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片平里菜 Redemption リリースツアー2023-2024 ファイナル参戦記録


 はい。行ってきました。このチャンスを逃してはいけないと思って。
 私は最初のmcで言うところの「途中聞くのお休みしていた」観客の1人だ。最初の出会いは10年前fmヨコハマの冠番組だった。「はじまりに」の生歌が上手だったことを覚えている。当時中学校のクラスではボーカロイド、歌い手さんが人気を博していた時代である。誰々は加工だから生歌はそうでも無いけどこの人はすごい、と言った意見交換ががオンラインオフライン問わず繰り広げられていた。そんな中聞いた彼女の声は「本物だ」と直感させざるを得ない。どこで見たか忘れてしまったが、誰かが「ギターと歌で食べていくとはこういうこと」と言ってて十分な説得力のある声だった。
 中学生の脳には「ライブに行く」なんて発想は無く、ただ親の目を盗みつつレギュラー番組を楽しむだけであった。大学受験を目の当たりにした私にとって「この涙を知らない」頃からの記憶が曖昧となっている。ライブから1週間ほど時間が空いた今となっては、なぜ聞き続けなかったのかと後悔している。

 中央後方の上手側に座った私は、初めて触れる野音の空気を楽しんでいた。この日の最高気温は26度。初夏の頃を思わずにはいられない夕方5時は、心地よい涼しい風と缶ドリンクの開栓の音に浸れる時間だった。
 最高にチルしかけていた私の心は、オープニングアクトで再点火することとなる。詞の随所に「ロックバンドがやってきた」など今回のツアーにカスタマイズされているサービス精神も面白い。この日のために地元から駆けつけたのだろうか。
 温まった会場のなか、彼女が最初に選んだ楽曲は「なまえ」。わかった瞬間嗚咽が止まらなかった。6年程間を開けてしまった私に「おかえり」と言ってくれている気がして..冗談抜きに涙が止まらなかった。
 本当にどの曲も素敵だった。以下は印象に残っている曲についての備忘録となる。

「女の子は泣かない」


アコースティックバージョンだと怒りが静かに、でもそれは音源より沸々と湧いてきている感じがした。特に転調後は、確固たる信念を持っていた勇ましい女の子が立ちあがるのが鮮明に浮かんできた。

「ロックバンドがやってきた」
最初はりなちゃんだけだったのが途中からロックバンド入場編成の流れが神がかっていた。提案した方はどなただろう…。

「Blah blah blah」
政治的思想を(特に若い人が)語ろうとすることを忌避されている中で、そういったトピックについて歌うことは、彼女にとっても"シリアスになりすぎてしまうのでは"と危惧していたという。その分難産だったことは、彼女のセルフライナーノーツでも明かされている。それでも没にすることなく曲にしてきた彼女はやはりアーティストなのだろう。


その分、生演奏での迫力もすさまじかった。まず、ギターがあんなに"汚い”音をだせるのか、という驚く。理性を失ったモンスターのような猛々しく吠えるのを初めて聞いた気がする。多分ギターを操る腕も良すぎるだろうけど。
この曲を日本の核ともいえる大企業が連なるエリア 千代田区日比谷で鳴らすのも何というアイロニーであろうか。

「最後のMC 『夏の夜』をうたう前に、彼女が感じていたこと」
「歌うことが好きではなくなって、活動を休止することも考えていた」ことがあるらしい。「好き」を仕事にした人にとっての避けられない宿命なのだろうか。本当に苦しかったのだろうなぁ。それでも、ちょうどコロナ外出自粛での強制的な休止を経て、そのあとも活動を続けた彼女が日比谷で向かえた今日は「自分にとってご褒美みたいな日」だと語っていた。今こうして歌を届けてくれているのは、聞き手にとっても「ありがとう」と伝える他ない。

 とにかく彼女の強さ、優しさ、そして美しさを感じることができたステージだった。会場奥の物販でドネーションを募ったり、小さなお客さんへの「遅くまでごめんね」の声かけだったり。だからみんなから愛されるのだろうなぁ。毎回の曲終わりで感じるゲストたちとの温かい目くばせから伝わってくる「本当に里菜ちゃんのことが好きな人しか集まっていない」素敵な空間を堪能させてもらった。
 本当はもっと語りたいことが山々だが、それはいつか追々。ティーンの頃に出会った彼女の曲の縁が、この形で10年来に花開くとは思ってもいなかった。当時の私に伝えてあげたい、「あなたが今聞いている曲を、10年後東京で感じることになるよ。その好きな心を大切にしてあげてね。」