ホロライブOCG初動売上の考察
2024年9月20日、VTuberグループ・ホロライブプロダクションを運営するカバー株式会社から自社IPを活用した「hololive OFFICIAL CARD GAME」が発売されました。
今回は2,000億円超の国内市場規模を誇るTCG市場に新規参入を果たしたホロライブTCGの初動売上について考察していきたいと思います。
1.hololive OFFICIAL CARD GAMEの概要
考察対象の主な製品は以下の通り(いずれも9/20発売)
・スタートデッキ「ときのそら&AZKi」
税込1,980円
・ブースターパック「ブルーミングレディアンス」
税込5,280円(1BOX12パック入)
企画・開発:カバー株式会社
販売・運営協力:株式会社ブシロード
2.ホロライブOCGの販売動向
株式会社コモンプロダクツが運営するTCG専門販売サイト「トレマ」にて、各月の新品TCGシリーズ別販売金額ランキングが公開されました。
トレマの9月新品トレカ売上ランキングを参考とすると、シリーズ別販売金額では「ホロライブOCG」が全体5位、個別商品販売金額は「ブルーミングレディアンス」が全体6位にランクインしています。
3.TCG販売金額ランキングの詳細考察
先述のランキングでは順位こそ発表されているものの、具体的な売上金額の記載はされておりません。
そのため、今回は過去にSNSで発信されていた情報を基に深堀りしていきます。
①2024年2月のTCG販売売上高
カードゲームデザイナー池田芳正氏のXアカウント(@ikettitencho)から、2024年2月のTCG販売売上高の情報が発信されておりました。
2024年2月のデータと突き合わせると、シリーズ別5位はヴァイスシュヴァルツの15億円、シリーズ別6位はデュエルマスターズ「邪心と水晶の華」の14億円。
当然各月により販売売上高のコントラストは生じているものと思われますが、一つのファクトとして参考いたします。
②2024年4月~6月累計のTCG販売売上高
同様に池田氏からの発信により、2024年4月~6月累計のTCG販売売上高の情報が発信されています。
2024年4月~6月累計のTCG販売売上高5位はヴァイスシュヴァルツの31億円。
発売タイミングにより月毎の売上高にコントラストは生じますが、1か月あたりの平均は約10億円となる傾向です。
2024年9月はホロライブOCGが5位、ヴァイスシュヴァルツが6位の序列となっています。
4.情報源の信憑性
先述の池田氏の情報発信元データは株式会社メディアクリエイトからの情報であるとポストに明記されています。
メディアクリエイト社では、国内TCGの販売実績及び市場情報データを提供されているようです。
ではこのメディアクリエイト社のデータがどれほど正確性を担保しているかですが、株式会社ブシロードの決算説明会において以下のような質疑応答がありました。
この質問者の「4月から6月で売上高13億円」という数字に着目します。
先ほどの池田氏のポストを振り返ると、「プロ野球カードゲーム ドリームオーダー」というTCGの4月~6月累計売上高は13億円と記載されています。
このことから、質問に登場した13億円という数字はメディアクリエイト社からのデータである可能性が高いものと断定いたします。
売上高13億円という数字に対して、会社側の反応は特に議事録上記載が無いため実際の数字との乖離がどの程度生じているかは分かりませんが、少なくとも機関投資家が参考にしているデータであることが窺えるため、一定の信憑性が担保されているものと判断いたします。
5.2024年9月のTCG販売金額考察
考察に際し、これまでのデータを横並びに比較します。
改めて、2024年9月のホロライブOCGはランキング5位の着地でした。
同順位を振り返ると、2024年2月のヴァイスシュヴァルツは売上高12億円、2024年4月~6月累計を月平均とした場合のヴァイスシュヴァルツは約10億円となっています。
2024年2月と4~6月累計の月平均における売上高の傾向は、上位は売上高の乖離が生じているものの、下位の順位ほどほぼ近似した売上高に収束する傾向となっております。
なおランキング5位は長らくヴァイスシュヴァルツが確保していた指定席でした。
このことからヴァイスシュヴァルツの年間売上高を考察します。
引き続き池田氏のポストを参考とさせていただきます。
ヴァイスシュヴァルツは年間売上高においても5位にランクイン。
2023年4月から2024年3月までのヴァイスシュヴァルツ年間売上高は139億円となり月間あたりの売上平均は約11.5億円となります。
ヴァイスシュヴァルツはホロライブOCGと異なり、他社IPを活用して毎月新製品を発売する錬金術のようなTCGです。
枠が足りず記載されておりませんが、9月には「ブースターパック ホロライブプロダクション Vol.1&Vol.2 Re:Mix」が発売されています。
このことから基本的には毎月安定した売上を確保する傾向の商品となっているため、月間あたり平均11.5億円からの上振れ・下振れはさほど生じ辛い性質であると推察しています。
6.ホロライブOCG初動売上の考察結果
これらを踏まえ、以下の通り考察いたします。
・初動売上最低予想値
推定金額:10億円
理由:ヴァイスシュヴァルツ(月平均11.5億)の上位にランクインしているため
・初動売上期待値
推定金額:15億円~20億円
理由:個別商品6位の2024年2月売上高は14億円
ブルーミングレディアンス約14億円+スターターセット1~5億円
この他、メディアクリエイト社のデータにhololive production OFFICIAL SHOPからの販売実績が反映されていない場合、更なる上振れが生じる可能性が想定されます。
7.カバー社とブシロード社の関係性
冒頭にも記載しましたが、ホロライブOCGの企画・開発はIPを保有するカバー社、販売・協力はブシロード社と発表されております。
企画・開発のカバー社
通常、ブシロード社から発売されるTCG製品にはブシロード社のロゴが付きますが、ホロライブOCGの製品にはカバー社のロゴしか記載されておらず、裏面の発行元もカバー株式会社の記載のみとなっております。
このことから、ホロライブOCGの主導はカバー社にあるとみて間違いなさそうです。そのためホロライブOCGの売上高は販売元であるカバー社に入るものと思われます。
協力・販売(製造)のブシロード社
ではブシロード社がどのような役割を果たしているかについてですが、主に2点の役割を担っている可能性が推測されます。
1点目は、ホロライブOCGの開発にあたりブシロード社の助言が大幅に関与しているのではないかという点です。これまで、カバー社が独自で開発・販売を実施したTCG型のカードゲームは存在しておらず、ゲーム性を持つTCGの開発ノウハウは有していないことが推察されます。ブシロード社の株主総会議事録では、「カバー社側から独自のカードゲームを立ち上げるという話がブシロード社へあり、それでは協力しましょうという話となった」という記述(*1)があることから、開発に関し早々にブシロード社と協力関係となった背景が窺えます。
2点目はホロライブOCGの製造~販売をブシロード社が実施しているのではないかという点です。
先述の話から、TCGの生産ラインを持つブシロード社が製造を担うというのは自然な流れです。
特に、ブシロード社は2024年4月にTCGの生産能力を強化するためマレーシアに拠点を構える印刷製造会社の完全子会社化を実施しております。業績への影響は2025年6月期(2024年7月以降)からであると明記されていることから、買収時期からしてもホロライブOCGおよび10月からブシロード社が展開している「五等分の花嫁カードゲーム」の生産を見据えた動きであることが一定推察されます。
併せて、カバー社が有する現地小売店への販売チャネルは限定的です。
グッズ収益は徐々に小売店での販売売上高も増加傾向にありますが、メインプラットフォームは自社のウェブ販売サイトとなっています。
特に、カードゲームの販売網は有していないと推察され、カバー社が販売チャネルを一から開拓するとなると相応の労力を要することが想像されます。
このためブシロード社がTCGを製造後、小売店への卸売まで担っていると想定するのが最も効率的かつ現実的な流れであることから、ブシロード社が製造および販売(卸売)を担っているのではないかと推察いたします。
8.まとめ
様々な反応の声があるホロライブOCGですが、TCGと自社IPとの親和性は高く、継続的に安定した商品になる可能性が高いものと思われます。
特にTCG市場は海外でも拡大しており、ブシロード社では約30%~40%程度が海外向けの出荷となっています。
現在は国内展開に限定されているホロライブOCGですが、将来的には海外、特にブシロード社も強い北米地域での展開も期待されます。
11月に両社が予定している決算において本TCGの動向に関する情報が出てくるものと思いますのでまずは発表を待ちつつ、本TCGが市場の存在感を高めるものになることを期待したいと思います。
最後までお読み取りいただきありがとうございました。