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ロシア経済と制裁の効果(IISSの記事)

写真出展:Aleksandr SobolevによるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/alex_vagler-13849136/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=4785454

 英国国際戦略研究所(IISS)は2023年2月20日に、ウクライナ戦争に伴う制裁の影響とロシア経済に関する記事を発表した。内容は、2022年の経済指標から経済制裁が短期的には大きな影響がないことを指摘し、今後の長期的な景気見通しについて概観するものである。ロシアは資源が豊富であることから相対的に自給自足が容易であるものの、2014年のクリミア侵攻以降、経済が縮小したことで景気悪化があまり目立っていないという側面があり、その実態はかなり捉えにくい。現在及び今後のロシア経済の展開を理解する参考として、本記事の概要を紹介させていただく。

↓リンク先(Russia faces the slow burn of economic sanctions)
https://www.iiss.org/blogs/analysis/2023/02/russia-faces-the-slow-burn-of-economic-sanctions

1.本記事の内容について
 ・2022年のロシア経済は、当初の予想よりも堅調だったようである。専門家の見解によると、ウクライナ戦争や経済制裁の影響によりGDPの下落は15%程度になるという見込みだったが、ロシア財務省発表のデータによると2.2%の減で踏みとどまっている。ルーブルも大きくは下げておらず、金融部門もそれなりに機能している。
 ・比較的安定している理由は、2つである。1つ目は、ロシア政府が2014年のクリミア侵攻以後、経済制裁対策を進めていたことである。ロシア連邦中央銀行は、資本移動や利上げなどの通貨安定政策を早期に実施し、資本の流出を抑制してきた。また西側諸国は3000億ドル相当の金融資産を凍結したが、中央銀行の預金残高を2200億ドル以上確保しており、流動性を保っている。2つ目は、2022年12月まで西側諸国のエネルギー経済制裁が発動されなかったことである。アメリカ、カナダ、イギリスはロシアから化石燃料の輸入を停止したが、EUは2022年12月までで1480億ドルも輸入しており、大きな打撃とはなっていなかった。
 ・ロシアはEU以外の代替輸出先確保も進めており、中国、インド、トルコなどへの輸出を増加させている。ただ2022年12月以降、ロシアの原油収入は32%も下落しており、1日当たり1億7100万ドル収益が減少している状態である。2023年1月のロシア財務省の発表によると、1か月当たりの経常収支赤字は、1998年のルーブル危機以来最大の250億ドルにも達しているという。EUは石油派生製品についても輸入制限を適用しており、中国やインドは自国の設備を有していることから、代替輸出先を確保できず、更にロシアが苦境に陥ることになるだろう。
 ・輸出禁止については、機微技術の輸出制限が最も効果的であるとされている。ロシアの軍事産業は、半導体の輸出制限により打撃を受けており、戦車、超音速兵器などの製品に必要な部品が大きく不足する事態となっている。航空産業についても部品確保のために、他の航空機の部品を流用するなどしてしのいでおり、自動車産業はほぼ停止状態に陥っている。
 ・2023年はエネルギー価格の下落だけでなく、更なる軍事的・社会的支出が増加すると見込まれており、より一層苦境に陥ると予想されている。2022年11月以降、ウラル原油価格は1バレル70ドルを下回っており、GDPの4.5~6.5%程度の予算不足に陥ると見られている。ロシア経済は戦時体制に入っており、インフラ、教育、福祉への予算を削減しつつ、福祉基金や外貨準備高も活用して何とか戦費をねん出している状態である。なお戦費は、2023年には33%も上昇する見込みであり、今後もこの水準の支出が継続することになるだろう。
 ・サプライチェーン確保についても西側諸国以外に求めざるを得ず、イランや北朝鮮からドローンやミサイルを調達するなどしている。原油の輸出にしてもタンカーでの輸送が主となり、制裁で禁輸されている物資を入手するためには中国、トルコ、UAEなどを経由しなければならず、制裁回避のコストも莫大となる。以上の状況を考えると、2022年の経済が堅調だったとしても長期的には凋落を免れられないだろう。

2.本記事についての感想
  ロシア経済のネガティブな報道は目立っているが、実際の指標はそれほど悪化していないように見える。ロシアの統計が当てにならないのは言うまでもないが、輸出入統計だけを見るとそれほど齟齬があるわけではなさそうで、GDPの下落幅が2%台ということはある程度信頼していいだろう。そもそも2014年のクリミア侵攻以降、経済制裁で韓国よりも経済規模が縮小してしまったという点ですでに失敗しているのであり、GPDの下落幅が低いからと言って、制裁に効力がないなどと考えるのは誤りだろう。
  どこかの反日的なコメンテーターなどが、こういった情報に飛びついて下らないロシア擁護をする可能性があるが、こういった有象無象は放っておけばいい。我々はあくまでも定量的に物事を見るべきであり、ロシア経済が有望だなどといった幻想に惑わされなければそれでいい。
  いずれにしてもロシア経済に明るい兆しなどない。戦争を成功体験にさせないためにも、ロシアを無理筋で擁護するようなことがあってはならない。ただ日本は安全保障的な側面から見ると、中国と対峙しなければならないという特殊な状況に置かれていることから、単なる批判だけに終始し、過度に敵意を煽るということも不適切である。
  ウクライナ戦争は確かに国際法違反であり、人道にもとる行為である。ただ戦争を許さないということと、外交安全保障上の関係を断つという事とは異なる。無駄に対立しないのですむのであれば、そういった立ち回り方もあるということぐらいは認識しておくべきであろう。

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