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自動運転と安全保障(CSISの記事)

写真出展:Алексей ПухляковによるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/alekseiap199232-11174049/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=5051956

 CSISは2021年6月28日に、自動運転と安全保障に関する記事を発表した。内容としては、自動運転関連技術が安全保障に与える影響を概観するというものである。安全保障上の意味合いで論じたものがほとんどなく、今後の日本の安全保障を考えるうえで参考になると考えられることから、その概要を紹介させていただく。

↓リンク先(National Security Implications of Leadership in Autonomous Vehicles)
https://www.csis.org/analysis/what-us-innovation-and-competition-act-gets-right-and-what-it-gets-wrong

1.記事の内容について
・自動運転は、かつての馬車から自動車への変化と同じぐらいの影響力を持つと考えられている。自動車は今や単なる機械ではなく、半導体やソフトなどが組み込まれたデバイスとなっており、自動運転車の生産能力はその国の技術力・能力を示すものとなるだろう。自動化により経済機会が創出され、利便性が著しく向上するものの、安全保障上のリスクや脆弱性も発生する。
・自動運転は軍民両用の技術であり、実際に空や海底に配備されている。陸上での活用には課題が多いものの、民間のイノベーション(運送など)が、軍における運用に応用されると見込まれている。現在のこの成功はDARPAの研究がきっかけとなっている。DARPAは1984年から第一期自動運転技術の研究を開始し、2005年には第二期研究を開始し、2007年に第三期の研究を開始し、7時間で132マイル走行することに成功した。この研究は、2001年の国防権限法により大いに推進されることになった。
  ・自動運転の安全保障上の貢献は、自動運転車そのものではなく、自動車産業そのものである。自動車産業は、アメリカのGDPの3.5%を占めており、最重要な民間部門となっている。(航空産業は4%である。)自動運転技術の開発は、AI、自動制御システム、高容量のバッテリーなどの新興技術の発展に寄与することとなり、波及効果が安全保障にも重要となってくる。
  ・新興技術の応用、特にAIの応用は国家戦略にとって最重要事項となっており、60か国が600以上のAI戦略を策定している。技術的、経済的な成功により政治的な利益がもたらされ、戦略の影響力も増大することになる。

  ・中国との競争は、技術分野に留まらない。中国は19世紀に植民地化されたときから、西洋からの脱依存を志向して政策を着実に実行していた。製造2025で技術分野への注力及び重要性に言及し、国家全体で協調した取り組みを行い、5Gなどの重要技術で成功を収めた。経済的成功の後、軍民融合政策により技術を軍事に組み込んでいった。例えば、自動運転の分野は強力であり、「求是」は無人戦車や無人トラックなどでアメリカを上回っている。その他通信技術も強力であり、インターネットに接続されている中国の機器を利用することは非常に危険である。
  ・自動運転車は、新たなサイバーセキュリティ上のリスクや脆弱性にもつながる。サイバー犯罪により、2019年には数兆ドルの経済損失がもたらされており、今後、自動運転車もその標的になると考えられる。具体的には、自動車から収集されたデータは、道路情報、交通安全、メンテナンスやエンターテイメントなどに活用されており、ハッカーが自動運転車のOSを不正操作するなどの危険性がある。(中国は外車が国内で利用されることの危険性を認識している。)また、自動車間の情報のやり取りも交通安全上必須のものであり、ハッキングにより他の車の情報も操作され、違法に取得されうるのである。
  ・サプライチェーンにも注意が必要である。自動運転車が信頼できない企業等の製品であれば、ハッキングの標的や敵国への情報源になる可能性がある。中国は自動運転車の情報を積極的に取得しようと努めており、2017年の国家インテリジェンス法により、政府が企業や国民からの情報を取得することを認めた。テスラの自動車に対する軍事施設周辺の通行禁止などはこの最たる例であり、国内の情報を自国車にて収集しようとする試みである。
  ・未来の国際政治において、AIの支配者ではなく、技術の変化をもたらし、適切に調整できる国家が世界の支配者になるのである。どの国もAIや自動運転の市場を支配することはできないため、自動化技術の先導者たる地位を得ることが国家安全保障にとって重要である。

2.記事読後の感想について
  タイトルのわりに、自動運転の具体的な応用についてはほとんど語られていない。むしろ、自動運転に必要とされるAI、ソフトウェア、その他関連技術が持つ影響が重要であると言う主張である。
  日本は自動車産業が強いものの、法制度や倫理面などが非常に厳しく、おそらく自動運転の分野ではなかなか成功しないだろう。実験を海外で実施する、ないしは国内で特区を設けるなどの柔軟な対応が有効だろうが、おそらくそれも期待できない。日本は単体で取り組むのではなく、各国と協調した方がいいだろう。
  この際最も障害になるのは、保守系日本人の国粋主義的主張だろう。他国と組むと情報が漏洩する、技術が盗まれる、日本企業を優遇するべきといった主張が展開されがちであるが、これは日本企業が必ず敗北するという前提に立っている。世界市場における企業間の競争でそれなりに成果を残しているからこその日本経済であり、必ず負けるということはありえず、日本人の可能性を信じないのであれば、初めから投資する必要性はない。ここは信じぬくという決意が必要だろう。また、現代の技術は複雑多岐にわたっており、単純な努力だけでは達成できないのであり、日本企業だけで革新的な技術革新を成し遂げることは困難である。ここは謙虚になり、海外の企業から技術を学ぶと言う姿勢が重要である。
  また、技術の支配者になるという幻想も捨てるべきだ。技術は日進月歩であり、技術競争で勝利し続けることは不可能である。そうではなく、トップクラスに留まり続け、激しい変化の中で柔軟に対応できる地位を維持することが重要である。

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