るツールとしてデジタル技術を利用している。国内の統制を強める だけでなく、民主主義及び開かれた社会を再定義、再構築すること も目指している。
たとえ重要なデータについて定義したとしても、その定義が拡大さ れ、政府の自由裁量の下に置かれれば、市民社会、民主主義、人権 にマイナスの影響を及ぼし得るのである。
② 情報の分断による、各国の連携の制限
国境をまたがる法律の適用は、相互法律協定などにより管理され る。しかし、これらの協定は、インターネットの普及前に締結され たものであり、今日必要としている情報提供などに合致したものと はなっていない。更に、各国がデータローカライゼーションを推進 すると、既存の情報共有体制、ビジネス上の報告義務、インテリジ ェンス活動などにも影響が出てくる。特にアメリカは、世界の各地 域からの情報を収集しており、データローカライゼーションにより 情報の信頼性が損なわれると、伝統的な情報ネットワークを活用す ることができなくなる。
③ 企業のサイバーセキュリティの複雑化
データローカライゼーションにより、世界的に展開している企業 は、各国から現地に物理的にサーバーを設置するよう求められるこ とが予想される。金融部門の分析によると、ITやデータが複雑とな り、マネーロンダリングなどの危険性が増大するとしている。各国 でサーバーを設置すると攻撃対象が増大し、大幅なコスト増になる。
その他、政府及び企業間のインターネットのルートも規制されるこ とにもつながり、各地域のサーバーの設定等が複雑化し、結果とし て不安定なシステムが構築されてしまうことになる。
④ 将来の問題
データローカライゼーションに伴う安全保障上の対応を県とするためには、ここまでの議論で出てきていない重要な論点について考える必要がある。
・インターネットは信頼足りえるのか?
データローカライゼーションがプライバシーや言論の自由にどのような 影響があるのかについて、自由主義陣営国家は大いに懸念している。こ のような状況下で、権威主義的国家のデータローカライゼーション化の 動きに対抗し得なければ、インターネットへの不信感が増大していくこ とになる。
・アメリカはデータローカライゼーションに取り組むのか?
EU、中国共産党などが途上国への影響力工作でデータ管理モデルを提 示し始めているが、アメリカは傍観を決め込んでいる。また国内において も、連邦レベルの個人情報やデータ管理ポリシーを欠いており、このこと は経済だけでなく、国家安全保障上の課題にもなる。
・アメリカ及び同盟国、友好国は、データローカライゼーションに伴う矛盾にどのように対応するのか?
ライバル企業への情報漏洩の防止は重要であるが、権威主義的国家に報 復的な厳しい措置を課されることにもなりえる。データプライバシー、 法の支配、経済、地政学的競争に与える影響への適切な評価が必要であ る。
・アメリカは国際社会において、どのように立ち回るのか?
現在のデータローカライゼーション議論は、個人情報の保護の在り方 という狭い領域にとどまっている。アメリカはこの議論について曖昧 な態度を取っており、このことによりプライバシーに対する不信感が 増大し、途上国のデータローカライゼーションの動きが促進されるこ とになりえる。
・アメリカのデータローカライゼーションへの反対姿勢は問題なのか?
アメリカ単体では、データローカライゼーションの流れを食い止める ことはできない。自由主義陣営各国との連携や共闘を推進していくこ とで、大きな影響力を持つことができる。
⑤ 今後の展望
アメリカは、以下の事項について取り組むべきである。
・国内でのデータローカライゼーションについての姿勢を鮮明にする
・連邦省庁横断的なデータローカライゼーションの評価を実施する
・データローカライゼーションが国家安全保障上への直接的な影響に ついて研究を進める。
・国境をまたがるデータ流通についての制御ないしは制限すべき事例 を列挙する。また、この原則の適用は抑制的にするべきである。
・既存の法制を強化する法制度を整備し、各国と連携し、途上国に追 随するよう促す。民間部門の意見も取り込み、国家安全保障と民主 主義、人権、経済成長とを両立させるよう取り組む。
・データローカライゼーションに関する先行研究の知見を取り入れ、 戦略を構築する。国家安全保障を理由としたデータローカライゼー ションの義務化を可能な限り回避し、サイバー攻撃・防衛のバラン スへの一次的、二次的影響についての責任を明確にする。
・同盟国、友好国と協調し、データローカライゼーションモデルを構築する
・各国、各国際的な機関などと連携し、共同研究、法整備、戦略構築 などに取り組むべきである。アジア太平洋地域経済フォーラムの国 境間プライバシー規則、米日デジタル貿易合意などの関連する取り 組みなどと同様の取り組みに尽力すべきである。
・途上国のデータリテラシー向上に尽力する。途上国は自由主義陣 営、権威主義的国家陣営双方の影響力行使の主要な対象であること から、この鳥喰が重要となる。
・デジタル権威主義に対抗できる前向きな原則を提示するべきであ る。また、国家安全保障の不透明な解釈を解消するべきである。
・2021年6月のG7サミットで採択された、自由で開かれたインターネ ットの原則を再確認すると共に、インドや南アフリカのようなデー タローカライゼーションを推進する国家に対し、G7の声明を出発点 として開かれた社会との折り合いを付けるよう働きかけるべきであ る。