イギリス政府の新しいサイバー戦略(RUSIの記事)
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2021年12月15日に英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)は、イギリス政府の新しいサイバー戦略に関する記事を発表した。内容は、本戦略の主眼である社会全体での取り組み及び5項目の取組について概要を示すものである。
イギリスの課題は日本に通じるところがあり、今後のサイバー戦略構築に参考になると考えられることから、本記事の概要についてご紹介させていただく。
↓リンク先(The UK Government’s New Cyber Strategy: A Whole of Society Response)
https://rusi.org/explore-our-research/publications/commentary/uk-governments-new-cyber-strategy-whole-society-response
1.RUSIの記事について
・2016年のサイバー戦略から5年後の今年12月15日に、新しい国家サイバー戦略が発表された。ここ5年でサイバー環境は大きく変化しており、中国やロシアなどが大規模なサイバー諜報活動を展開し、ランサムウェア事件による民間企業への影響なども増加しており、サイバー空間は不安定化している。戦略的な観点からすると、中国の反民主的なインターネット圏形成などは、民主主義陣営にとって大きな脅威である。
・このような状況下において、イギリスはこれまでの戦略的方向性を大きく転換しなくてはならない。2016年の戦略は政府による大幅な介入の取組への転換を特徴としており、サイバーの能力の構築、サイバー産業の支援などに政府が積極的に関与するものであった。これに対して新しい戦略は、この方向性を踏襲しつつ、「社会全体」での取り組みを強調しており、統合戦略の概念を取り込んだものとなっている。
・より具体的には、サイバーセキュリティ及び攻撃的サイバー戦略を超越し、教育戦略、産業政策、規制改革、外交まで多岐に及ぶ政策を融合し、政府以外の複数の関係者による問題解決が強調されている。民間部門はサイバー空間や技術の主体であり、重要インフラもサイバーの恩恵を大きく享受しており、政府単体での対処は非現実的である。
・ただ社会全体の取り組みは、政府が民間に指示を出すことで成し遂げられるのではない。新しい戦略では、国家サイバー諮問会議により、政府と国民との対話を呼びかけることとしており、来年度に新たな発展が期待される。またサイバー上の課題についても明確に指摘しており、サイバー抑止の失敗、重要な技術の不足、技術分野におけるリーダーシップの欠如、インターネットの自由の減退などについて注意喚起している。
・課題への取り組みについては、5つの柱から構成されている。第一は、重要技術のリーダーシップ確保であり、マイクロプロセッサ、OS、暗号を含む重要分野における強力な生態系構築に取り組むとしている。第二は、サイバー政策でのリーダーシップであり、インターネットの規範構築で国際機関に働きかけることを強調している。第三はサイバー強靭化であり、国家の重要インフラの脆弱性対策を主眼としている。この中には国家サイバーセキュリティーセンターによる積極的サイバー防衛事業、インターネットの自動的な安全確保措置も含んでいる。第4はサイバー生態系の強化であり、技術者の育成、民間のサイバー技術基盤の構築に政府が先導的な役割を果たすとしている。第5は脅威への対処であり、国家サイバー軍による潜在的な活動や治安組織の取組について言及しているが、新しい取り組みについては言及されていない。
・最も着目するべきことは、サイバー政策を分野横断的に捉え、政策の中核に据えたことである。もっとも、戦略で提言されていることは概念的なものに留まり、個別具体的なものは少なく、各種取り組みが十分な成果を上げられるか否かは不透明である。このことの答えは、官民連携による社会全体の不断の取組による暫時的な政策の推進の中にあるだろう。
2.本記事についての感想
日本で社会全体と言うと、なんだか曖昧なものになってしまいがちである。官民の差異に関する意識が強すぎるため、官と民で連合して何かをやるということになると、戸惑いや抵抗感を覚える人が多いように見受けられる。官が主導する事業に関わる人々はどこか特殊な世界の人であって、一般の国民とは関係がないという意識が強いのではないだろうか。
ただ実際には、国民は行政に相当程度参加しているし、特段新しい試みというわけではないのだが、特にサイバーの分野ではこういった感覚になるのだろう。よく行政のデジタル化の遅れなどが指摘されているが、電子申請に関するシステムはそれなりに整備されており、役所内の業務もほとんどデジタル化されている。ただ救済措置として紙ベースのサービスを残していること、法令が紙ベースであるため、データを確認するために帳票類の印刷が必要になることなどから、表向きアナログな部分が多く残っているのみである。また使い勝手の悪さが指摘されることも多いが、発注者側の力量不足もあるが、法令上の要件を満たすための項目が多岐にわたっていることが大きな要因になっており、決して行政側だけの責任ではない。
ではなぜこういった状況を改善できないのだろうか。それは行政というよりも、政治の怠慢である。国民に対するデジタル社会の構想についての情報発信不足、サイバー専門家の意見軽視、改革に後ろ向きなマインドなど、政治の覚悟の不足によりサイバー政策が大きく遅れることになっている。
やや暴論ではあるが、こういったデジタルというのは高度に専門的な内容であり、国民的な議論は非常に難しく、一部の優れた人々に委ねざるを得ないのであり、ある程度は腹をくくるしかない。「誰も取り残さない」といった美辞麗句を用いるよりは、給付金手続きの効率化など分かりやすい話でメリットを強調しつつ、基幹的なシステムについては専門家に思い切って委ねるといった、政治的立ち回りが必要になる。現在のところ、こういった立ち回りをうまくこなせる政治家が思いつかないが、こういう時こそ責任野党の諸氏に期待したい。
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