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ロシアはなぜウクライナの食料輸出を妨害するのか(CSISの記事)
写真出展:Piet van de WielによるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/pcjvdwiel-10362389/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=4923135
CSISは2023年9月15日に、ロシアの黒海穀物イニシアティブ脱退にまつわる食料危機への影響に関する記事を発表した。内容は、ロシアが黒海穀物イニシアティブを脱退したことに伴う世界の食糧への影響を概観するものである。日本では単発的なニュースに留まり、まとまった情報がなかなか得られないことから、今回の網羅的な記事は非常に有益な情報源になると考えられる。今後の食糧事情を考える参考として、その概要を紹介させていただく。
↓リンク先(Why Is Russia Blocking Ukraine's Food Exports?)
https://www.csis.org/analysis/why-russia-blocking-ukraines-food-exports
1.記事の内容について
① 黒海穀物イニシアティブとは何か?
黒海穀物イニシアティブとは、黒海経由での農産品や肥料の輸出を保証
する協定である。トルコ、ロシア、ウクライナ及び国連事務総長が関わ
り、2022年7月22日に締結された。2023年7月17日にロシアが脱退を表明
するまで、1004隻の輸出船がウクライナ港を出港し、3290メートルトンの
トウモロコシ、小麦、ヒマワリ油などが輸出された。国際連合世界食糧計
画がウクライナ産小麦の80%(72.5万メートルトン)を調達し、アフリ
カ、中東、アジア諸国の小麦価格安定に尽力した。
② なぜロシアは黒海穀物イニシアティブを脱退したのか?
ロシアはウクライナの農業インフラや農産品に損害を与えるために脱
退したと考えられているが、各国からの支援によりウクライナの農業は
十分に持ちこたえてきた。戦争以前、ウクライナの農産品輸出のうち
90%が黒海経由での輸出だったことから、黒海の封鎖は輸出にとって大
きな打撃となる。黒海穀物イニシアティブにより50%までは輸出できて
いたが、今回のロシアの脱退により別のルートを模索しなければならな
くなる。ウクライナの2022年のGDPは前年比29%減となり、農業のGDP
は39%も減少した。またロシアはヨーロッパ諸国の食糧価格高騰も視野
に入れており、事実としてポーランド、スロバキア、ハンガリーなどの
穀物価格が上昇している。
EUは2023年5月までの期限で負担軽減策を打ち出したが、9月15日ま
で延長し、更に延長することとなった。その他、ロシアは今回の脱退で
農業輸出の優位性を確立しようとしており、2023年から2024年にかけて
の小麦輸出量は前年比48%増の4900万メートルトンになると見られてい
る。
③ ロシアはなぜ黒海穀物イニシアティブに参加したのか?
ロシアにとって黒海穀物イニシアティブは本来必要ないはずだが、な
ぜ参加したのか?それは、食料価格高騰の批判を回避するためであり、
同時に西側諸国の経済制裁への牽制も意図している。2023年7月現在の
食糧価格は、前年比14%減となっており、今回の脱退が食料価格の高騰
に直結するわけではない。
④ 黒海穀物イニシアティブが決裂した場合、ウクライナはどのようにして農産品を輸出するのか?
ロシアが脱退を表明して以降、ウクライナの輸出インフラを攻撃し始
めた。7月18日以降、105の港湾施設が攻撃され、28万メートルトンの穀
物が損傷したと見られている。ただウクライナ側も対策を講じており、
例えばクロアチアの首相がウクライナ農産品の輸出のために港を活用す
ると表明し、ルーマニアの首相も自国経由でウクライナの農産品輸出を
支援すると発表した。その他、アメリカやNATOも支援に乗り出してい
る。
⑤ 黒海穀物イニシアティブ後の展望は?
様々な外交筋が、黒海穀物イニシアティブの維持に尽力している。トル
コのエルドアン大統領は、プーチン大統領との会談で本件を議題とし、西
側諸国が経済制裁を取り下げれば穀物輸出を再開させるという声明を発表
するに至った。西側諸国は食料と肥料については経済制裁の対象外として
いるが、ロシアとの貿易に付随するカントリーリスクは甚大な影響を与え
ていることから、譲歩を求めているのである。ただ情報を求めるのみなら
ず妥協案を示しており、100万トンの穀物を食糧危機にある国々に優先的
に輸出すると共に、アフリカの6か国にも無償提供するとし、食料価格高
騰の批判をかわそうともしている。
⑥ 世界の食糧価格への影響は?
ウクライナ戦争は穀物だけでなく他の食品の価格高騰をもたらしてお
り、2019年から見て39%も食料への支出が増加したと見られている。2030
年までに6億人が飢餓に陥る危険性があり、これはウクライナ戦争がなか
った場合の試算より2300万人も多くなっている。今回の脱退は、サハラ砂
漠以南の国々における小麦価格に若干の影響を与えるが、全体としてはそ
れほど大きな影響はないと見られている。ただ大麦、トウモロコシ、菜
種、ヒマワリ油などは夏の終わりから秋にかけて収穫されることから、穀
類価格が今後数か月で大幅に高騰する可能性がある。
2.記事読後の感想について
相変わらず食料価格の値上げがニュースになっているが、その主たる原因がどこになるのかを正確に報じた情報は少ない。政府の無策を責めるのは最もであるが、食料需給が最も大きな影響を与えているという点を忘れてはならない。
また本件とは別であるが、円安や金融緩和に対する安易な批判が目立っているように思われる。円高=物価が下がるという図式になると、単純に考える日本人が多い証拠だろうが、経済を全く理解していないと言わざるを得ない。民主党政権時代に円高になってもガソリン代が安価にならなかったように、物価は需給関係により左右されるのであり、単純に通貨の価値で決まるわけではない。食料価格が高騰している理由は需給の問題が大きく、円安が主たる要因ではない。目の前の問題だと実感がわきやすく、ついわかりやすい理由に飛びついてしまいがちだが、こういう短絡的な思考では物事の本質を見抜くことはできないということを認識するべきである。
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