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旧型半導体の戦略的価値(CSISの記事)

写真出展:TomによるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/analogicus-8164369/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=5315089

 CSISは2023年3月3日に、旧型半導体の現状に関する記事を発表した。内容は、旧型半導体の汎用性や戦略的重要性について概観し、最先端半導体ばかりに注目されがちな現状に警鐘を鳴らすものである。日本ではTSMCの熊本工場が注目され、最先端半導体生産への期待が高まっているが、最も深刻な問題は技術覇権というよりは旧型半導体の確保であることが良く分かる内容となっている。機微技術の戦略を冷静に見据えるうえで参考になることから、その概要を紹介させていただく。

↓リンク先(The Strategic Importance of Legacy Chips)
https://csis-website-prod.s3.amazonaws.com/s3fs-public/2023-03/230303_Shivakumar_Legacy_Chips.pdf?VersionId=3CnqsaOufV9_n0l35miYXEqfM8hpcZ6z

1.記事の内容について
 ・2020年は、半導体が世界的に大きく注目されることとなった。最先端半導体がアメリカで生産されていないことによる安全保障上の脆弱性が浮き彫りになると共に、旧型の半導体であっても需要を満たせるだけの生産量を確保できない現実に直面したのである。特に旧型半導体不足の影響は著しく、自動車や家電などの産業が工場停止に陥るなどの悪影響を受けるだけでなく、マイコン、信号、パワー半導体といった部品の生産も大きく停滞することとなったのである。
・2022年現在、アメリカ商務省の定義によると、半導体の区分については以下の通り定義されている。
 最先端:回路サイズが5ナノメートル以下
 先端:回路サイズが5~10ナノメートル程度
 旧型:回路サイズが28ナノメートル以上
 最先端半導体は、プロセッサなどの最先端機器に利用されているが、旧型半導体は、自動車、航空機、家電、工場の生産機器、軍事機器、医療機器など幅広い産業で利用されている。ただ旧型半導体とは言っても、技術革新に伴い半導体は進化を続けていることから、回路のサイズだけで区分しても、戦略や経済に対する影響を判断することはできないのである。
 ・2022年の商務省の調査によると、最先端半導体だけでなく、40ナノメーター以上の旧型半導体についても深刻な不足が発生している。空前の半導体需要に対応するため、アメリカ国内の半導体生産工場は90%以上稼働した。これは工場のメンテナンスや消費エネルギーの観点から考えられないほどの高水準だったが、アメリカ国内の需要を満たすことはできなかったのである。商務省の調査においても、150の企業が半導体不足を危機的と評価しており、中でも自動車産業の不足は深刻であるとされている。
 ・自動車産業は、アメリカにおける旧型半導体の消費量の95%を占めている。自動車は過酷な環境で利用され、耐性が求められることから、最先端よりも旧型の半導体が必要となるためである。コロナウィルスパンデミックに伴い、自動車の需要減を見込んで半導体の調達を抑制したが、一方でパソコンなどの電子機器の需要が急増し、半導体がそちらに振り向けられることとなった。この結果、2021年から2022年の前半にかけて北米の自動車生産台数は430万台減少し、マイクロコントローラーの価格は、2021年秋季に前年比5倍になった。
 ・自動車の半導体使用量は、ここ数年で飛躍的に増加している。1台当たりの半藤再使用量は、2017年比で2021年には2倍の1700点にも上っており、今後も増加することが見込まれている。またある試算では、自動車向け半導体市場については、2020年は387億ドルとなっているが、2030年には1,166ドルにまで成長すると見込まれている。ただ半導体の生産量は業界全体で年率10%も増加したが、旧型半導体の生産量は年率2%程度しか増加しないと見込まれており、自動車産業の需要を賄えるだけの生産量を確保できないと考えられている。事実、業界最大手のSTマイクロエレクトロニクスNVは、2023年も自動車産業への部品供給が停滞し続けると予測している。
 ・旧型半導体に必要となる生産機器はすでに生産中止となっており、生産量の大幅な増加は見込めない。また自動車の電動化、自動運転、ネットワーク接続に必要な半導体のうち3分の2は旧型半導体であり続けることを考えると、自動車業界の苦境はしばらく継続するだろう。また医療機器、スマートフォン、家電などに使用されている電源部、トランシーバー、接続装置なども旧型半導体が数多く使用されており、他の産業が受ける被害も甚大となるだろう。
 ・この状況を打開するには、旧型半導体生産に投資することである。旧型半導体は利益率が低く、半導体産業全体の投資のうちたった6%しか占めていない。このような状況下においても、インフィネオン、アナログデバイセズ、テキサスインスツルメンツ、NEXセミコンダクターといった半導体企業は、旧型半導体生産を増強しようとしているが、最先端半導体の需要も多く、政策のかじ取りが非常に困難な状況である。
 ・政策のミスマッチについての典型例は、EUである。EUは最先端半導体工場建造に430億ユーロを投じているが、EU域内の多くの企業が欲しているのは旧型半導体であり、フランスやドイツは一定の条件下において、旧型半導体の方にも補助金を拠出しているとしている。アメリカでも同様の問題があり、2022年8月に成立した半導体法では520億ドルが計上されたが、このうち旧型半導体に割かれているのは、たった20億ドルだった。ただ後に、商務省が100億ドルに予算を拡大するとしており、旧型半導体への公的支援を強化するに至った。日本のソニーと台湾のTSMCは、共同で70億ドル規模の旧型半導体生産工場を建設しており、2024年に稼働開始の見込みとなっている。更にTSMCは自動車産業向けの工場を建設することも計画しているとされているが、一方で日本政府とアメリカと共同で2ナノメートル以下の最先端半導体工場も2025年に建設することを予定しているとされている。
 ・経済的な要因以外のリスクとしては、やはり中国である。中国政府は、半導体産業に1,430億ドルの予算を計上しており、2021年には123億ドル、2022年には153億ドルを支出している。また今後10年で生産体制を2倍に増強するとしており、これは世界の生産量の約19%に相当する巨大な生産量である。旧型半導体の生産量も、今後数年で飛躍的に増大することが見込まれる。
 ・先進国が最先端半導体を禁輸し、更に巨額予算を計上して生産を推進した結果、中国は旧型半導体に注力することとなり、このままでは旧型半導体の世界的覇権を握られてしまう可能性がある。もし先進国が旧型半導体の生産を増強できなければ、有効な手段は中国からの輸入禁止しかない。旧型半導体は今後も必要となり続けるのであり、決して譲ってはならない。

2.記事読後の感想について
  半導体の弱点は、ジャストインタイムでの生産・納品ができないことである。このことに伴って需要のミスマッチが生じ、計画的に工場建設などの投資ができず、利益率の低さから撤退ということを繰り返している。ジャストインタイムができればいいのであるが、現在の技術では非常に困難であり、この問題を解決することができれば、半導体業界に革命をもたらすことができる。
 こういう意味で日本には大きな機会が到来しているが、小西文書のような下らない議論ばかりしている国会には何の期待もできない。TSMCとの提携についても、フラッシュメモリーの時と同じように、失敗する可能性が高いだろう。自省の利権拡大に経済安全保障を利用する卑しい経済産業省とそれを支える岸田政権、何とも恐ろしい組み合わせである。もはや頼れるのは、民間企業の自助努力のみである。
 今回の記事を取り上げた理由は、半導体を巡る現状を的確に把握し、日本が採用すべき戦略を冷静に見られるようになっていただきたいためである。国民が半導体への取り組みを理解し、半導体関連産業を世論で応援することが、最も重要なのである。

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