むかしのこと


昔のことに頓着がないからなのか、

どうやら記憶の維持が苦手らしい。



これは小さい頃からずっとそうで、例えば小学生になったら幼稚園のことなんて忘れているし、中学に入ったら小学校のことなんて忘れている、てな感じ。



多分きっと同意はたくさん得られるんだろうけど、それにしたってわたしの中にももう少しいろんな記憶があったっていい。

断片的に覚えていることなんて本当に知れている。

そしてその大多数が、成長した後に写真で見返して、その時塗り替えられた記憶を覚えているにすぎなかったりするもんだから余計に寂しい。


お母さんからのたくさんの愛情も覚えていないし、お父さんの今では考えられない細くてかっこいい姿も写真でみて覚えてるだけ。お母さんはわたしが小さい頃、たくさんの料理やおやつを作って食べさせてくれていたらしいけどわたしがあまりにも覚えていないもんだからすこしだけ寂しそうに、でもわざとらしくお茶目に「作ったかいがないわ!」なんて言う。

わたしは実はそれがすごく寂しい。




「そういえばあん時、こんなことよーたよな!」なんて言われようもんなら大変だ。(ちなみに岡山弁で再現してみた。意:そういえばあの時、こんなこと言ってたよね!)

記憶の断片を、かけらを、その数ミクロですら思い出せないことなんてたっくさんある。ほんとたっくさん。なのになぜ、とわたしはいつも不思議に思う。何でこの人はわたしが掌からポロポロとこぼしてしまうようなわたし自身の記憶をこんなにも覚えてくれているんだろうか、と。

そしてそれと同時に、またとても寂しくおもう。

同じ時間を共有し、それを半分こしたはずの景色が何でわたしの中にはないんだろう。


覚えていたいからと、いくら一生懸命目をこらしていても、いくら必死に心に留めておいたとしても、綺麗さっぱり。そんなことを考えていたことすら忘れてしまうもんだから仕様がない。


生まれてからの記憶、過ごした場所、遊んだ場所、ほとんどピンとこない。





だけど、自分の中でだけ、確かなことがある。


匂い、は覚えている。



懐かしいにおい。

きっと子供の頃に使っていたであろう石鹸のにおい

思い出すことができないけど、楽しいときに感じたにおい

嬉しい時に感じたにおい

懐かしいと感じることは意外にも多い。

もちろんさみしくなるにおいだってある。

よく言われてるキンモクセイの香りみたいな

胸がギュってなるにおい

あのときとおんなじような朝のにおい





ふと懐かしい匂いがすると、その時の記憶を鮮明に思い出すことがある。




これはちょっとだけ、わたしの自慢。



いつまでも忘れないでいたいし、

忘れないでほしい

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