AUKUSの戦略的意義について(RUSIの記事)
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英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)が2021年9月21日に、AUKUSの戦略的意義に関する記事を発表した。内容は、AUKUSに対する批判やイギリスの果たす役割などについて概観するものである。先日オーストラリアの原子力潜水艦整備に関するIISSの解説を紹介したが、今回はイギリス側の視点で論じたものとなっており、立体的にAUKUSを理解することができる優良な内容であることから、その概要についてご紹介させていただく。
↓リンク先(What Does the AUKUS Deal Provide its Participants in Strategic Terms?)
https://rusi.org/explore-our-research/publications/commentary/what-does-aukus-deal-provide-its-participants-strategic-terms
1.RUSIの記事について
・AUKUSの発足に伴い、外交的なニュースが賑わっている。おおむね歓迎するムードがあるが、一部識者はオーストラリアの原潜整備は中国人民解放軍に対抗できない、安全保障環境の劇的な変化に対応できないと批判している。しかしこういった批判は長期的な戦略的価値を見逃している。
・オーストラリアの原潜整備に対する批判については、以下の4つの類型があるが、いずれについても解決可能なものばかりである。
① 現実的な時間軸での原潜展開が困難である。
最速で2030年度に整備されると見られているが、別に開発しなくても原潜を展開する方法があり、インドがロシアのアクラ級の原潜をリースしているという前例に倣い、オーストラリアもアメリカの原潜をリースすることは可能である。
また、中国人民解放軍向けにアメリカが30隻の原潜を展開し、日本のディーゼル潜水艦も支援している状況において、東シナ海の安全保障における量的な優位性が確立されており、オーストラリアの原潜整備による影響力は軽微であることから、整備を急ぐ必要性がそれほどあるわけではない。
むしろ、アメリカのバージニア級原潜の耐用年数と更新サイクルを考慮すると、オーストラリアの原潜が必要となるのは、2041年ごろになると考えられている。現在のオーストラリアの計画は8から12隻の原潜整備となっており、アメリカの退役する原潜の数をカバーするのに十分な量である。
② オーストラリアの原潜部隊は、小規模にならざるを得ない。
いずれにしても、オーストラリアの原潜部隊は、中国人民解放軍の規模には及ばない。ただ、現在の状況でアメリカ1国の部隊だけで対応することは困難であることから、オーストラリアの支援が重要になって来る。特に原潜はディーゼル潜水艦よりも長時間の潜水が可能であり、スンダ、ロンボク、マラッカ、バシ海峡などのチョークポイントにおいて、地理的に近いオーストラリアが効果的に警備活動することが可能になる。
③ 原潜は、第一列島線近郊の浅い海域には適さない。
台湾海峡のような原潜が潜行できない海域においても、支援活動は可能である。対艦巡航ミサイルは潜水艦の主要な兵器となっており、バージニア級の原潜にミサイル発射機を装備すれば、第一列島線に展開されている水陸両用の兵器に遠隔で対抗することが可能である。その他原潜は、中国のDF-21DやDF-17などの対艦ミサイルの脅威にさらされることはないため、第一列島線を離れて活動することが容易である。
④ 技術の進歩により、原潜が役に立たなくなる。
これだけでなく、ドローンの配備においても最適な母艦としても期待することが可能である。ロシアのオスカー型原潜「ベルゴロド」は、無人機の母艦としての役割を果たすために、当初よりも延長して就役しており、原潜の役割が変更になったとしても、原潜そのものの必要性は失われない。
・イギリスにとってAUKUSは3つの意味があり、一つは軍事産業への刺激、一つは統合作戦概念の具体化、一つは未来の原潜配備を加速するための下地作りである。
AUKUSにおけるイギリスの役割は明確ではないが、アスチュート級、バンガード級の原潜のロールスロイス製原子炉、静音のポンプジェット推進力技術が貢献することになるだろう。またオーストラリアとの共同開発により、雇用の創出、技術力の向上、未来の原潜開発などの効果が期待できるだろう。
統合作戦概念の観点から、2つの重要な防衛事業がある。友好国と連携及び敵国との対峙による抑止である。経済と同様に、軍についても世界的に展開することの重要性を説いており、中国はイギリスにとって構造的な競争相手であり、ロシアのような脅威ではないと考えられているが、AUKUSの枠組みは中国の抑止に大きく寄与する。イギリス海軍の展開が制限されるアジア地域において、アメリカとオーストラリアを支援することで、直接対峙することなく抑止行為が可能である。予算や人員などの資源が限られる中、こういった多国間の枠組みによる安全保障は、イギリスのアジア地域における当事者としての役割を果たすことに大いに貢献するだろう。
2.本記事についての感想
AUKUSのニュースがいろいろと出ているが、あまり冷静なニュースが無いように思われる。AUKUS側のプロパガンダに乗せられ、外交的勝利が演出されているように思われる。個別具体の話はこれからであるが、日本にとっては期待できると同時に、少しばかり残念なニュースではある。
AUKUSの枠組みは本来クアッドの発展的拡大により形成されることが望ましかったが、日本は表向き原潜を保有することができないため、この枠組みから外されてしまった印象がある。ある意味では配慮ではあるが、信頼されていないということの現われでもあり、巻き返しが重要になるだろう。
核兵器の持ち込みについては、公然の秘密たる密約があり、ほぼ配備されているも同然である。原潜も同様の措置で配備できるよう、政府はしたたかに対応していただきたい。またAUKUSへのオブザーバー的な参画も、中国への外交カードに利用できる可能性が高いことから、この状況をむしろ好機として利用するぐらいの外交を展開していただきたいと思う。
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