反イノベーション政策(CSISの記事)
CSISは2021年6月4日に、イノベーションを阻害する要因に関する記事を発表した。内容は、知的財産の保護に関するものであり、現行の法体系の改革を提言している。日本にとっても良い教訓になると考えられることから、その概要を紹介させていただく。
写真出展:Michal JarmolukによるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/jarmoluk-143740/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=561387
↓リンク先(Anti-innovation Policy)
https://www.csis.org/analysis/anti-innovation-policy
1.記事の内容について
・アメリカの競争力維持については超党派で合意されているが、ここ20年間は知的財産の保護が、司法、立法、規制の面で緩和されて続けてきており、フェアユースの観点から更に緩和するべきと主張する派閥もある。
・裁判所は、特許所有者を高く評価していない。例えば、ソフトに基礎のあるイノベーションについては、「抽象的なアイディア」であるとして、特許の適格性を有しないと判断することが多くなっており、製造法についても特許が認められないという判決も出ている。その他、差し止め命令による救済もなされておらず、差し止め命令が下されるまでは、特許の侵害者は製品を市場から回収する必要はない状態となっている。侵害者は敗訴しても所定のロイヤリティを支払うのみでよく、損害賠償までは元笑められない。結果として、特許の所有者は、市場価格よりも低い金額で和解することを選択するようになっている。
・またコンテンツ市場ではフェアユースの概念を拡大解釈し、クリエイティブな作品の価値を低下させてきた。2021年4月のグーグル対オラクルの裁判で、ライセンスが提供されている競合他社のコードを利用したにもかかわらず、グーグルは利用した責任を免除された。裁判所はデジタルミレニアム著作権法の免責条項を拡大解釈しており、コンテンツの所有者は公式サイトでのライセンス料を得ることができるものの、現在は違法サイトなどからコンテンツを取得することが可能となっており、ライセンス料も相対的に低下している。
・巨大プラットフォーム企業は、コンテンツの利用者であり、知的財産保護の緩和を求めてきており、結果としてコンテンツに対する評価が低くなる要因となっている。プラットフォーマーがコンテンツを紹介することで広く拡散するという利益もあるが、その分コンテンツ作成者は紹介料を支払わなくてはならず、創作へのインセンティブを低下させることとなっている。
・歴史的に見ても、知的財産保護を緩和しても参入障壁の撤廃や既存企業に挑戦する新興企業が現れなかった。1930年代から1970年代にかけては、AT&T、IBMといった企業が特許を独占していたが、新たなイノベーションがなかなか生まれなかった。1980年代に入ってバイ・ドール法が可決されて知的財産の保護が強化されてから、大企業頼み、偏った公的資金の配分などの状況が見直され、ベンチャーキャピタルも市場に参加できるようになり、イノベーションの状況は変化した。
2.記事読後の感想について
プラットフォーマーの台頭は、明らかにコンテンツの拡散に貢献しているが、イノベーションを発見した企業の利益が損なわれていることも事実であり、このバランスが非常に問題となる。プラットフォーマーはサーバー機などに巨大なインフラ投資を行っており、少なくない資金を投じていることから、公平な料金体系の構築が求められることにはなるだろう。
現在のところ、ビックテックに比肩する勢力が生まれる可能性は低く、国会による解体でもなされなければ、このまま米国企業が支配し続ける構図となるだろう。この状況下で、コンテンツの発信者をいかに保護し、確保していくかを考える必要があるが、その道のりは困難である。
日本はよく技術者を大切にしないと言われており、冷遇した結果として海外企業に引き抜かれて技術が流出するということが横行した。技術者を裏切り者だと言う人がいるが、私から言わせれば、日本人が技術者を裏切っているのだと言いたい。当面可能なことは技術者を優遇する制度を創設することである。直接的な給付金というのではなく、先ずは税制的な優遇、法令の整備などが有効になるだろう。
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