頭に描く映像は、そのほとんどが撮れない【僕が映画を作ろうと思ってから Vol.1】
僕が最初にビデオカメラを手にしたのは1994年のこと。
以来、ゆうに20年以上が経ち、
自分の映画作品はもちろん、
いろんな人の映画作りのお手伝い、
そして初心者の方のサポートをし続けてきました。
映画制作のノウハウ自体は、
メルマガやフェイスブックページ、
YouTubeなど多岐に渡って発信していますが、
改めて、僕が映画を作り始めてからのことを
数回に分けてまとめてみたいと思います。
僕がたどってきた道はまさに、
「多くの初心者の方が通っていく道」
だと思うからです。
「寄り道」を避けるためにも
ぜひ目を通していただければと思います。
1994年。
広島県のコンビニもない田舎町の実家で、
1台の中古のビデオカメラをおじいちゃんから譲り受けました。
当時、東京の大学生だった僕は、
夏休みを利用して実家に帰省していました。
テレビを買い替えるために
電気屋さんに行ったおじいちゃんが
「これも付けてお安くなります」
とか何とか言われて無理やり買わされてしまったビデオカメラ。
一度だけ沖縄旅行に持って行って使ったものの、
「わしゃぁ、使わんわい」
と言ったのを聞き逃さず、
「じゃあちょうだい」と言ったのでした。
液晶モニターもなく、
レンズも小さい、
どっしりと大きなビデオカメラ。
これを手にした瞬間、
映画を作ろう、
と思いました。
「今まで誰も見たことのない映像を撮ってやろう!」
「個人で作る映画の歴史を変えてやろう!」
と、僕は鼻息荒く立ち上がりました。
とは言っても、
映画の作り方なんて、何一つ知りません。
そして、自分一人しかいません。
さらに、カメラを持って外に出るのが恥ずかしい。
実家の自宅から外に出るだけなのに、
その手に大きなビデオカメラを持った途端、
恥ずかしくなってしまった。
田舎なので、あの子とうとう変なこと始めたよ、と噂が立つのが怖かった。
だから、最初の撮影場所は、家の中と庭だけにしました。
改めて、
「家の中だけで、誰も見たことのない映像を撮ってやろう!」
「アイデアだけで映画の歴史を変えてやろう!」
と、僕は鼻息荒く立ち上がりました。
いざ撮ろうとなると、
頭の中にいろんなアイデアが溢れてきます。
●屋根の上から撮るとすごいんじゃないか。
2階の窓から、屋根に登れるかも・・と、行ってみると、
「あ、無理」と怖くなり、中止。
2階のベランダから庭を見下ろすように撮りました。
高所恐怖症にはキッツい映像が撮れるんじゃないかと思いました。
●塀の上から飛び降りるとすごいんじゃないか。
自分の胸くらいの高さの塀によじ登り、
そこから撮りながら飛び降りる。
地面に激突するような映像が撮れるんじゃないかと考えました。
ちなみに、いつもは両手で体を持ち上げるようによじ登っていて、
片手にカメラを持ったまま登るのが難しい事に気付きました。
●カメラを天井に放り投げて撮るとすごいんじゃないか。
ビデオカメラを録画状態で放り投げてみました。
万が一落とした時のために、下には布団を二重に敷いて。
宙を舞うような不思議な映像が撮れるんじゃないかと考えました。
●超ローアングルで愛犬ランちゃんを撮るとすごいんじゃないか。
当時買っていた愛犬のランちゃんを、地面スレスレから撮ると、
巨大怪獣のように恐ろしい映像が撮れるんじゃないかと考えました。
●部屋の中を走り回るって撮るとすごいんじゃないか。
頭の中には、『スターウォーズ』で
森の中をすごいスピードで飛び抜ける乗り物が浮かんでました。
ビデオカメラを持ったまま、狂ったように部屋の中を走り回る。
ものすごいスピード感のある映像が撮れるんじゃないかと考えました。
そして。
ワクワクしながらTVで再生してみました。
赤白黄色のケーブル(!)で、
ビデオカメラとブラウン管テレビをつないで。
繰り返しますが、当時のビデオカメラには
液晶モニターなんてついていません。
一応再生ボタンはついているものの、
ファインダーから覗いて見える小さな小窓だけ。
そのため、撮った直後に満足に確認ができなかったのです。
人生で初めて撮った(すごいはずの)映像を、
TVで再生して、僕は言葉を失いました。
そこに写っていたのは、
・ベランダから見下ろしただけの平凡な映像
・ガタガタ揺れて何が何だか分からない映像
・可愛い犬の映像
だったからです。
それらの映像のどこにも、
「怖い」「すごい」「スピード感」などは
微塵も無かったのです。
夏休みも終わり、
僕は東京の独り暮らし生活に戻ります。
そして失意の中、あの広島の田舎での映像は何だったんだ、と考えました。
おそらく「室内で完結させようとしたのが問題だったのだ」と結論を出しました。
6畳一間のアパートの中で計画を立てます。
仕方ないので、外に出ることにしました。
とは言え、人がいない田舎ですら恥ずかしいのに、
東京の住宅地でビデオカメラを持ち出す勇気はありません。
そこで余計な工夫をしました。
●カバンにカメラを忍ばせて街を撮る。
・・・これ、ギリギリですね。
●昼間は恥ずかしいので、夜中の住宅地の映像を撮る。
・・・これもギリギリ・・いや、アウトか。笑
●自転車のカゴに載せて、街中を走りまくる。
狭い部屋の中で走り回るんじゃなく、
広い住宅地を走り回るなら成功するんじゃないかと考えました。
●長い坂道を、自転車に乗って下りながら撮影する。
ビデオカメラは、前のカゴに入れた状態で。
スピード感に改めて挑戦したかったのです。
さて、どんな映像が撮れたのか。
「スピード感がない」
「ガタガタ揺れて見られない」
ものばかりでした。
再び、言葉を失うのです。
その後、
模型を燃やしたり、近くの川に行ったりと
「火」「水」を使った撮影、
早朝や夕方に撮る「時間帯別」の撮影など、
カメラをあっちに置いたりこっちに置いたり、
思いつく限り、実験を繰り返していきます。
一人きりで。
いろいろやって分かったことが一つだけありました。
それは・・・
「こういうのが撮りたい!」
と頭に描く映像は、思いつきではほとんど撮れない、
ということだったのです。
実験を繰り返しつつ、
どうやったら望む通りの撮影ができるのか、
を探求し続けました。
そして、
「人を撮りたい」
「ストーリーを撮りたい」
という欲望がふつふつと強くなっていくのです。
第2回に続く。