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中国の極超音速兵器能力(RUSIの記事)

写真出展:Christian DornによるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/conmongt-1226108/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=6286666

 2021年10月26日に英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)が、中国の極超音速兵器能力に関する詳細な内容について論じる記事を発表した。内容は、8月に中国が発表した極超音速兵器開発の現状、現実とその認識との齟齬及び安全保障上の意味について概観するものである。最近アメリカの軍関係者が中国の極超音速兵器の実験について証言したことからにわかに注目が集まっているが、冷静な見解がなかなかない。こういった状況下において、別な視点から論じられた有用な記事であることから、その概要についてご紹介させていただく。

↓リンク先(China’s New Hypersonic Capability)
https://rusi.org/explore-our-research/publications/commentary/chinas-new-hypersonic-capability

1.RUSIの記事について
 ・2021年8月に、中国が極超音速滑空体を地球の低軌道上に射出し、大気圏に再突入させ、20マイル圏内の標的に当てることに成功した。この兵器は、第二撃能力(核兵器の先制攻撃に対する報復)を向上させるものであり、これまで中国が受忍してきた戦略を大きく転換するものである。
 ・最近中国が発表したレポートによると、部分軌道爆撃システム(FOBS)の実験を行ったことが示唆されている。FOBSはソ連によって開発されたものであり、南極経由で飛行するよう設計されていた。FOBSは、大陸間弾道ミサイル早期警戒システムが検知するまでの時間が非常に短いという特徴を持っており、先制攻撃の可能性が高まるということになる。
 ・FOSBは、以下の3つの段階を経る。一段目のロケットと二段目のブースターが弾頭を加速させるために用いられ、地球の軌道に入る。この段階で、弾頭は標的に向けて方向を調整する。最終段階において、反射ロケットにより弾頭を減速させることにより軌道から外れ、標的に着弾するのである。特に、最終段階は、地球を一周する前に開始されなければならない。
 ・第一段のロケットは、極めて大きい推進力が必要になるが、ソ連のFOSBは、真空中で228~241トンの推進力を持っていた。第二段のエンジンは、62~96トンの推進力を有する。第三弾の大気圏再突入時には、適時的確な軌道で弾頭の速度を調整し、大気圏に進入させなくてはならない。
 ・中国の実験においては、FOSBに極超音速兵器を投入したとされている。大気圏再突入時に滑空体の表面温度は3000℃にも達するが、中国ではこの高温に耐性のあるセラミックを生産することができていない。極超音速滑空体は大気圏に何度も出入りすることから、更に高温になることになり、極度の温度と速度に耐えられるものでなければならない。
 ・このような技術的な制約を考えると、既存のICBMよりも使い勝手が悪いことになるだろう。極超音速兵器の利点は、尋常ではない速度と軌道により、敵が標的を予測できないということであり、中国の今回の実験は、核抑止の弱点を補強するためにこの利点を活用しようとしたと見るべきである。中国の原潜は、第一列島線のチョークポイントを通過しなければならず、SLBMも距離が短いことから、アメリカの対潜水艦部隊に対して脆弱である。DF-5ミサイルサイロも敵基地攻撃ミサイルの的になるだけであり、DF-31AやDF-41のような移動式ミサイルも容易にアメリカの攻撃をかいくぐるように配置することはできない。
 ・中国はアメリカの敵基地攻撃能力や核兵器を警戒している。先制攻撃を受けた場合、中国がアメリカの3都市に報復できる可能性は、たった10%程度である。アメリカが宇宙基地のミサイル防衛センサー網を整備してしまうと、更に不利な状況に陥ることになる。
 ・中国の極超音速FOSBは、第一撃能力としては不確定要素が高いが、報復攻撃の第二撃としては十分な価値がある。中国は100%の報復攻撃を目標としているようであり、これまでの戦略とは一線を画すものになっている。もし報復が確定しているのであれば、核抑止は機能しないことになる。中国の狙いはまさにここにあるのである。

2.本記事についての感想
 保守系論者がやたらと中国の極超音速兵器の脅威を喧伝しているが、少し中国のプロパガンダに乗せられすぎではないかと思う。兵器の性能そのものにあまり精通していないようで、速度のみに着目しすぎて正当に評価できていないように思う。過小評価するべきではないが、中国万能論的な議論も極端であり、冷静かつ確度の高い評価ができなければ、どのように対処すべきかがわからない。
 日本における議論は中国脅威論か重箱の隅を突くような細かい技術論のどちらか極端なものが多く、冷静に戦略上の意味を考える論考があまり見られない。中国の戦略目標は明らかであり、報復能力の向上である。そうであるなら、日本も報復能力を向上させればよいのであり、技術的な遅れは認めつつ、代替手段を見出すべきである。その中で、電磁波兵器は一つの答えになるだろう。
 極超音速兵器については、やや希望的観測が優先しているように思われる。技術上の制約は大きく、一線で活躍するまでにはまだいくつもの課題があり、真の意味で戦略上の変化を及ぼすのはしばらく後の話である。それまでの間、技術的な代替手段をいかにして見出すのかが最も重要であり、右往左往したり中国に追随したりするなどの愚かな政策を採用してはならない。

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