アメリカの競争力のあるべき姿(CSISの記事)
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戦略国際問題研究所(CSIS)が2021年6月20日に、アメリカの競争力について概観する記事を発表した。内容としては、科学技術の発展の歴史を俯瞰しつつ、半導体を中心とした競争力の変化及び今後の課題などについて説明したものとなっている。今回は本記事の概要を紹介することとしたい。
↓リンク先(U.S. Competitiveness Where Do We Stand? What Do We Do Now?)
https://www.csis.org/analysis/us-competitiveness-where-do-we-stand-what-do-we-do-now
1.記事の内容について
・ムーアの法則は、現在のコンピューターや半導体を巡る状況を的確に予言したものであり、現代でも十分に当てはまる。これは、性能の向上だけでなく、ムーアの法則のペースを達成するために必要な投資、人的資源などの向上の指標にもなっている。これは、半導体産業の指標でもあり、国家の未来への投資の歴史の指標ともなっている。
・1950年代から60年代において、アメリカは戦略的に重要な製品や市場をほぼ独占しており、ベル研究所やサーノフ研究所などの優秀な技術を産出する研究所は、アメリカにあった。トランジスタ、携帯電話、白黒テレビ、液晶ディスプレイなどが発明され、技術から工場まで一連の機器をほぼ独占していた。その後の技術の進展に伴い、情報の集積、処理、分配に依存するようになってきた。情報の保存技術が発展し、多くの企業はその利益を享受してきた。中でも半導体の登場により、全ての製品の能力が飛躍的に向上することになった。
・アメリカが我が世の春を謳歌している一方、70年代から80年代にかけて、日本などのアジア諸国が、低コストの消費者向け家電などに注力し、競争力を付けてきた。その結果、部品や組み立て加工などの技術が発展し、アメリカの競争力の優位性が徐々に失われていった。また家電に半導体が大量に使われるようになり、アジア各国が積極的に半導体に投資し、アメリカを凌駕するようになった。例えば、アメリカに先行して、日本の自動車は半導体を利用して自動ワイパー、電子錠などの仕組みを導入したことなどは顕著な例である。
・個々の製品や市場が情報処理の発展により統合されるようになり、アマゾンのような企業が台頭してきた。製造と製品の提供やサービスの統合により、他の企業と接続するシステムが構築され、アマゾンやアリババが絶対的な王者となった。
・現在サプライチェーンで重要なのは、台湾である。台湾は半導体だけでなく、パソコン、スマートフォン、テレビ、家電などの製造を行っており、アメリカ及び中国は大きく依存している状態である。中国が自国で半導体生産を可能とするよう尽力しており、もしこの試みが成功すれば、アメリカは窮地に立たされることになる。
・アメリカがこの状況を打破するために産業の国内回帰政策を取ったとしても、不安定なサプライチェーンがある限り、多額の予算が必要となり、ムーアの法則が予言する競争に巻き込まれ、投資に見合う結果が得られない。このため、戦略的に重要なインフラのサプライチェーンを迅速に強化、多様化しなくてならない。真に信頼できる国々にある研究開発能力に優れた企業を取引先とすることで、過度な台湾への依存を低減することができる。ここで重要となるのは韓国と日本であり、戦略的な連携を模索するべきである。また税制や投資優遇制度なども重要であり、短期的な利益の追求にインセンティブを与える制度を改めるべきである。
2.本記事についての感想
アメリカの科学技術の競争力に関する歴史を俯瞰しつつ、半導体の果たす役割、今後のアメリカの政策の方向性を概観している。
結論としては同盟国や友好国と連携したサプライチェーンの強化・多様化、台湾への依存軽減、長期間に渡る産業の国内回帰への投資である。これは各種の提言と同一のものであり、特に目新しい点はないと言える。ただ、半導体には多額の予算が必要とされることから、必ずしも国産化にこだわらない姿勢を見せており、この点において柔軟であると言える。
日本は国産化にこだわりがちだが、半導体産業が衰退した理由が技術上の問題ではなく、経済的な問題であることを理解していない人が多い。最先端の技術を維持するだけでも多額の予算を要するものの、製品価格をそれほど上昇させることはできないのであり、利益が上がりにくい構造がある。従って国産化したとしても、激しい競争にさらされ、最終的には政府の支出に頼らなくてはならなくなる。
最近、半導体の「事情通」らしき方々がインターネットの界隈で出始めているが、このことを理解していないように見受けられる。(これはとある方のyoutube動画がきっかけのようであるが、この件については別の記事で取り扱うこととしたい。)こう言った中途半端な知識の人々は、政策を進めるうえで障害にしかならない。賢明な戦略は非常に複雑で常に変化しうるものであり、単純な解決策はないということを理解したうえで、産業政策を見ていかなくてはならない。
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