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イギリスのマネーロンダリング監視体制改革について(RUSIの記事)

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 2021年10月18日に英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)が、イギリスのマネーロンダリング監視体制強化の提言に関する記事を発表した。内容は、金融関係組織マネーロンダリング監視局の3冊目の年次報告を受け、今後の監視体制改革に関する提言を概観するものである。マネーロンダリング対策の進捗状況確認として参考になることから、本記事の概要についてご紹介させていただく。

↓リンク先(Shape Up or Ship Out: Time for Wider Reform of the UK AML Supervisory Regime)
https://rusi.org/explore-our-research/publications/commentary/shape-or-ship-out-time-wider-reform-uk-aml-supervisory-regime

1.RUSIの記事について
 ・2018年、イギリスの縦割りかつ非効率的なマネーロンダリング監視体制に対処するため、金融関係組織マネーロンダリング監視局が金融行動監視機構内に創設された。本組織は、会計部門及び法律部門における22の監視組織の一貫性及び有効性を改善する義務を負っている。2020年に発表した2冊目の年次報告書において、任務を完了するにはほど遠いながらも、それなりの進歩が見られた。3冊目の年次報告では、「監視組織の監視組織」に関する課題が明らかになった。
 ・本報告書では、複数の監視組織が効果的な監視機構になっていないことが指摘されており、3分の2の組織が人員の確保に苦慮している。更に2021年3月に発行された金融活動作業部会のガイダンスにおいて、リスクベースの取り組みを実施するよう指摘されたにも関わらず、33%の組織しか十分に対応できておらず、26%の組織しか有効な捜査機関として機能していないのである。また情報共有の取り組みは割合うまくいっており、68%の組織が協調して取り組んでいるが、現在進行中の事件についての情報共有に積極的とは言えず、主に組織内の取り組みに留まっている。
 ・この報告書を受け、監視局が監視組織に強いリーダーシップを発揮していないと非難されている。このような批判は監視局の権限強化に一定の利益があるだろうが、より広い視点で考えていくことが重要である。
 まず、監視局に欠けているものは何かを考える必要がある。このことにより、2017年マネーロンダリング規制の要件に基づく法令順守の進捗状況、情報共有専門家作業部会設立による情報共有改善などの課題を理解することができるようになる。
 次に、国際的な視点から監視局を評価する必要がある。金融活動作業部会の相互評価を受けた国のうち、10%しか優良という評価を受けておらず、最優秀という評価を受けた国がないことを考えると、マネーロンダリング機構そのものが世界的に脆弱な分野であると言えるのである。
 ・監視局に必要な改革に関しては、2つの問いがある。第一に、監視局は課題に対処可能な体制になっているのかということである。課題の大きさに対して、たった15名しか在籍していない組織が、強力かつ一貫してマネーロンダリングを管理することが期待できるのか。第二に、どのようにして基準を満たした組織内の監視体制を構築するのかである。2021年3月の金融活動作業部会のガイダンスでは、「監視組織は権限を欠いており、政府の監督官庁のツールを利用することができていない。更に、マネーロンダリング対策に関して、職員の訓練や経験が不足している。」と指摘されている。
 ・監視局の3冊目の年次報告書は、イギリスの法律及び会計部門へのマネーロンダリング監視体制の弱点を浮き彫りにした。イギリスが取るべき道は2つであり、1つは法律及び会計部門の監視を公的部門に移す、1つは監視局の権限を強化するである。前者は魅惑的であるものの、非金融部門の監視を効果的にするとは限らない。後者は権限を強化し、情報共有や分析機能を強化し、脆弱な監視組織を排除するなどを実施するものである。どちらの選択肢も、予算及び苦難なくして達成することはできない。不十分な監視体制の再構築及び再始動は待ったなしである。

2.本記事についての感想
 今回の記事は具体的ではなく、概念的と言うか方法論的と言うか、方向性を探るヒントを提示しようとするもののようだった。過去何回か記事を取り扱ってきたが、どこか曖昧模糊としており、あまり実効性のある取り組みにはなっていないようだ。
 事実としてわかることは、組織体制がまだまだ脆弱であること、十分な予算や権限、人材が割り当てられていないこと、あるべき姿が明確になってないことである。イギリスは金融大国であるが、英米法の慣習的な取り組みがあまりにも浸透しすぎていて、一本筋の通った取り組みが苦手なようだ。高度な柔軟性を保持すること自体は悪いことではないが、場当たり的な対応に終始しているとも言え、今後の取り組みに期待したいものである。
 ただ日本も他人に言えるほど良い状況にはなく、改革の必要性が訴えられつつも、各論に入ると反対されて頓挫するということはよくある。金融活動作業部会での相互評価においても低い水準だったことを考えると、日本の取り組みも待ったなしである。イギリスの取り組みを参考としつつ、日本に取り込むことができることを見出しながら徐々に改善していくと言う地道な活動が重要になるだろう。

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