我が社、中興の祖(予定)ルンバ 湯島にて
計算速い女
僕が初めてルンバに会ったのは、ヤツがアシスタントとしてやってきた、岐阜のロケ現場だった。以来、かれこれ3年の付き合いになるが、ヤツについては、いまだにわからないような…… わかるような…… やっぱりわからない。ヤツは、いわば、人間の女のフリをした量子コンピューターだ。ちなみに掃除機ではない。
数学が得意で、計算能力が人一倍高いが、けっして「計算高い女」というわけではない。計算が速いから、物事の判断も速い。ただ、やはり計算が速いがゆえに、「なんでそういう判断結果を導き出したのか」僕には、サッパリわかないことが多い。そういうところも量子コンピューターに似ている。
「美形」に対する考え方も変わっていて、好きな顔はどんな顔かというと、「舐めたい顔」なのだそうだ。「蹴りたい背中」というのは、きいたことがあるけど、「舐めたい顔」っていったい、なんだ?
湯島の居酒屋「もん」にて
とある現場仕事のあと、湯島の居酒屋「もん」に行って、二人でビールジョッキを1杯ずつ空けたとき、当時大学生だったヤツに就職はどうするのか尋ねたところ、「どうすっかな〜?」(演算2秒)「そうだ!いいこと考えた!棟梁の会社で働きたい、入れて」ときた。プログラムの1行目からのゼロ除算で、デバッグモードに入っている僕にヤツは続けざまに「あたし役に立つ、一緒に働くのがいい(真か偽か)」と新たにブーリアン演算をぶっ込んできた。
にべもなく断るのもなんなので、なぜやめたほうがいいのか、ビールサーバーとテーブルを2往復しながら(「もん」の常連は生ビールをセルフで注ぐ、そういうシステムだ)懇々グビグビと説明したが、全部否定、「働きたい」の一点張りだ。小一時間ののち、僕は、半ば面倒くさくなってこう言った。
僕:「ふん ルンバ? 贅沢な名だね 今からお前の名前はルンだ」
ルンバ改めルン:「ありがとう! 私うんと働くね 棟梁っていい人ね」
我が社、中興の祖(予定)ルンバ誕生の瞬間である。
そうだ、最後に、まだルンバに言っていない大事なことがひとつあった。
そのセリフは千尋じゃなくてキキだ。
つづく
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