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ウクライナ情勢第19報(戦争研究所の記事)

 

 日本のメディアやロシア専門家などにより活用されている戦争研究所(ISW)のウクライナ情勢の報告書であるが、かいつまんだ解説や引用のため、その全体像が見えにくくなっている印象がある。そこで、報告書の中で重要と思われる事項があるものの、メディアなどで伝わってこない部分がある場合、不定期に取り上げることとしたい。今回は3月22日から24日の部分の情勢について取り扱った部分について、重要部分を紹介することとしたい。

↓リンク先(UKRAINE CONFLICT UPDATE 19)
https://www.understandingwar.org/backgrounder/ukraine-conflict-update-19


 1.概要
   今回発表したウクライナ情勢第19報は、3月22日から24日の重要な政治的事項、公表された情報について取り扱っている。概要については以下の通り。

  ・ロシアが一時的に占拠している地域について、ゼレンスキー大統領が交渉する意向を示しているとしているが、ロシア軍はクリミアとドンバスから一時後退している。
  ・ロシアは西側諸国のウクライナ支援を批判し、ロシアが安全保障上の脅威と見なした場合に核攻撃も辞さない姿勢を見せている。
  ・西側諸国は、ロシアの生物・化学兵器の使用について警告している。
  ・経済制裁により、ロシアの軍産業やエネルギー輸出に大きな影響が出ている。
  ・占領地を実効支配するため、ウクライナ人を強制的にロシアに移住させている。
  ・EUとNATOは、短期的、長期的防衛予算の増額、東欧への軍の展開、ウクライナへの軍事支援を発表した。

 2.重要項目
  ① 停戦交渉
    ゼレンスキー大統領とクレバ外務大臣は、クリミアとドンバスの主権を取り戻さなければならないと発言した。またクレバ外務大臣は、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、トルコと安全保障に関して交渉しているとした。23日ラブロフ外相は、西側諸国の調停に反対しないものの、ウクライナの西側諸国への組み込みは「レッドライン」になると発言した。ペスコフ報道官は交渉が想定よりも遅いと発言し、外務省のザハロワ報道官は、アメリカが背後にいてウクライナを動かしているとした。

② ロシアの国内弾圧及び検閲
 ロシアは新しい法律を制定し、ウクライナ戦争の「フェイク」情報の拡散を禁止し、戦争反対を国家反逆罪とした。3月22日に本法律の初となる刑罰が科された。新政府的な政治団体は、告発用のウエブサイトを立ち上げた。
 またYoutubeやグーグルニュースをブロックし、国内の情報空間を制御しようとしている。また西洋メディアがロシア政府の検閲基準に従わなければ、ロシアでの活動を禁じるとしている。
 ただロシア政府高官内でも反戦の機運が高まっており、3月23日にチュバイス大統領特使が辞任した。ナビウリナロシア連邦中央銀行総裁は何度か辞任しようとしたが、プーチン大統領が拒否したとされている。

③ 各国の公式発言
  3月22日のCNNのインタビューで、ペスコフ報道官は安全保障上の脅威とみなされる状況下において、核兵器使用を選択肢から外すことを否定した。ラブロフ外相は、西側諸国が一極集中の体制を構築しようとし、ウクライナ危機を通じてロシアの独立を脅かしていると述べた。今後も西側諸国のウクライナ支援活動に対して脅迫を繰り返し、核兵器の使用をちらつかせるだろう。
  またロシアは、アメリカが支援する生物兵器研究所についての批判を繰り返している。3月24日にバイデン大統領の息子が、ウクライナの生物兵器研究所に関わっているという偽情報を流している。提示した証拠は根拠に乏しく、例えばロシアの南アフリカ大使館は、ツイッターでアメリカ国防総省の生物研究所の地図をツイッターで掲載した。これに対し、ウクライナの偽情報対抗センターは、ロシアが偽情報を氾濫させ、ウクライナを先制攻撃する口実を与えようとしていると警告している。
  3月23日にバイデン大統領とショルツ首相は、ロシアが生物・化学兵器を使用しようとしていると述べた。またNATOは、生物化学兵器対策支援を打ち出した。
 (生物化学兵器に関するロシアの動向については、3月9日に当研究所が評価した通りの展開となっている。)
  ロシアは死亡者数を過少報告している。3月25日にロシア大統領府は、死亡者が1,351名、負傷者が3,825名と発表したが、3月23日のNATOの試算では7,000から15,000名が死亡したとしている。

④ ロシアの経済制裁への対抗
 3月22日のキーウ独立の報告によると、ロシア最大の戦車メーカーであるウラルヴァゴンザヴォドは、経済制裁により戦車供給停止を余儀なくされたとしている。ロシア連邦保安庁は、軍産複合体への制裁の影響を軽減することを目的とした作戦本部を創設した。また非友好国向けのエネルギー輸出決済は、ルーブル建てしか認めないとしているが、ウクライナのクレバ外務大臣はルーブルで決済しないよう求めている。ドイツのショルツ首相は、ルーブルで決済しないと述べた。
  3月24日にG7諸国は更なる経済制裁を発表し、下院議員や民間軍事会社のワグナーグループも対象にするとした。

⑤ ロシアによる強制移住
  3月24日にマリウポリ市議会は、ロシア軍が1万5000名のウクライナ国民をロシアに強制移住させたと発表した。またウクライナ外務省は、少なくとも6,000名を人質に取り、捕虜交換や移住を目論んでいるとした。

 ⑥ EUとNATOの対応
  ストルテンベルグNATO事務総長は、スロバキア、ルーマニア、ブルガリアの4か国に配置する軍への予算を倍増するとした。現在配置しているNATO軍は各国1,000名ずつとなっており、これが2,000名になるということである。
 欧州理事会は、2030年までに軍及び技術増強のため、予算増額法案を可決した。また本法案は、カウンターインテリジェンスやサイバーセキュリティの増強も含まれている。
 その他ウクライナへの支援予算については、2020年2月の5億ユーロから10億ユーロに増額した。フィンランド、スウェーデン、イギリスは、対戦車ミサイルなどの防衛支援を強化すると述べた。ゼレンスキー大統領は、NATOに無制限の軍事支援を求めた。

⑦ その他の国の対応
  トルコとイスラエルの調停介入は、すぐに成功しそうにない。トルコのエルドアン大統領は、ロシア、ウクライナ両国と停戦協定について会談していると述べ、NATO各国に制裁ではなく停戦に向けて尽力するよう求めた。
  イスラエルのベネット首相は、3月22日の公式声明で、キーウにて停戦調整を行う用意があるとした。またプーチン大統領と2月24日以来6回目となる電話会談を実施した。
  中国外務省の報道官は、G-20によるロシアはずしの動きについて、非G-20諸国もG-20諸国を外す権利があると批判的に述べた。ウクライナのイェルマーク大統領府長官は、中国に停戦の調停役を求めた。
  ストルテンベルグ事務総長は、中国が政治的にロシアを支援していると批判し、中国が物資の支援を開始することについて懸念を表明した。しかしサリバン大統領補佐官は、中国が軍事物資をロシアに支援した証拠はないと述べている。

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