アメリカに必要な半導体戦略(The National Interestの記事)
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2022年6月15日にThe National Interestは、アメリカの半導体戦略を提案する記事を発表した。内容は、補助金や優遇税制などの資金援助、規制緩和といった半導体支援政策の提案、中国の状況などとの比較である。
ウクライナ戦争でも明らかなとおり、最先端技術は経済だけでなく軍事にとっても最重要であり、半導体は技術覇権を握る重要な要素となっている。今回は個別具体の政策のあるべき姿をよく示した内容となっていることから、参考として本記事の概要についてご紹介させていただく。
↓リンク先(America Needs a Semiconductor Industrial Strategy—Here’s How to Start)
https://nationalinterest.org/blog/techland-when-great-power-competition-meets-digital-world/america-needs-semiconductor
1.本記事の内容について
・半導体はあらゆる電子機器に利用されているが、最も重要なのは論理IC用の半導体である。論理IC用は、人工知能、量子コンピューター、先端ネットワークなどに活用されているが、この半導体のサプライチェーンは市場や地政学的リスクなどにより、非常に脆弱となっている。脆弱性は、設計、原材料、装置、ファブ、組み立て、動作試験、パッケージ化と多岐にわたっており、この問題を克服するため、政府及び議会は動かなくてはならない。
・議会がまずするべきことは、半導体のサプライチェーン全体を強化するために補助金を拠出することである。半導体生産には多額の資金が必要であり、先端的なファブには300から400億ドルを要するが、2030年までに毎月35,000個のウェハーを生産する工場を5、6基建設しても、アメリカの消費量の25%しか満たすことができない。
・半導体産業連合から提案されている案は、アジアに対抗できるファブ工場を2、3基建設するため、総額200から500億ドルの補助金を計上するというものである。これだけの工場では十分ではないものの、重要インフラ設備の消費量分ぐらいは賄うことができると見られている。もし建設するとなると、今後10年で民間側からの投資で400から500億ドル、政府の補助金は150から200億ドルが必要になると試算されており、政府の資金は全体の30から40%を占めることとなる。またアメリカは、半導体設計の点においてもアジアに負けているが、今回のような補助金があれば、資金不足にあえいでいる工場や技術者を救済することができる。
・その他の支援として、優遇税制も導入するべきである。これは半導体生産企業だけでなく、関連する原材料や装置などの生産企業、設計、組み立て、試験、パッケージ業務に携わる企業をも対象とするべきである。
・優遇税制は、研究開発にも活用するべきである。現在、中国は29.1%の補助金、175%の税控除を認めているが、アメリカの補助金は9.5%、14から20%の減税となっており、格差は歴然である。また研究開発予算の伸び率においても後塵を拝しており、2003年から2017年の伸び率は、アメリカが2%(1210から1240億)、中国は330%(2300億から9800億)となっている。
・現在の半導体法は、この状況に十分対処できる内容になっていない。本法案は、最先端のファブ工場の支援は手厚くなっているものの、原材料生産については対象となっていない。CSETの提言では、本法案で計上されている370億ドルのうち、23億ドルを最先端論理IC半導体に割り当てるべきであるとしている。
・また政府は、最先端論理IC半導体及びサプライチェーンの脆弱性についての情報を発信し、議会の審議を支援するべきである。政権発足後199日で提出された報告書はそれなりの内容になっているが、より詳細な情報が必要となっており、サプライチェーンの脆弱性軽減策、関連する事業に必要な予算などの詳細な情報を収集、整理するべきだろう。
・その他の政策として、生産の障害となっている規制を緩和するべきである。厳格な賃金や労働環境についての規制、環境保護規制などはコストを増大させる要因となっており、結果として投資が阻害されている。このため、政府は安全保障免除を与えし、規制の現状把握に努めるべきである。例えば環境保護庁は、リン酸トリスを含んだ製品の販売を禁止しているが、半導体生産装置の配線に利用されていることから、産業にとって大きな障害となっている。また他の化学化合物の使用も制限されているが、場合によっては半導体の開発や生産に支障が出る恐れがある。このような場合において、政権は安全保障免除により規制を緩和し、重要な半導体産業が自由に活動できるよう支援するべきである。
・政府や議会による支援について、疑問に思う人もいるだろう。しかし、台湾、中国、韓国は自国生産を成功させており、アメリカができないとする理由はない。また政府が計上している予算が、あまりにも過剰であるという意見もある。半導体産業の調査によると、アメリカが自己完結的に半導体を生産するには、3500から4200億ドルの経費が必要になるとされている。これはあまりにも多額であり、産業としては先端論理IC半導体に特化するべきと提案している。また中国が半導体生産に1500億ドルを拠出している現状を踏まえると、現在計上されている予算額ですら不足しているのである。
・その他の議論として、需要に対して生産量を過剰に増加させるのは経済的に望ましくないというものがある。例えば、エヌヴィディアはGPUの需要増に対して生産量を増大させたが、2019年以降は需要が減少したことから、資金繰りに悪影響が出ることになった。しかしながらこういったコストは必要経費であり、イノベーションが創出されれば、すぐに回収可能である。またアメリカには半導体生産に関する環境が整っており、支援策は有効に活用されることになるだろう。
・半導体は最先端技術に必要不可欠であり、サプライチェーンの脆弱性は国家安全保障の問題に直結する。2022年5月にブリンケン国務長官は、現代産業戦略の重要性を指摘し、議会に人工知能、バイオテクノロジー、量子コンピューターなどの技術の研究開発への惜しみない支援を要望した。ただ技術覇権を握るには、技術だけではなく、関連する産業である半導体産業全体の支援も重要である。もしこの政策が達成されなければ、アメリカは技術二流国に転落することになるだろう。
2.本記事読後の感想
この手の話はウクライナ戦争でやや下火になっていたが、先日中国の高官が台湾有事に備えてTSMCを獲得する必要があると述べたことにより、にわかに注目を浴びることになった。
現在最高峰の企業はTSMCであり、どのように西側社会に取り込んでいくか、技術移転をどのように進めていくかなどが問題となっている。相変わらず半導体不足は継続しており、特に高性能の半導体需要は相変わらず高いままである。現状としてアメリカや日本が代替することはできないため、しばらくはTSMC頼みになってしまうが、中国と台湾の緊張関係が高まる中、現在の体制は極めて不安定である。
このため、アメリカはインテルの工場建設や先端ファブに対する支援などを打ち出しており、半導体で自立しようとしている。その取り組みは十分ではないものの、予算も多額であり、近い将来実を結ぶことになるだろう。
対して日本はTSMCの工場を誘致して喜んでいるが、実際には下流の工程部分が主であり、これだけではすぐに最先端の技術を取り込んでいくことはできない。また研究も緒に就いたばかりであり、実用化に至るまでは長い年数を要すると考えられる。
このような状況を克服するには、利益が出せるような体制を構築しつつ、技術と経験を集積していく必要がある。ただ何事にも挑戦しない岸田政権には、こういった芸当は不可能だろう。我々一般国民にできることは、現状についての認識を深め、危機感を共有し、政権に世論で圧力をかけることである。
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