イスラエルのガザ侵攻と経済(IISSの記事)
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英国国際戦略研究所(IISS)は2024年2月16日に、イスラエルのガザ侵攻に伴う経済への影響に関する記事を発表した。内容は、2023年10月7日から開始されたガザ侵攻に伴う予算や労働力などへの影響を分析し、経済への影響を考察するものである。連日イスラエルによる残虐行為にばかり注目が集まっているが、軍事作戦の継続に伴う戦費といった視点での情報はほぼ皆無である。今後の軍事作戦の推移等を予測するための参考として、本記事の概要を紹介させていただく。
↓リンク先(Economic fallout of Israel’s Gaza Strip operation threatens growth prospects)
https://www.iiss.org/online-analysis/military-balance/2024/02/economic-fallout-of-israels-gaza-strip-operation-threatens-growth-prospects/
1.本記事の内容について
・2023年10月7日のハマスによるテロ以降に開始されたガザ侵攻から、早5か月が経過しようとしているが、この戦闘がそう長く続かない兆候が見られるようになっている。11月のイスラエル中央銀行による経済予測によると、ガザ侵攻に係る経費は2050年までに530億ドルに上るとされており、かつてない規模の軍事作戦を継続することができるか疑問視されるようになっている。
・2014年のガザ侵攻では、たった1か月程度の軍事作戦で19.6億ドルを要したが、これには予備役の給与や航空戦闘機などの兵器への予算は含まれていない。この程度の経費負担でも政府機関に与える影響は少なくなく、全省庁から予算を削減して約5.6億ドルをねん出せざるを得なかった。
・今回のガザ侵攻では36万人の予備役が招集され、1日当たりの戦費は4100万ドルを要しており、戦闘の継続に伴い1月末までの戦費は42億ドルに上ると見られている。2023年10月のイスラエル中央銀行による予測では、予備役は半分以下しか招集されてないと見られていた。予備役の補償金は各個人の賃金に応じて定められており、学生、無職、最低賃金未満での労働者は最低日額82.22ドルとなっていることから、1日当たり2000~2400万ドルに留まると試算していたが、戦闘継続で招集される予備役も増加しており、この経費が見込みよりも多くなる事態に陥っている。
・予備役はイスラエルにおける労働人口の8%を占めていることから、招集する人数が増加するほど経済が停滞することを意味するのであり、軍事作戦開始後5週間の経済の機会損失は6.9億ドルと見られている。軍事作戦の縮小に伴い予備役は仕事に戻りつつあるものの、パレスチナ人の出稼ぎ労働者の減少に伴う労働力不足の懸念も発生している。ガザ侵攻前は7.5万人のヨルダン川西岸に居住するパレスチナ人と1.2万人のガザ地区の住民が働いてたが、国境封鎖によりこれらの労働力に期待することができなくなった。インド人などの外国人労働者に就労許可を出すなどの取組を行っている者の、労働者不足の問題は短期間では解消できないと見られている。
・イスラエル防衛省の軍事費の増大も、経済にとって大きな負担となっている。防衛費の3分の1は兵器や研究開発に割り当てられており、アメリカからは33億ドルの支援を受けて賄っている。戦闘継続に伴い、アイアンドームなどのミサイル防衛システムを維持管理しつつ増大する兵器への支出も賄う必要があり、既存兵器の在庫補充も戦闘継続の障害になる可能性がある。
・目に見えるコストだけでなく、戦後復興のコストも無視できない。ハマスのミサイルにより被害を受けた地域に対し、ビジネス上の損失と給与を保証しており、更に他のビジネスでもハマスの攻撃により売り上げが大きく減少した場合には、総額27億ドルの政府保証付きローンが予算計上されている。
・戦費がどの程度に上るのかについては、正確に計算することはできないが、イスラエルとその周辺地域は、財政状況がひっ迫に見舞われることになるだろう。イスラエル中央銀行は2024年の経済成長率の見込みを3%から2%に引き下げ、軍事作戦前の経済水準に戻るまで1年以上要するとしている。3大格付け会社もイスラエル国債の格付けをA+から引き下げる可能性を示唆しており、IMFはヨルダン川西岸とガザ地区の経済成長率が9%から6%に減少するとしている。また中東地域や北アフリカ地区は0.5~2.0%程度しか成長することができず、2022年の5.6%を大きく下回っている。このことを考えると、経済への悪影響は広範かつ長期的なものとなる可能性がある。
2.本記事についての感想
戦争には大きな予算が必要となるが、この観点からの情報は極めて少ない。防衛関係の情報があまり公表されないということもあるが、このことは現実の問題であり、関心を持つべきことである。
イスラエルはその地政学的立ち位置から多くの防衛費を要する地域であり、防衛だけでも相当の予算を計上している。兵器や技術を輸出することで利益を上げている側面もあるが、トータルとして考えるとそのコストは大きく、経済的には損失を与える可能性の方が高い。
戦闘が予算上の制約により終了するというのは本来のあるべき姿ではないだろうが、これ以上無暗に人命が失われるよりはましである。問題は、戦費を賄えなくなることに伴う安全保障環境の不安定化であり、今後とも経済的な影響と防衛の最適なバランスをいかに維持していくのかに注目していくべきである。
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