軍のサイバー教育の課題について(CSCの記事)
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サイバー空間ソラリウム委員会が2021年6月25日に、軍のサイバー教育の課題について関する記事を紹介した。内容は、安全保障上の役割及びサイバー防衛の観点から見た教育に関する提言である。日本にとっても参考になると考えられることから、本記事の概要を紹介することとしたい。
↓リンク先(THE CHALLENGE OF EDUCATING THE MILITARY ON CYBER STRATEGY)
https://warontherocks.com/2021/06/the-challenge-of-educating-the-military-on-cyber-strategy/
1.記事の内容について
・軍におけるサイバー教育は非常に困難な事業である。サイバー戦略事業は、各部署により異なっており、しばしば予算削減の対象とされ、明確な指針なくして場当たり的に変更されてしまう。また軍は、サイバーセキュリティを実体の話ではなく仮定の話としてとらえる傾向にあり、軍大学や士官学校側の理解も大きく改善していかなくてはならない。
・サイバー空間ソラリウム委員会(CSC)は、2020年3月の白書にて、軍の教育システムにおける、サイバー戦略教育の支援を強化するよう提言した。その提言において、軍の学校において、国家レベルでの恒久的なサイバー戦略及び政策に関する教育、研究機関を創設することを盛り込んだ。しかし本提言を実行に移した際、委員会スタッフは、ただサイバー関係教職員を創設するのみでは不十分であるという認識に至った。
・軍における教育事業において、次の3つが有望である。
① 国防総合大学の情報及びサイバー空間校は、歴史的な経緯から、軍のサイバー教育を主導してきた。また国防総省のサイバーセキュリティコンソーシアム及び国家サイバーセキュリティ高度学術センターの調整役でもある。その他国防総省のサイバー空間の取り組みに関する指針も提供している。
② 海軍大学院は、サイバーアカデミックグループのホストであり、軍の教育において固有の専門技術を提供している。セキュリティガバナンス研究所を通じて、サイバー戦略、政策、作戦に関するコースも提供している。
③ 空軍サイバー大学は、専門的なサイバー教育時を実施しており、サイバー戦略における修士課程を設置しようとしている。「サイバー空間及び戦略的競争」というサイバー戦略の教育事業は、特に興味深い。国家安全保障局と協調し、遠隔教育でのサイバー学位を取得できるコースを用意している。
これら3つの取り組みを模範とし、組織の改編や作戦の変更などを伴わずに組織化、強化が図られるようにするべきである。
・士官学校での教育も重要である。サイバー作戦は現代の戦争に不可欠であることから、個々の戦略や作戦の観点を学ぶ前にまずサイバー戦略の基礎を学ぶべきである。これだけでなく、中堅職員向けの高度な研修や高官向けのサイバー作戦指揮などの研修も導入するべきである。軍の研究機関としては、海軍大学にはサイバー及びイノベーション政策研究所があり、陸軍士官学校には軍サイバー研究所があるものの、教育機関としては機能していない。このため、既存の教育事業の見直しが必要である。
・CSCは議会が国防総省にサイバー戦略教育及び包括的な教育事業提言の検証作業を実施するよう指示するべきである。本提言に含めるべきことは、第一に、まず各校は大規模なサイバー教育機会を提供するべきである。更に個々の軍の教育事業と整合性の取れたものとしなくてはならない。第二に、空軍や海軍で実施されている教育事業と同程度の補助金を統合軍の教育にも拠出し、サイバー教育が早期の段階で実施されるようにするべきである。第三に、個々の学校は現在のサイバー戦略を講義に取り込み、将来の士官や予備役まで対象としたものとするべきである。第四に、国防総合大学の情報及びサイバー空間校が、全体的な方向性を提示し、個々の学校に助言するべきである。
・サイバー教育の法制化も重要である。議会は合衆国法典を改正し、統合軍の教育基準を設定し、核となるサイバー及び情報戦略要件を盛り込むべきである。第10編第2151(a)条において統合軍の教育基準が設定されているが、サイバーの領域における作戦計画の教育には言及されていない。法典の文言は曖昧であり、解釈の余地があるという部分はあるものの、要件が競合する場合などにおいて、サイバーセキュリティや戦略事業などの改革に対処しきれない。その他、統合参謀本部の軍教育方針
のようなガイダンスの策定も必要である。
・最後に、意味のある改革や投資が重要である。大学における軍のイノベーションを鑑みると、現代の技術に対応しきれていないことは明白であることから、予算を削減してはならない。
2.本記事についての感想
軍というのは独特な組織であり、全てを自己完結的に進めようとする。これは軍の性質及び機密上の観点から当然であり、日本の自衛隊もこの例にもれず独自のサイバー教育や事業を実施している。
自衛隊のサイバー能力は一般的に高いと言われているが、どちらかと言うと組織防衛の観点からのものであり、作戦の展開や攻撃といった方向性ではない。非常に多くの知見を有していながら非常にもったいないと思われ、また、デジタル庁の創設でやや予算も削減されてしまう可能性もありそうだ。ただ、自衛隊に必要とされる要件は他の省庁とは異なっていることから、組織をむしろ強化していく方向にいくべきだろう。
デジタル庁には研修機関としての役割も期待しているが、現状ではこのような役割を担うのは困難と思われることから、既存の優れた取り組みを集約し、今後に生かせるよう検証するべきだろう。
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