日本の台湾防衛及び日米同盟(RUSIの記事)
写真出展:Michel van der VegtによるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/michel_van_der_vegt-949737/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=2439277
英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)が2021年7月30日に、最近の日本の台湾防衛の動きに関する記事を発表した。内容としては、日本の台湾防衛へのコミットが与える影響及び米軍の果たすべき役割について論じるものである。日本の言論空間では見られない視点での議論となっており、今後の展開を考えるうえでの参考になると考えられることから、本記事の概要についてご紹介させていただく。
↓リンク先(Japan’s Evolving Policy on Taiwan and the US–Japan Alliance: Towards a Nixon Doctrine for Northeast Asia?)
https://rusi.org/explore-our-research/publications/commentary/japans-evolving-policy-taiwan-and-us-japan-alliance-towards-nixon-doctrine-northeast-asia
1.RUSIの記事について
・台湾は日本の安全保障にとって、最重要の位置にある。南シナ海における「コルク栓」とも形容されており、日本のエネルギーや食糧の輸入ルートとして非常に重要な位置を占めている。最近の麻生副総理や岸防衛大臣による「台湾有事が日本にとって実在的脅威である。」との発言は、驚くに当たらない。この発言は近年の傾向から逸脱したものではなく、1990年代から徐々に進められてきた安全保障政策の結果なのである。
・1997年に橋本内閣は米日安全保障ガイドラインを改正し、「周辺事態」を安全保障対象に含めた。小渕内閣は、クリントン政権の台湾独立や国際機関参加を明確に支持しない政策に反対した。安倍政権は、あらゆる分野において台湾との連携を進めた。日本政府が推進してきた台湾有事の軍事オプション研究などを鑑みると、このような安全保障体制の改善は当然の結果である。
・日本は34の駆逐艦、11のフリゲート艦を要しており、北東アジアで最大級の軍事力を保有している。更にそうりゅう級の潜水艦は、台湾海峡においてはアメリカの原子力潜水艦よりも強力であり、タイプ12の対艦ミサイルは中国への大きな抑止力となる。
・ただこの傾向は、アメリカが日本に軍事的負担を押し付けるということではない。航空からの偵察にはアメリカの関与が必要であり、中国の対抗措置として尖閣への示威行為への適切な対応には、アメリカの支援も必要になる。中国が日本に核兵器を使用すると脅迫してきているこの状況において、アメリカ海兵隊などのコミットは重要である。
・この動きは、アメリカの北東アジアにおける基本戦略の変更を伴う。かつてのニクソンドクトリンは、地域の主要国の資源を活用しつつ、アメリカが後方で支援するというものであったが、台湾海峡でもこのような変化が起こるだろう。このことが実現されれば、中国を抑止することになり、最終的には外交的な解決に行きつくことが期待される。
・ただ、台湾海峡の安全保障は、日本の取り組み次第である。日本国憲法による制約があるものの、政府が台湾有事を現実的なリスクとして再定義することにより、米日同盟にとっての重要な機会を与えることになる。
2.本記事についての感想
日本の台湾への防衛強化は、イギリスにとっても望ましいものとして捉えられているようだ。麻生財務大臣の発言は、単なる放言ではなく、政府の明確な意思を示したものだ。このような発言や今回の記事のような評価から推察すると、菅政権の外交は、安倍前総理、麻生財務大臣、岸防衛大臣などが実質的に取り仕切っていると思われる。菅総理は内政には強い印象があるが、国家戦略や外交・安全保障にはそれほど見識が無いように思われ、これは適切な役割分担になっていると思われる。
本来であれば、日本の言論空間でこのような説明がなされるべきなのだが、特定国に気を遣っているのか、ほぼ批判一色といった雰囲気が強い。また、インターネットの保守系論者の番組では礼賛ばかりしてしまうが、これもバランスを欠いている。防衛予算がほとんど増加していないことを考えると、その対応はおのずと限られ、むしろ建設的に批判することが求められるのである。貧困な日本の言論空間を鑑みて、ある程度バランスを取るために真逆の主張をする必要に駆られるのだろうが、冷静な議論がここ数年ほとんど増えていないのは残念である。
情報は自分で収集する時代だということを強く実感させられる事例だろう。安全保障の冷静な議論に触れたい場合は、日本以外の議論に目を向けるべきである。
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