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ヨーロッパの防衛予算現況-2022年から現在まで-(IISSの記事)

写真出展:MarcoによるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/lillolillolillo-21633244/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=6395095

 英国国際戦略研究所(IISS)は2024年10月24日に、ヨーロッパの防衛予算の概要に関する記事を発表した。内容は、2014年から2024年にかけてのヨーロッパ全体の防衛予算の変化と防衛に関する問題点等に関して概観するものである。日本も台湾有事の可能性が日に日に高まっており、安全保障環境の不安定化に備えて防衛予算の増額が話題になるようになっているが、長年の戦争アレルギーのためか本格的な議論がなされておらず、あるべき国防の方向性も見えなくなっていることから、ヨーロッパの状況については先例として把握しておいた方がいいと思われる。今後の安全保障問題について考えるための参考として、本記事の概要を紹介させていただく。

↓リンク先(Europe’s defence procurement since 2022: a reassessment)
https://www.iiss.org/ja-JP/online-analysis/military-balance/2024/10/europes-defence-procurement-since-2022-a-reassessment/

1.本記事の内容について
  ・2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻以降、ヨーロッパ各国は防衛力強化のため防衛費を大幅に増額してきたが、その多くはヨーロッパ以外の地域の防衛産業向けのものになっているとされている。2024年9月のドラギ元イタリア首相の報告書によると、2022年6月から2023年6月の調達のうち、78%がヨーロッパ以外の防衛企業からのものとなっており、63%がアメリカ企業だったとされており、このことについてヨーロッパの政治家は批判的に取り上げていた。
  ・ただこの数値について再評価すると、別の側面が見えてくる。2022年2月から2024年9月にかけて1800億ドル相当の契約が締結されているが、実態としては52%はヨーロッパ、34%はアメリカ、その他14%がブラジル、イスラエル、韓国からの調達となっている。トルコなどの通貨の評価が困難な国からの調達を考慮に入れると、ヨーロッパの割合はもっと高い可能性もある。
  ・無論ヨーロッパの防衛産業への投資はここ数十年低調であり、生産量やプラットフォームの分野において、アメリカやイスラエルなどの後塵を拝している。例えばF-35ライトニングⅡのようなステルス機は、2030年代に入ってもヨーロッパの主要戦闘航空機であり続けると見込まれている。その他の分野では、多連装ロケット砲、空中発射の巡航ミサイル、広範囲の高度対空防衛スステムなどがあり、装甲車についてはNATOが焦眉の急としてその増産体制を整備しようとしている。ただし、全てをヨーロッパ各国で賄おうとしているわけではなく、アメリカを防衛体制に組み込むことを目的として、一定程度の規模でアメリカ製の兵器を導入することとしている。
  ・ウクライナ戦争に伴い、ヨーロッパの防衛産業は活気づいてきている。一部の企業はアメリカ市場での販路拡大に取り組みつつ、有力な防衛企業との提携や共同開発にも勤しんでいる。大企業だけでなく、ドイツのRENKグループやアトラスエレクトロニク、スペインのインドラグループといった中小の防衛企業もアメリカでのビジネスへの投資を加速させている。
  ・NATOは、加盟国の防衛予算のうち兵器調達や研究開発に占める割合を20%以上にするよう推奨しているが、2014年以前は平均で15%程度の水準であった。ただ2022年以降は劇的に増加し、現在は32%にまで達しており、望ましい水準を充足することができている。ただ人員や軍人年金などの割合は減少しており、60%から40%に低下している。もし今後10年に渡って防衛予算が増額され続ければ、ヨーロッパの兵器生産体制や防衛産業の規模拡大といった、長年の懸案が解決される可能性が高い。ただし、継続的かつ計画的な政治的・財政的な支援が必要であることは言うまでもないだろう。 

2.本記事についての感想
  アメリカ、イスラエル、ロシアなどは軍事大国であり、ほぼ自国だけでほとんどの武器や防衛システムを備えることができる。それ以外の国は他国の防衛企業に依存せざるを得ない側面があり、このことが安全保障上の危機が訪れた際に大きな問題となるわけである。今回のヨーロッパの状況はある意味将来の日本の姿を映す鏡となっており、防衛予算の配分や防衛産業の育成などにとって大きな参考となるだろう。
安全保障環境の不安定化に伴い日本も防衛費の大幅増額が必要な状況であるが、前岸田政権が愚かにも防衛増税の議論をしてしまったため、肝心の安全保障上の危機が十分に論じられず、何とも中途半端な形でしか防衛力強化が図られていない感がある。
  また防衛に理解がある人々の意見の相違が過度に取り上げられているのも、防衛力強化にとって障害になっていると思われる。アメリカからの武器調達が過度に批判されたり、無駄に国粋主義的な観点から航空戦闘機の国産化にこだわったりと、人的・予算的資源が潤沢であればどちらの道も矛盾なく追及できるはずなのだが、どちらか一方の方向性しかないと言った極端な議論は、そもそもの問題を直視していないことに起因すると言えるだろう。
  かつて安倍元総理が「台湾有事は日本有事」と評したように、日本にとっての危機は目前にある。つまらない防衛産業の揚げ足取りや財政の議論に終始するのではなく、日本の存立危機に関して徹底的に議論することが重要なのである。

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