全てが揃った気がした1999年の夏。【僕が映画を作ろうと思ってから Vol.6】
(前回のあらすじ)
大学生が集まる英語演劇に身を置いたものの、
公演が終わった後はすることがなくなってしまう。
身体はまだ火照っていて、
舞台仲間たちもまた、それは同じだった。
数人で会って飲んでいるうち、
その中の一人が言い出した言葉に、
僕は、ハッとする・・・。
第一回はこちら
* * * *
「映画とかやろうよ」と彼は言いました。
僕らはみんな、「いいね」と言いました。
そこにいた5人で次回会う日を決めます。
その時までに映画の企画を持ち寄ろう、ということになりました。
そして再び集まった日。
言い出しっぺの彼は「ロッキーみたいなのとかいいよねえ」と言いました。
あとは女の子が一人、「友達が考えた物語」を簡単に口にしました。
他のメンバーはアイデア無し。
そんな中、僕だけは全く違いました。
僕は3本のアイデアを用意していました。
そのアイデア一つ一つ、熱っぽく語ります。
数年前まで、たった一人ではあったものの、
何本も映画を完成させている。
その経験から、このメンバーでできることを具体的に話しました。
さらに言うなら、一人の女の子が口にした物語も、どうやって映画にするか、自分のアイデアを語りました。
それを聞いたメンバーの反応は異なりました。
まず、言い出しっぺの彼は、完全に引いてた。
おそらく、深く考えていなかったのでしょう。
ちょっと口にしたら、なんだかこいつ、マジになりやがった、と。
そしてもう一人も、その場ではニコニコして聞いていましたが、その後連絡しても反応がなくなりました。
残ったのは女の子2人だけ。
彼女たちは素直に「やろうやろう」と手を叩きました。
とはいえ、いきなりメンバーは縮小してしまった。
そんな不安は、一瞬で吹き飛びます。
「私、他に声かけるよ」
あまりコミュニケーションが得意でない僕には天の声に聞こえました。
それに、女の子から声かけしてもらった方が集まりはいい(^^)。
リーダーシップというものの正体はよく分かりませんが、
人をまとめたり惹きつけるには、
A)人物が魅力的である
B)提案が魅力的である
のどちらか(もしくは両方)が必要だと思っています。
その時の僕は間違いなく、B)を具体的に提示できたのです。
* * * *
誰かと一緒に映画を作るって、こんなにワクワクするんだ。
数年前まで、一人で部屋の中でジメジメと映画を作っていたのに、今は友達と(女の子たちと!)映画を作る計画を立ててる。
そして、もうコマ撮りを作らなくていい!
(さすがに飽きた)
彼女たちが声をかけてくれて、「映画作ってみたい」という数名が集まりました。
おそらく彼、彼女たちも、一体何をするのか、いまいち分かってなかったと思います。
その記念すべき、「仲間と作る」第1作は、
原作:星新一
でした。
企画を話すとき、全くのオリジナルストーリーではなく、僕が好きな星新一の短編を選んだのです。
近未来。
ドアの鍵は全て、「合言葉」で施錠・解錠ができるようになっている。
主人公のカップルは、お互いの合言葉を決めていたが、ある時大げんかをしてしまい、女性は中から合言葉を変えてしまう・・・。
よくできた物語は、パッと聞いて「面白そう」と思える。
当時、たまたまだったと思いますが、これが功を奏しました。
・出演者は男女2人。
・出演者の女の子の部屋で撮影。
・機材はカメラ1台と三脚。
・スタッフ3人。
当日、みんなで部屋に集合します。
手元にはシナリオなんてものはなく(そもそもシナリオが必要、ということも知らない)、星新一の小説のコピーがあるだけ。
これまでだって、頭に思いついた流れをそのまま無計画に撮っていただけ。
とりあえず部屋に集合したので、部屋の中のシーンから撮影しようということに。
スタッフに部屋の片付けを頼み、僕はカメラのセッティングを始めました。
セッティングが終わってから振り返ると、みんなが思い思いにモノをどかしたため、綺麗に何もなくなっていました。
6畳の部屋の中に、小さなテーブルが一つ。以上!
後日、映画を見た人が「刑務所みたい」と言いました。
(イメージ↓)
そのあまりに生活感のない光景に一瞬ひるんだものの、じゃあどうしたらいいのか、ということも思いつかず、そのまま撮影開始。
演出だとか、
カメラワークだとか、
何も知らないというのはむしろ、僕の場合はガンガン前に進めるメリットとなりました。
(今なら考えなきゃいけないことがいっぱい思いつく!)
ここでいきなり、小説の表現に固まります。
●二人はささいなことで喧嘩をしてしまう
おっと、これをどう撮ればいいんだ!?
僕は役者二人に言いました。
「最初は普通に会話してるんだけど、だんだん喧嘩して」
二人は、え?!って感じになります。
「だいたいでいいから」
この時助かったのは、周りがみんな演劇出身者だったこと。
演劇の稽古では、即興劇をよくやるんです。
二人はよくわからない理由で喧嘩を始め、男は立ち上がり部屋を出て行きました。
監督である僕は「オーケー!」と言いました。
何しろどれもこれも一発OKなので、意外にサクサクと撮影は進みます。
僕にとってみれば、自分がやりたい撮影にみんなが協力してくれてるんだから、文句などあるわけがありません。
部屋から外の撮影に移ります。
僕一人だった時は部屋を出てカメラを回すのが恥ずかしくて仕方なかったけれど、こうやって仲間がいると途端にワクワクしてきます。
オープニングは、二人が仲良く部屋に向かって歩いていくシーン。
ただ二人を後ろから撮るのはツマラナイので、クレーンで追うように撮りたい!
でももちろん、クレーンなんてものは持ってません。
すると、「俺が肩車するよ」と大柄なスタッフが。
僕は小さいので、肩車してもらい、下の彼がゆっくりと持ち上げてくれました。
大騒ぎしながら撮りましたが、落ち着いて後で見返すと、「ちょびっとだけ映像が上にズレた」程度の効果でした。
クレーンの映像ってのは、もっともっとグーーンと上に上がっていくんですね。
一人の時と同じく、僕は実体験を通して、少しずつ「考えた理想と現実の違い」を知っていくことになります。
その時の映像がこちらです。
夕方には撮影は終了しました。
撮った映像は、部屋の中でみんなでTVにつないで鑑賞。
編集も何もしてません。
画面の右下に日付を消し忘れたのも、ご愛嬌。
それでも、なんだかしみじみと嬉しかったんです。
ある意味、僕は初監督をした気分でした。
その日は、バイトがあるとか用事があるとかでバラバラとみんなが帰っていき、僕と主演だけが駅前の居酒屋さんに打ち上げに行きました。
気分は高揚していて、メニューにあった<カエルの唐揚げ>を注文したのを覚えています。
後日、ビデオデッキにつないで編集をしました。
音楽は、サザンオールスターズ。笑
レンタルCD(!)で音源をゲットしました。
著作権だのなんだのと、その時は考えもしません。
1999年、盛夏。
カメラと三脚がある。
作りたい映画の企画がある。
手伝ってくれる仲間もいる。
もう、全部揃った気分でした。
ここまで来たらもう、撮りたい気持ちが止まるわけがありません。
(続く)