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傍聴席には被害者がひとり、他に男がふたり。被害者の関係者なのかどうかはよくわからない感じだった。信じられない話だが、弁護士は15分遅刻して現れる。罪状認否が行われ、私は記憶になかった件を除き、ほとんどすべての事実を認めた。そして検察の立証が行われ、次に弁護士による立証が行われるはずだったが、弁護士が、資料に目を通す時間がなかったこと、被告人(つまり私)と打ち合わせができていないことを理由に、弁護士による立証は次回ということになり、日程は◯/◯ということになる。私は、そんなバカなと思い、裁判長に

「反省するのみなので、弁護してもらうことはありません」と言ったが、裁判長には

「立証はした方がいいですよ」と言われる。

まだまだ無知だった私は、早ければその日のうちに判決が下ると思っていた(通常なら2日=2回ということらしい)。そしてRさんの予想通りであれば、執行猶予をもらい、即日釈放されることもあり得ると考えていた。拘置所の正担からも、

「かなりの確率で執行猶予はつくだろう」と聞かされていた。しかし、その期待はもろくも崩れていく。

Iくん宛て

✉️Iくん、その後お元気ですか?お仕事には復帰しましたか?わしは現在尼崎拘置所にいます。◯/◯に裁判が行われましたが、弁護士が資料に目を通す時間がなかったという理由で、弁護士の希望によって、判決は◯/◯に延期されるという前代未聞の事態に見舞われたからです。そんな状態なので、Rさんにも連絡することができていません。

そこで、もしも可能なら、わしの近況をRさんに伝えてもらえませんか?さらにIくんにもお願いがある。ちらっとお話ししていましたが、すぐに返せるかも知れないし、時間がかかるかも知れないが、罰金の100万の分も含めて、合計150万を貸してくれないだろうか?
質屋の件など、できることなら何でもする。仕事も手伝う。何とか助けて欲しい。ちなみに、各方面に訊いたところ、わしが執行猶予をもらえるのはほぼ確実とのこと。釈放後に、一緒に、いろいろな楽しいことをしましょう!
◯/◯

🔗✉️ Iくん宛 📖P.25『2022.8.22~』


KZ宛て

拝啓
次回は遅刻されないようにお願いします。
◯/◯までに資料には必ず目を通しておいていただけるようにお願いします。打ち合わせのために、今週必ず面会に来ていただくようにお願いします。
草々
◯/◯

🔗️✉️KZ宛て 📖P. 31『2022.8.22~』

領置金がわずかな中で、切手もろくに買えず、こんな手紙をわざわざ送らなければならないのは、たまったものではなかった。迷惑極まりない。やる気がないのなら、辞めてもらった方がよっぽどありがたかった。しかし残念なことに国選弁護士は、ごく一部の例外を除き、ほとんどは使い物にならないクズばかりだということだった。


弁護士会 市民窓口係宛て

✉️拝啓

恐れ入ります。拘置所にいる者です。国選弁護士としてKZ弁護士にお世話になっております。それで、困っていることがあり、ペンを執らせていただきました。

去る◯/◯に裁判が行われたのですが、KZ弁護士は20分ほど遅刻して来られました。裁判には、予め所要時間が決められていると思いますので、遅刻するというのはいかがなものかと思われます。さらに、被告人との打ち合わせができておらず、また、資料にも目を通していないので、「2週間、時間が欲しい」とのことで、次回は◯/◯ ◯: ◯〜ということになりました。


私としましては、1ヵ月前に裁判の日程は決められていて、資料に目を通す時間は十分にあったように思いますし、打ち合わせする日もいくらでもあったはずです。これをどう考えるべきなのか、理解に苦しみます。

それで、
次回は絶対に遅刻しないでほしい、ということ
◯/◯までに必ず資料に目を通しておいてほしいということ
必ず打ち合わせに来てほしいということ
このことを弁護士会に相談したからといって、裁判で私にとって不利益な発言や行動を取らないようにしていただきたいということ

悪気はありませんので、以上をできる限り穏便にお伝えいただければと思います。

何卒よろしくお願い申し上げます。

草々

✏️しかし、結局この手紙が送られることはなかった。

🔗️✉️弁護士会 市民窓口係宛て 📖P. 30『2022.8.22~』

裁判所から拘置所に帰る護送車の中から見える景色の中にいる人々を見つけると

「ああ民衆だ。民衆がいる」

と思い、ひたすらフツーの人たちが自転車に乗っていたりするフツーの姿が恋しくて恋しくてたまらなかった。シャバでは人間嫌いだった自分にとってこんな思いは生まれて初めてだった。

🔗💠「シャバに恋して」(📖P.57『2023.3.8~』)

裁判の日程が長引くことには大問題があった。前科Vol.1の罰金の支払いができず、放置しておくと、まずこちらが強制執行されてしまうということだった。私は何が何でもそれを防がなければならないと考えていた。

地方検察庁 罰金課宛て

✉️拝啓
私は現在拘置所におります。罰金の件ですが、スマホの中に電話番号や住所などの情報があるのですが、弁護士に操作をお願いしても取り合ってもらえず、いっさい誰とも連絡が取ることができない状況で困っております。お金は、弟に相談する他、自分の所持する高額なものを売ることで作ろうと思っています。ただ、裁判が長引いていて、判決が下るのが◯月◯日近辺になる可能性が出てきています。それで、たいへん恐縮ではありますが、◯月末日までのできるだけ早期にご連絡を差し上げたいと思っておりますので、お待ちいただけないでしょうか?
何卒よろしくお願い申し上げます。
◯/◯

🔗️地方検察庁 罰金課宛て 🔗📖P.31『2022.8.22~』

しかし、後で判明するのだが、このときすでにこの件は、地方検察庁 支部に引き継がれていたと見られ、この手紙には何の意味もなかったのだ。

🔗️📖P. 43『2023.3.8~』

サポートありがとうございます。カルマ・ショウと申します。 いただきましたサポートは作品を完成させるために大切に使わせていただきます。尚、体や精神を病んでらっしゃる方、元受刑者など社会的弱者の方々向けの内容も数多く含むため、作品は全て無料公開の方針です。よろしくお願い申し上げます。