国際電気通信連合(ITU)事務総局長選にて勝利するには(CSISの記事)
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戦略国際問題研究所(CSIS)が2021年5月20日に、国際電気通信連合(ITU)の事務総局長選挙に勝利するために必要な取り組みについて提言している。現在、ITUは隠れた重要組織となっており、中国の主導でIPや人工知能などの規格や基準作りを行われようとしている。今回は本記事の概要を紹介することとしたい。
↓リンク先(How to Win at the International Telecommunications Union)
https://www.csis.org/analysis/how-win-international-telecommunications-union
1.記事の内容について
・5月31日にブリンケン国務長官が、国際電気通信連合(ITU)の事務総局長選にドリーン・ボグダン-マーティン氏(現ITU-D 電気通信開発部門長)を推薦すると表明した。ITUの現事務総局長は中国人であり、中国に有利となるよう議会運営を行っていることから、アメリカが事務総局長職を獲得することが重要となる。ただ、国連専門部会の選挙で勝利することは困難なことである。過去には2019年の国連食糧農業機関(FAO)の事務総長選でアメリカは戦略的連携を欠き、他国に選挙で敗北していることから、今回は周到な準備が必要となる。
・選挙で勝利するためには、選挙制度を理解しておく必要がある。ITUは、加盟193ケ国の全権委員会議による秘密投票で事務総局長選を実施している。選挙は全権委員会議の6ケ月と1日前から開始し、候補者は四半期ごとに行われる定例会議にて、出馬の意思表明をする。全権委員会議の投票は3段階になっており、事務総局長、副事務総局長、選出され、各会議の議長の順で選出される。単純に過半数を得た候補が選出され、1回目の投票で過半数を得なければ、上位2候補による決選投票が行われ、最大4回目まで投票がある。最後の投票も引き分けの場合、高齢の候補者が選出される。
・現事務総長の趙厚麟は長期間ITUで要職を務めており、2014年、2018年2回の選挙では対立候補がおらず、無風選挙となっている。今回の選挙ではロシアのラシッド・イスマリロフのみ出馬を表明しているが、強敵である。エリクソン、ノキア、ファーウェイなどで重役を担い、ITUでもインターネットなどの基準作りを長らく務めてきた。アメリカは1960年から1965年の事務総局長しか獲得できておらず、2006年以降、ボグダン-マーティン以外支援もしてこなかった。
・選挙は候補者の出身国の役割が重要である。国務省が支援を表明したことは良い第一歩ではあるが、アメリカ一国だけではなく、二国間や多国間の連携に乗り出すべきである。デジタル開発のための各国の枠組み構築など、他国を取り込んでいく取り組みが必要である。
また、民間部門の役割も重要であり、現在ITUに加盟している63企業は、候補を支援する最善の方法を熟知しており、官民をつなぐ架け橋としての役割も期待できる。
・中国は挙国一致でITUの事業に取り組んでおり、5G、サイバーセキュリティ、人工知能などに関する2,000以上の新たな基準を提案している。中でも最も大きな問題は、インターネットプロトコルに関するものであり、監視社会に向けた中央集権的な提案となっている。
・事務総長職は重要であるが、長期的には他の役職との連携も必要となって来る。ITUには350名のプロフェッショナルがおり、個別の技術に従事している。トップだけでは対処できない分野も多々あることから、友好国の議長等の連携が必要となる。
2.本記事についての感想
ITUを利用して中国が新しいIP規格を推進しようとしているということについて、サイバー空間ソラリウム委員会(CSC)の記事を紹介させていただいたが、ハドソン研究所もCSCと認識を同じくしており、いかにして議長席を獲得し、各国と連携するのかについて論じている。
本来ITUは、IPや人工知能を守備範囲とはしていないが、中国の事務総局長により、その性格が大きく変質してしまった。また、中国による格好の囲い込みにより、加盟国総体として抵抗することもなくなっている。本稿ではこの点が論じられていなかったが、ITUを本来の形に戻していくことも重要であり、特に新しいIP規格は絶対に阻止しなくてはならない。
ただ、当の日本ではかろうじて総務省が資料を公表しているものの、IPの議論自体が盛り上がっていない。これは5Gと同様大きな問題なのであるが、国際規格や国際標準への関心が薄い。現在インターネットが自由にかつ、それなりに安全に利用できるのは、民主主義国がインターネットの基準作りを推進してきたからであり、中国のような権威主義的な独裁国家が主導するようになると、一気に監視社会のツールへと早変わりしてしまう。
ITU議長職は自由主義陣営側の反撃の第一歩となることから、今後も動きに注目していきたい。
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