日本における中国の影響(1)(CSISレポート)
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昨年7月ごろのインターネットメディアで、アメリカのシンクタンクが日本政界の媚中派を批判するレポートを公開したという記事が出た。俗にいう「二階-今井派」という言葉がインターネット界隈で躍った。このレポートはCSIS(戦略国際問題研究所)により発表されたものであるが、その中で実際に何が書かれているのか、日本人は何を学ぶべきかということについて、認識があまり深まっていないように思われる。このことから、本レポートの概要を紹介することで、日本人が今後取るべき道を見出す一助とさせていただきたい。
※ 本レポートは53ページとかなりの分量があることから、今回はレポートの内容を中心に取りまとめ、読後の感想等は、2回目の方に投稿する。
↓リンク先(China’s Influence in Japan)
https://www.csis.org/analysis/chinas-influence-japan-everywhere-yet-nowhere-particular
1.中国による日本への影響力戦略
・コロナウィルス禍の利用
失敗していると判断している。
こちらは半分成功・半分失敗という所だろう。武漢ウィルスや中国ウィルスという言葉が日本メディアに出ることはなく、うまく抑え込んでいるというイメージが醸成されている。しかし、損害賠償訴訟やワクチン外交の失敗などもあり、中国に責任があるというイメージは払しょくしきれていない。
・孔子学院
国内に15校しかなく、学生数も不足気味であることから影響力は小さいと評価。海外でも閉鎖の動きがあり、日本も同調せざるを得ないことから、影響力はますます低下するとしている。私も同様の意見であり、工作機関としては露骨すぎて常に警戒されてしまうと考えらえる。また、中国に魅力を感じる人が少ないことから、押し付け的な教育は却って拒否感を与える。
・メディア戦略
中国メディアの存在感がないこと、在日中国人をメインの顧客に据えていることから、失敗事例だと判断している。
しかし、私は成功事例だと思っている。中国自らが出るのではなく、ステルス的に日本の報道機関を操って中国への批判を抑え込んでいるということについては触れられていない。また、日中記者協定などに触れられていない。
・日中友好イベント
一般の日本人にとっては魅力がなく、政治界隈のものとみなされており、標的とすべき人間も誤っている。このことから、失敗した影響力工作である。
私は本レポートを読んで初めて知った団体やイベントがあり、出席者も魅力的とは言えない人々であり、今後も人気になりそうにない。
・賄賂攻勢
ほとんど中国が絡むスキャンダルがない。最近の事例ではIRに伴う口利き疑惑があったが、小規模かつ少額である。両国の関係が深まれば汚職は増加するが、現在の傾向から見るとそれはなさそうという判断である。
私も同様の見解である。中国からの賄賂が判明してしまった場合のリスクが大き過ぎること、中国人の性格的に露骨に口添えなどを求めてくるなどの危険性が高く、金額に見合った利益がないと思われ、今後も中国とのかかわりを積極的に持とうとする政治家は多くないだろう。
・人質外交
北大や北海道教育大学の教授の拘束により脅迫しようとしたが、親中的 な学界からも反発を受け、失敗しているとしている。しかし、私は最も効果的な戦略になっていると捉えており、現在でも報道されないだけで拘束されている人は少なからずおり、日本政府の弱腰の理由がこの辺にあると思われる。
・留学生への働きかけ
こちらについては日本の保守系論者が非常に危惧しているが、本レポートではそれほど影響力がないと言う評価。共産党は人気がなく、むしろ日本に好感を持っている学生が多いことから、中国政府に忠実になることはないとしている。
私もほぼ同様の見方をしているが、侮るべきではないという程度。
2.日本固有の強靭性及び脆弱性
・国民感情は中国に批判的であり、決して受け入れない。
私は、これは日本の脆弱性を示すものだと思う。嫌っていても関係を断 つことができない。結局は、経済>感情なのだ。このような状況だから、親中派の政治家や官僚などが跋扈しているのではないか。
・日本と中国は長い間紛争関係にあり、常に警戒態勢を敷いている。
尖閣諸島の紛争やレアアース禁輸措置に、日本はうまく対処している。尖閣は国有化し、レアアースは代替のサプライチェーンを構築して中国の試みを頓挫させている。対中感情はさらに悪化しており、紛争になっても強い抵抗感を示すとしている。
しかし、警戒感はあるものの、私は十分な対処ができていないと思っている。中国に対抗する必要があるとはわかっていても、それを行動に移せないと言う問題があり、警戒感があってもそれが十分に生かされていない。
・ガラパゴス症候群
海外からの投資が少ないこと、海外生まれの日本人が少ないこと、海外でビジネスをする人間が少ないことなどから、海外からの影響を受けにくいと判断している。
私はこれらを強靭性の一つとして評価してよいと思っている。
・政治的同質性及び政治的無関心
自民党政権が安定していること、中国を警戒する政治家が指導者層に長らく君臨していることから、悪質な影響を受けないとしている。
しかしこの評価は甘いと思わざるを得ない。自民党一強状態が長らく続いているが、自民党を支持しているからではなく、それに代わる政党が現れないことが問題であって、無関心なわけではない。また、親中派が多いのは他ならぬ自民党であり、むしろ見えない所で親中派が跋扈しているのが現状である。親中派は保守系よりも相対的に選挙資金が潤沢であり、投票率の低さのおかげでわずかに組織票を積み増しするだけで当選している。つまり、投票率の低下が一般的に人気のない親中派議員に有利に働いていると言え、決して中国に対する抵抗力の強化にはつながらない。
自民党のイメージは表向き保守的であっても、親中的な政策が随所に散りばめられており、より詳細に評価しなければ正当な評価とは言えないだろう。
・日本メディアの閉鎖性
クロスオーナーシップや記者クラブ制度のため、海外のメディアが日本の市場に参入することが困難となっており、多様な見解が報道されることもない。日本人は中国批判を好む傾向にあり、中国に有利な報道がなされていないとしている。
しかし、実際には中国の影響は多大であり、NHKの中に新華社通信の支局が存在していたり、親中的な報道が多数なされていることについては触れられていない。
・親中派
日本における親中派は徐々に弱体化しているとしており、今後も日本国民から注視されることから、影響力は限定的であると評価されている。二階-今井派という文言が出てくるが、これは日本における親中派の典型例として取り上げられているのみであり、名指しで批判する内容にはなっていない。むしろ紙幅を割いているのは公明党であり、日本の弱点になりえるというニュアンスで取り上げられている。
ただ、問題はむしろ、見えない親中派だと私は思っている。一見保守派の顔をしているが、実は親中的な人々は多く、特に与党の親中派は質が悪い。
3.対応:日本の経験からの教訓
・影響力工作への規制
政治資金規正法や公職選挙法の厳しい規制が有効であると判断している。
しかし、日本流本音と建前の使い分け、つまり、法律条文そのものと運用の間における溝については十分に考慮されていないようだ。過去に前原議員が韓国系の人物から献金を受けていても、議員辞職には至らなかったように、法律が厳格に適用されておらず、法令だけを持って規制が厳しいとするのは誤りだろう。
外為法の改正は有効ではあるが、運用面において懸念がある。
・官邸権力の増強。特に外交政策、防衛政策の一元化(NSC創設など)
これ自体は正当な評価だと思う。NSCの創設は、一般に認識されているよりもはるかに大きい功績である。戦略に基づいた外交安全保障政策を遂行するのに不可欠であり、これまでの属人的な政治からの脱却を実現したと言える。しかしこの仕組みを定着させるためには、最低あと20年は継続する必要があるだろう。
最近では、クアッドで保守界隈が盛り上がっているが、私はそれほど頼りになるものではないと思っている。基本的に4ケ国は同床異夢であり、日本がどの程度注力するのか、インドがどれぐらい協力的になってくれるかがポイントになると考えている。また、東南アジア諸国の協力も不可欠であるが、ブルードットネットワークなどに対しては総じて冷めた見方をしているように思う。中国との関係が危ういとわかりつつも、適切な距離を保てておらず、中国にいかに妥協させるよう持って行くのかが問われている。
・日本のイメージ工作
政府全体の取り組みとして、クールジャパンやジャパンハウスなどで世界への影響力工作を進めており、成功を収めつつある。オリンピックや万博の開催国としての名声を得ようと努力している。
自治体や民間企業もゆるキャラなどでブランド化を図っており、プロモーション能力は総じて高い水準にある。
イメージ工作については、私は正直成功していないと思う。ソフトパワーは黙っていても広まっており、政府は一般に宣伝が不得手であるが、民間ビジネスは広報に長けており、漫画やアニメ、和食などは特に宣伝する必要性はない。観光については或る程度宣伝が必要になるかもしれないが、費用対効果が薄いと思われる。
それよりも問題は、政治的な宣伝である。今まで英語メディアでの露出が少なすぎたことから、中国や韓国などの不当な宣伝に対抗する必要がある。また、各新聞社の英語サイトの記載も混乱に拍車をかけており、政府として英語メディアへの記事掲載や英語サイトの強化を図る方が重要である。
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