海軍のアルゴリズム対策(アメリカ海軍研究所の記事)
2022年5月22日にアメリカ海軍研究所は、海軍におけるアルゴリズムの脅威への対策に関する記事を発表した。内容は、AIや機械学習による監視システムへの対策についての提言である。
ウクライナ戦争でテクノロジーが果たす役割が注目される中、こういった技術への対策についての一端が紹介されている優良な記事であることから、参考としてその概要についてご紹介させていただく。
↓リンク先(The Navy Must Learn to Hide from Algorithms)
https://www.usni.org/magazines/proceedings/2022/may/navy-must-learn-hide-algorithms
1.本記事の内容について
・第一次世界大戦では、ドイツのUボートが猛威を振るったが、アメリカは潜水艦の装甲を塗装でカモフラージュすることで敵に発見されないように対策した。現在においては、AIや偵察衛星などが哨戒活動の中心となっており、これらの技術から発見されないように対策する必要がある。
・現代の偵察では、人工知能、機械学習による大量の画像や動画のデータ処理を活用しており、アルゴリズム型の監視衛生やドローンが監視・警戒するようになっている。海軍の無人作戦体系によると、無人システムに空から深海まで監視活動を行わせることとして。警戒対象となる物質を発見した場合にのみ警戒信号を発する仕組みとなっているが、大量のデータが流れ込むことから、人間が映像やデータの確認に多くの時間を割かなければならなくなるだろう。またAI監視対策イノベーションも勃興することになり、この方面にも目を向けていく必要が出てくるだろう。
・中国人民解放軍は、AI研究に多額の予算を割いており、CSETの報告書によると毎年度16億ドルを計上している。スタンフォード大学の分析においても、中国のAI研究論文数はアメリカを凌駕しているとされている。国防総省もこの状況を認識しており、2020年の軍事力に関する報告書において「中国は国家全体でAIのグローバルリーダーになろうとしており、いくつかの国内企業を選定し、特定目的の軍民両用技術の研究を推進しようとしている。」と述べている。アメリカの企業が国防総省の業務を請け負いたがらず、民間技術を効果的に軍に取り込むことができていないのとは対照的である。
・現在中国が研究しているAIアルゴリズムは、海底監視システムと組み合わされることになるだろう。また軍のセンサーだけでなく、民間の船や浮きなどのネットワークも活用することになるだろう。そしてこれら技術を兵器システムに組み込み、「インテリジェンス化した戦争手段」として活用することになるだろう。事実、西シナ海で衛星画像によりアメリカの艦船等の実物大模型を発見する実験も行われており、中国が先端的AI技術で他国を圧倒しようとしている。
・ではアルゴリズムをかいくぐるには、どうすればよいのか。AI監視システムでは機械学習により大量の画像やデータが投入されており、実物を変化させることなどにより、AIに影響を与えることができる。例えば、一時停止標識のデザインを改変し、テスラの自動運転車に速度制限標識と認識させることに成功している。またメガネやシャツなどの柄で監視カメラを騙すことにも成功している。軍艦や潜水艦も同様に、船体の塗装やデザインを改変することで、AI監視システムをかいくぐることが可能になりえるのである。
・アメリカ海軍は、この状況に対応しなければならない。第一に採用するべき策は、塗装やデザインの改変であろう。テスラの自動運転車の例でも、デザインの全体的な変更と言うよりは、黒いテープの配置などの若干の変更であり、船体や上空からの画像を工夫するだけで、機械学習によるアルゴリズムを回避できるだろう。また船体の形態の変更も有効になるだろう。取り外し可能な装置などを設置することにより、敵のアルゴリズムを混乱させることもできるだろう。
・外見を改変するだけでなく、センサーを誤認させる手法も重要である。例えばソナーを回避するため、擬似音を利用することが可能である。実験レベルでも、わずかな変動を声や音に加えることで、音声認識アルゴリズムを混乱させることに成功している。特に敵地における無人潜水艦による哨戒活動において、この擬似音を利用した手法は有効であろう。ただし、電磁スペクトラムやレーダーの回避は、実験レベルで成功している事例がなく、非常に困難である。
・敵国は研究を進めており、近いうちにAI監視システムを実践投入するだろう。海軍は、敵国がどのようにシステムを配備するのかを予測し、有効な対策を採用しなくてはならない。このためには、海軍の優秀な人員を総動員し、多大な時間をかける必要があるだろう。
2.本記事読後の感想
最近はウクライナばかりでこういった話題が少なかったことから取り上げてみた。今回のウクライナ戦争ではハイテク技術が活躍しており、今後の戦争のあり方が大きく変化する予兆が見られる。今回は、AIや機械学習システムをどのように凌駕するのかの一例が示されている。
敵対的サンプリングなどで比較的容易にAI対策が可能であることが知られているが、物理的な対策も有効であり、若干の変更で対処することができるというのであれば、実践的なのは、物理的な対策になるだろう。
ただこういった対策についても学習してしまうシステムが構築されることが予見されることから、これらの対策も一時的なものにとどまるだろう。現在の状況は技術的な軍拡競争の様相を呈しており、技術競争に勝利しなければ、軍事的な勝利に結びつかないのである。科学技術の進歩は、経済的な問題だけでなく安全保障の問題である。
ウクライナ戦争それ自体は望ましいものではないが、安全保障に対する懸念が広がっていることから、今は軍事技術の研究を強力に推進するよい機会である。日本学術会議の愚かな学者連中のことは無視し、現実的な政策支援を期待したい。
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