名前は後から知った
音楽の趣味が合う友達が、高校生のときにいなかった。それで、ライブに行くときはいつも一人だった。大好きなバンドを見にライブハウスに行くのだが、少し大人向けのバンドだった。フロアに椅子が並び、平日だとお客の集まりも遅い。早めに会場に着くと、最前列が空いていたりした。真ん中に座る。目の前、本当にすぐ手が届きそうなところにバンドのメンバーがいて、演奏が始まる。
ドラムの人が、突然キラキラした不思議な楽器のようなものを手にして目の前に降りてきた。私の前に差し出す。ちょっと持ってて、ってことらしい。わけがわからないままそれを持つと、その人はキラキラした楽器を鳴らした。音もキラキラしていた。
短い時間のはずだけれども、長かったような。何が起きたかしばらくわからないような。テレビやラジオの中の人が、なぜ私に楽器を持たせてくれたんだろう。いや、なぜとか、理由とかなくて。ミュージシャンの人はこういうふうにするものなんだな。それにしても驚くじゃないか、などと、起こったことを、さっきの状況を頭の中で反芻していた。帰り道もキラキラしたままだった。頭の中が。
ウィンドチャイムという名前だとだいぶ後に知った。名前もキラキラだった。
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