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ワクチン義務化差し止め訴訟の行方について(ヘリテージ財団の記事)

写真出展:Mark ThomasによるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/markthomas-3675305/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=2225765

 2022年1月10日にヘリテージ財団は、現在最高裁にて審議中の2件のワクチン義務化差し止め訴訟に関する記事を発表した。内容は、口頭弁論が実施されたことに伴い、最高裁判事の質疑や今後の展開を提示するものである。日本ではかろうじて義務化は免れているが、ワクチン義務化が法令等になされた場合における展開が良く分かる内容になっている。今回の記事はそのような状況下においてどのような考えを持つべきかを提示する参考になると考えられることから、その概要を紹介させていただく。

↓リンク先(Supreme Court Just Heard Oral Arguments in Vaccine Mandate Cases. Here Are the Takeaways.)
https://www.heritage.org/courts/commentary/supreme-court-just-heard-oral-arguments-vaccine-mandate-cases-here-are-the

1.本記事の内容について
 ・最高裁で2件のワクチン義務化差し止め訴訟の口頭弁論の聴聞が行われた。1件は 全米自営業者連盟(NFIB) 対 米国労働安全衛生局(OSHA)、こちらはヘリテージ財団を含む経営者側が、OSHAがワクチンや検査を義務化する法令上の権限がないことを争点として提起したものである。もう1件はミズーリ州他 対 バイデン大統領であり、これは州政府が、公的保険制度運営センターによる医療扶助事業法に基づく医療従事者へのワクチン義務化を差し止めようとする訴訟である。
 ・NFIB対OSHAの訴訟においては、100名以上の従業員がいる企業等に対するワクチン義務化の緊急命令措置が争点となっている。1970年の労働安全衛生法は、OSHAにワクチン義務化を実施する権限を明確に与えたものではないと主張しており、更にワクチン義務化に関する緊急命令を発出する権限はなく、行政手続法による周知とパブリックコメント手続きを要するとしている。
 ・バイデン大統領 対 ミズーリ州ほかの訴訟においては、医療扶助事業法は医療従事者にワクチン義務化を強制する権限を付与しておらず、連邦政府が医療従事者の自己決定権を管理することはできないと主張している。
 ・3名の判事が、法令ではなく事実に着目した。Covid-19は一部の人にとって致命的であり、ワクチン接種推進政策そのものの必要性は明白であるとした。また義務化が遅れた場合の不利益について繰り返し問うており、少なくとも係争中は、政府がワクチン義務化を推進することが容認されると判断しているようである。
 ・口頭弁論聴聞が、法令の検証ではなく事実関係に終始しているという点は、非常に深刻である。労働安全衛生法及び医療扶助事業法の条文には、ワクチン義務化の権限を付与するものはなく、その他の法律も連邦職員があらゆる疾病のワクチンを接種するよう義務化しているものもない。カバノー判事のようにこの点を指摘した判事もいたが、こういった議論は終末論の前に無力化される可能性もある。
 ・ロバーツ主席判事は、ワクチン義務化を「次善策」であるとして容認していた。バレット判事は、「緊急」命令や規制を停止する権限について質問し、自己規制の原則がないことを問題視した。
 ・バイデン政権は最高裁に拡大解釈を求めてきたが、首尾よく行っていない。昨年8月のアラバマ不動産協会 対 保健福祉省の訴訟では、CDCが家賃不払いの賃借り人強制退去を停止する権限はないと判決が下された。この際、連邦省庁は法律に定められた権限しか付与されておらず、Ciovid-19パンデミックであっても法的権限を拡大することはできないとしている。
  ただ過去の裁判で連邦政府の権限が否定されたとしても、ワクチン義務化についてはその帰趨が不透明である。いずれの判断が下されるにせよ、今後大きな波紋を広げることになるだろう。

2.本記事読後の感想
  アメリカの法律はその詳細さをもって知られるのが通例であるが、今回は日本的な曖昧な条文に基づいたものであることが主に問題視されている。日本の法令によくある表現に、「原則として」、「必要があると認めるときは」、「適正に定めなければならない」などがあるが、大抵は政令、規則、施行令、通達などにより補完されていることが多く、不明確性はかなり軽減されており、法律本文が曖昧であっても判例で問題になるレベルになる事態はあまり想定されない。
  しかし今回は法律と運用が直結しており、間にあるべき法体系が存在していないようだ。いかに緊急とは言え、これではさすがに適法と認めるわけにはいかないということだろう。今回の口頭弁論でこの点が指摘されていた点は良心的だったと言えよう。
  また、リベラル判事が条文そのものよりも、ワクチンの効用やワクチン義務化の損益の比較衡量などの事実関係に着目している点が印象的だった。民主党に融和的だからなのか、リベラル派の判事は原理原則よりもイデオロギーを重視しているようだ。今回の件は、人権と民主主義を巡る攻防であり、他の民主主義国家にとっても他人事ではない。今後もこの裁判の動向を見ていきたいと思う。
  また今回のことは日本にとってどのような意味を持っているかも考える必要がある。日本は法律ではなく要請という形にしているものの、同調圧力や実質的な強制が幅を利かせており、ある意味ではアメリカよりも悪いように思われる。日本において、ワクチンの効用や自分自身との健康との関係で損益を比較衡量して接種を判断した人が、どれだけいただろうか。周囲の人が接種している、職域接種で半強制的だった、未接種による不利益が暗に示されたといった形でやむを得ず接種した人も少なからずいたと思われる。
  政府が推進する政策について、法令上の要件なのか、単なる自由意思に基づく要請なのか、実質的に政治家が恣意的に制裁を科せるような内容になっていないか、そういったことを細かく見ていき、政治及び行政の公式見解を正し続けなければ、現在のような曖昧で、どこか腰が据わらない浮ついた政治が継続し続けることになる。全てをはっきりさせることはできないにしても、曖昧さに逃げるような状況を許してはならない。今回の裁判のように、一つ一つの論点を整理し、政策の厳密性に磨きをかけるよう国民が声を上げていくべきである。  

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