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グーグルの独占禁止法訴訟敗訴とその影響(TIMEの記事)
写真出展:Gerd AltmannによるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/geralt-9301/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=4249390
2024年8月29日にTIMEは、グーグルのブラウザーに係る独占禁止法訴訟敗訴に関する記事を発表した。内容は、コロンビア特別区連邦地方裁判所の独占禁止法訴訟の判決内容と概観し、ビッグテックの独占を抑制しつつ、イノベーションの中心たるスタートアップを適切に育成するための市場創設のための政策を提言するものである。
グーグルのPlayストアやアップルストアなどによるアプリ開発者への圧力がたびたび問題視されているが、解決に向けた動きはほとんど見られず、対策を見出すこと自体も困難であるが、今回の判決は最初の一歩になるだろう。技術の発展と規制の在り方について理解を深める参考として、本記事の概要を紹介させていただく。
↓リンク先(What Google’s Antitrust Defeat Means for AI)
https://time.com/7015493/google-antitrust-defeat-ai-monopolies/
1.本記事の内容について
・8月5日、コロンビア特別区連邦地方裁判所には、グーグルが競合するサーチエンジン企業を排除するために市場力を違法に行使しているとして、独占禁止法違反を認定した。ここ20年でシリコンバレーの巨大IT企業が独占禁止法違反を認定されたのは初であり、今後の影響について様々な憶測を呼んでいる。
・判決によると、グーグルはスマートフォンのメーカーであるアップルやサムスンに高額の契約金を支払い、他のサーチエンジンをデフォルトで利用できないようにしたとしており、IT企業の研究開発を阻害しているとした。アマゾンやマイクロソフトも、クラウドサービスを利用するAI企業に資金提供をする代わりに製品を独占的にクラウドで提供する特約を締結するなど、類似の商慣行で契約を進めるケースが多く、これらに係る係争案件でも今後独占禁止法違反が認められる可能性があると、多くの専門家は見ている。
・ビッグテックは、新しい契約手法だけでなく、伝統的な手法である企業買収によりAI企業を囲い込んでいる。アップル、マイクロソフト、メタ、アマゾンは直近10年で89のAI企業を買収しているが、技術力に定評のあるスタートアップが多く、自社の脅威となる芽を未然に取り除き、更に有利な市場となるよう条件整備に邁進しているのである。
・今回の判決は、テクノロジー市場健全化の第一歩ではあるが、それでもなお問題は残っている。まず独占禁止法に係る訴訟は判決まで数年を要し、たとえ裁判で勝利しても、それまでの間に発生した損失を補填することが実質的に不可能である。政治的にも長期間の解決は望ましくなく、また、ビッグテック抜きでAIを政治や行政に導入することは不可能であり、現在の状況を維持しながらスタートアップ企業を適切に育成する環境を整備することは困難である。
・ただ、政府は様々な資源を有しており、クリエイティブな支援政策を実行することは可能である。ビッグテックのインフラやサービスを一種の公共物として例外的に取り扱い、不平等な商慣行を規制するというのは、1つの手段である。国家AI研究リソースなどの公共インフラは、オープンソースの計算資源、高品質データ、教育環境などを提供し、ビッグテックのインフラに頼らずに研究開発を支援しており、更に強化していくことも一つの有力な政策である。
2.本記事読後の感想
ビッグテックはアメリカ以外では誕生しておらず、アメリカの独特なテクノロジー市場という土壌でしか誕生しない希少種という側面がある。こういった事情もあり、アメリカ政府はその規制に慎重な姿勢を保ってきたわけだが、今回の判決はそろそろこのテクノロジーを巡る生態系に変化が必要な時期になっているという意識が醸成され始めたということを示唆しているのだろう。
このため、左翼的なバイデン政権の強権政治といった文脈でこの動きを理解しては、本質的な側面を見誤ることになる。2020年のアメリカ大統領選でも明らかになったように、通信品位法第230条によるビッグテックの言論に関する免責などは過剰な特権であり、こういった市場独占的な状態に多くの人々が疑問を持もつようになった結果、間接的にテクノロジーの独占を規制する方向性に力学が働くようになっていると見るべきだろう。
ただ政府による規制は方向性を誤ると、社会主義さながらの官僚支配へと陥ってしまう。日本政府の規制はまさしくこの典型例であり、エルピーダメモリやジャパンディスプレイなどは経産省のさもしい役人による失敗事例である。現在推進されている半導体支援政策についても私は非常に悲観的に見ており、ほぼ100%失敗すると見ている。無能かつ権力欲にまみれた醜い岸田政権が終焉するということで、昭和的な官僚支配が後退することが見込まれているが、新しい政権が同じような方向性の人物であれば、今までと同じ失敗を繰り返すことになる。アメリカの事例から適切に規制しつつ、新興企業がのびのびと活動できる、そういったテクノロジー市場を創設できるような政権の誕生を望みたいものだ。
詳細な政策については、CSET(Center for Security and Emerging Technology)の報告書にて提言されていることから、更に深堀したい方は、こちらの報告書をご覧いただければと思う。
↓報告書リンク先
The Policy Playbook | Center for Security and Emerging Technology (georgetown.edu)
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